もし今の日本製造業を駅伝にたとえたら?心技隊流「未来を創るヒント」

駅伝と仕事はよく似ている。そして、日本企業は、スタートでつまづいた状態から走り出すことが、なぜか多い。そして、2区以降で無理をさせる……。

» 2013年01月09日 06時00分 公開
[伊藤昌良/エムエスパートナーズ,MONOist]

 健やかな年明けを迎えて、新年の目標を心に秘め、気合がみなぎっているという方も多いのではないだろうか。エムエスパートナーズは、「お正月の風物詩」となっている、箱根駅伝のコースが見おろせるロケーションに建つ“ペンシルビル”(文字通り、鉛筆のように細長いビルだ)の7階に事務所がある。今年は、日体大が30年ぶりの優勝という結果。事務所から競技の様子をしっかりと見させてもらったが、別にそのためにこの場所を事務所に選んだわけではない。ただ、私自身が「駅伝好き」であることは間違いない。

 私は常々、「仕事は、駅伝のようなものだ」と考えている。以降、少々まわりくどい書き方をするが、どうかお付き合い願いたい。

 駅伝は1本のタスキをつないでゴールを目指す。仕事も見えないタスキをつないで結果を出す。スタート時や走行途中で遅れれば、ゴールだって遅れるのは駅伝も仕事も同じだ。ただし駅伝では、大きく遅れた場合には、繰り上げスタートというものがある。一方、仕事は、そうであっても繰り上げなんてさせてくれない。遅れをカバーするのが仲間だというのなら、「仲間に負担を掛けないようにする」のが、仲間同士のお約束だ。そこに信頼関係がなければ、魂を込めた走りなどできるはずもない。一度遅れたら、取り戻すには他者を上回る走力(総力)が必要だ。

 現在の日本は、世界を相手に、ハイレベルな競争をしているのに、“1区での判断”が非常に遅い。スタートでつまづいた状態で仕事がスタートすることが、なぜか多いのだ。「スタートでつまづいた分、2区以降で毎回区間賞を取って、必ず優勝しろ!」ということを平気で要求する会社が増えたと思う。

 このような要求をするのは簡単だが、言っている本当の意味が分かっているのだろうか? 遅れを取り戻すためには、リスクを背負う人が必ず出る。そのためのスピードは、リスク(ケガ)を呼び込む。問題は、「誰がリスクを取るか?」。普通に考えれば、「手を抜いた人」だろう。そして、リスクに対する対価もなくなりつつある。

 2区以降が頑張って成り立っているのに、なぜだか1区のヤツがわがもの顔でインタビューを受けているのが、今の日本における産業構造ではないだろうか? 今の大企業は、金も名誉も、わがもの顔で持っていくのだが、苦労して支えているのが誰かすら理解しない、もとい、理解しようとしないことに、とても危機感を感じている。

 世界との競争を勝ち抜くだけの能力を日本の産業界は持っている。誰かが手を抜かなければ、もっと速いスピードで無理せず、トップでゴールを目指せる。まだ、そのポテンシャルは持っているはずだ。

 それぞれが、それぞれの役割をしっかり担うだけで、日本は復活することができる。私はそう思う。大企業には大企業の役割があって、中小企業には中小企業の役割がある。そこで働くわれわれ一人一人にも、またそれぞれの役割がある。その役割を担うために、それぞれの会社があり、一人一人のポジションがある。

 いよいよ2013年がスタートした。あなたはどの役割のタスキを持っているのだろう。次区間に迷惑を掛けないために、精いっぱい走り通す。今は、何よりもそんな精神が大切なのではないだろうか。それが、“全日本チーム”のタスキを次世代につなぐため、現役世代のわれわれに課せられた役割ではないだろうか。

Profile

伊藤 昌良(いとう まさよし)

1970年生まれ。2004年に株式会社エムエスパートナーズを創業。加工部品専門の技術商社として、アルミ押し出し形材をはじめ切削加工部品やダイカスト製品などを取り扱う。「役割を果たす技術商社」を理念に掲げ、組み立てや簡易加工を社内に取り込みながら、協力会社と共に一歩前へ踏み出す営業活動を行っている。異業種グループ「心技隊」事務局長。「全日本製造業コマ大戦」の運営でも事務局を努め、製造業界に必要とされる活動を本業の傍ら日々取り組んでいる。


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