大企業は倒産しづらい? 中小企業は危ない? 実は、そんなことはないかもしれない。少し違う見方をしてみよう。就職活動に悩む学生に向けたメッセージも。
編集部注:この記事は筆者ブログ「MSP社長の戯言ブログ」の過去投稿(2010年11月23日)に加筆・修正したものです。
ここ何年も「学生の就職難」についてニュースなどで繰り返し報じられている。「雇用のミスマッチをなくそう」といった取り組みもさまざまな方法で試されている。過去は、終身雇用制が長く続いたといわれているが、果たして、本当にそうだったのか?
大企業に限って言えば、間違いなくそうだったのかもしれない。しかし中小企業は、少し違ったのではないだろうか。企業の倒産件数推移を見ても、GNPが世界2位になった1968年は年間1万件前後。オイルショック明けの1976〜1987年にかけては、毎年1万5000件以上だった。その後、バブル景気に突入した1988〜1991年は、毎年約6500〜1万件程度に件数が落ちたが、現在まで年間12000〜15000件前後を推移し続けている。
大ざっぱだが、このデータを見る限り、過去と中身は違うが、件数だけで見れば、30年前の状況と現在はほぼ同じ。違うことと言えば、現在は大企業でもあっさり倒産することぐらいだろうか。
“あっさり”といえば……、今から約30年前、1980年前半の就職事情と、今の就職事情の違いを考えると、就職難も少しは違う見方ができるのではないだろうか? 1980年代以前の高度成長期で多くの会社が成長期であり、大企業は優秀な人材を積極的に求めていた。また終身雇用で育てることを前提に大卒を優遇し採用してきた。しかし現在、景気の先行きが不透明となり、「育てること」を前提とした採用にすっかり消極的になってしまった。実際、“使えない”新入社員がある一定存在することを見込んだ歩どまりでもって採用をしている大企業は多い。つまり最初から、余剰人員になることを前提に採用していたのだ。
だが就職する側の意識は、なんだかんだ言っても終身雇用的な意識がいまも抜けず、倒産しづらい“だろう”大企業に目が向いてしまう。それは、親の影響も大きいのだろう。名前を知っている会社の方が安心だし、寄らば大樹の陰的に考えれば最適な選択なのかもしれない。しかし、「倒産件数自体は、今も昔も大きく変わらないのに、大企業が倒産する現在」を冷静に見ると、違う見方ができないだろうか?
倒産のリスクは、どの企業にもある。そして大企業は、そのリスクが低いのか?
大企業は倒産しない代わりに、余剰人員の大胆なリストラを実施している。これは、中小企業における倒産とほぼ同じことではないだろうか? つまり中小企業の倒産と同じように、目に見えない「職を失うリスク」が大企業にも存在するということだ。
データだけを見れば、中小企業が倒産する件数は大企業に比べて多い。しかし、それはあくまで「数字上、多い」と言うだけだ。
実際に、倒産する割合からすれば企業規模に関係なく、業歴にも関係なく「倒産する企業は倒産する」といったところだ。リーマンショックのあった2008年は、当時の上場企業約2000社のうち、約30件の上場企業が倒産している(帝国データバンクの調査)。つまり、約1.5%が倒産したことになる。
一方、2008年の中小企業の倒産数は、約15000社(東京商工リサーチの調査)。当時の中小企業の総数が300万社だったとすれば、約0.5%ということになる。
このことを理解した上で、就職難に喘いでいる学生には企業選択の幅を広げてみてほしいのだ。
そんなことで仕事を選ぶのではなく、自分の直感で「この仕事面白そう!」と感じた企業を選んでみてはどうだろうか? まずは、その仕事をやってみて、ある程度のスキルを身に付ければ、同じ業界の少し大きな会社への転職も可能だ。もちろん、自分の努力次第だが。
お金を気にする気持ちも分かる。お金がないと出来ないことだってある。しかし仕事は、お金だけではないことを、社会に出て経験を積み、何年かすれば、気が付くと思う。企業を選ぶポイントが、最初からお金ありきでもいいが、若いうちは「楽しい仕事」が基準でもいいのではないか。就職はスタートでつまずくと、後から取り返しがつかないとは言うが、それは「大企業に入ることは素晴らしい」ということが前提の考えではないだろうか。
「イッパイお金をもらって」「イッパイ休みがあって」……って言うのは確かに理想かもしれない。しかし実際、土日はきっちり休み、しかも高収入なのに、「人生がツマラナイ!」と大企業の会社員が会社を辞めて起業するケースがよくある。人は、それを「もったいない」と言ったりする。しかし考えてみれば、社会に出て働いている間は、人生の2分の1を仕事に費やすことになる。そのほとんどが苦しい時間だとしたら、それは不幸だとは思わないか?
今や最近の中小企業は自社のWebページを持っている。20年前と違って、どんな企業があるのか、自力である程度調べられる。あまりよく知られていないようだが、業績の良い中小企業は結構あるし、積極的に人材を求めている会社も多い。
「仕事がない」のではなく、「仕事がある場所を見ていないだけ」なのではないか。学生の就職活動の方法に問題があるとは思うけれど、本気で仕事が欲しいなら、「待っているだけ」「大人が敷いたレールの上を走るだけ」では駄目だ。私の拙い経験では、こう思う。
学生の皆さんへ。「何か聞きたいことがあれば、メールをくれれば知っていることなら何でも答えるよ。諦めずに、前向きに、頑張って欲しいと思う。だって、君の人生は、君自身が豊かにするしかないのだから!」
伊藤 昌良(いとう まさよし)
1970年生まれ。2004年に株式会社エムエスパートナーズを創業。加工部品専門の技術商社として、アルミ押し出し形材をはじめ切削加工部品やダイカスト製品などを取り扱う。「役割を果たす技術商社」を理念に掲げ、組み立てや簡易加工を社内に取り込みながら、協力会社と共に一歩前へ踏み出す営業活動を行っている。異業種グループ「心技隊」事務局長。「全日本製造業コマ大戦」の運営でも事務局を努め、製造業界に必要とされる活動を本業の傍ら日々取り組んでいる。
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