GM、フォード、クライスラー、BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェといった米国とドイツの大手自動車メーカー8社が、電気自動車(EV)の充電システムの新規格「Combined Charging System」を発表した。国内自動車メーカーが推進するEV用急速充電システム向けのCHAdeMO(チャデモ)規格に対抗するもので、1個の充電コネクタで普通充電と急速充電の両方を行えることを特徴とする。
米国とドイツの大手自動車メーカー8社は2012年5月3日(米国/欧州時間)、電気自動車(EV)の充電システムの新規格「Combined Charging System」の策定や市場導入で協力する方針を発表した。同規格に準拠する急速充電器の市場導入は2012年後半から、EVの市場投入は2013年内を計画している。5月6〜9日まで米国ロサンゼルスで開催されているEV技術のシンポジウム「EVS26(26th International Electric Vehicle Symposium)」では、同規格に準拠した充電システムのデモンストレーションが行われる予定だ。
今回協力を発表したのは、米国のGeneral Motors(GM)、Ford Motor(フォード)、Chrysler(クライスラー)と、ドイツのBMW、Daimler(ダイムラー)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Audi(アウディ)、Porsche(ポルシェ)である。フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェの3社はフォルクスワーゲングループの傘下にあることから、実際には5社1グループによる発表となる。
Combined Charging Systemの特徴は大きく分けて2つある。1つ目は、普通充電と急速充電の両方を1個の充電コネクタでカバーできることだ。三菱自動車の「i-MiEV」や日産自動車の「リーフ」など現行のEVは、単相の100V/200V電源を使って充電する普通充電コネクタと、国内の自動車メーカーと電力会社が中心になって策定したCHAdeMO(チャデモ)規格に準拠する急速充電コネクタを1個ずつ搭載している。Combined Charging Systemであれば、これらを1個の充電コネクタに統合できるので、EVや充電器の部品コストやメンテナンスコストなどを低減できる。また、急速充電を行う場合、最短15〜20分で充電を完了できるという。
2つ目の特徴は、直流電力を使った充電にも対応したことである。現在の電力インフラは交流電力による供給が中心で、電気/電子機器などではこの交流電力を機器内部で直流電力に変換して使用している。EVの充電についても、普通充電の場合は車載充電器を使って直流電力に変換して、急速充電の場合は急速充電器側で直流電力に変換してから、二次電池に充電している。この交流−直流変換による損失を削減するために、直流電力を使った電力供給が検討されている。Combined Charging Systemは、この直流電力を使った普通充電と急速充電にも1個の充電コネクタで対応できる。
米国自動車技術会(SAE)は、Combined Charging Systemを急速充電システムの標準規格として採用する方針である。単相の交流電力を使う普通充電システムの規格であるType1(規格名:SAE J1772-2009、IEC 62196-2)を拡張して、2012年夏までに規格を正式に発行する。一方、欧州自動車工業会(ACEA)は、2017年から欧州市場への導入が始める見通しの、交流の普通充電と急速充電、直流の普通充電と急速充電に1個のコネクタで対応できる充電システムにCombined Charging Systemを採用する計画である。
現在、EVの普通充電コネクタの規格としてはType1が主流となっている。一方、急速充電コネクタとしては、i-MiEVやリーフに搭載されているCHAdeMO規格が、国内のみならず海外でも導入が進んでいる。CHAdeMO規格を策定しているCHAdeMO協議会によれば、CHAdeMO規格に準拠する急速充電器は、2012年4月27日時点で国内に1154台、海外に239台設置されているという。
一方、Combined Charging Systemは、国内の自動車メーカーがグローバル規格として推進しているCHAdeMO規格に対抗するために、米国とドイツの自動車業界が数年前から規格の内容をすり合わせてきたものだ。Type1をベースにすることで普通充電と急速充電を1個のコネクタでまかないたい米国の自動車メーカーと、直流電力への対応を求める欧州の自動車メーカーの要求をともに満たしている。
なお、CHAdeMO規格は、急速充電器で交流から直流に変換した電力をEVに送るコネクタや通信プロトコルの仕様である。このため、原理的には直流電力をEVに送ることも可能だ。
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