「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第12回は、国際両備フェリーの旅客船「おりんぴあどりーむせと」を用いた「レベル4相当」自律運航の実証デモについて、操船ブリッジからのかぶりつきレポートをお送りする。
2026年1月22日、瀬戸内海の児島湾口(岡山市東区の久々井漁港南西沖)で、国際両備フェリーの旅客船「おりんぴあどりーむせと」を用いた自律運航の実証デモが報道関係者向けに公開された。離桟から避航、そして岸壁手前までの自動着桟において自律状態で航行し、同船が「レベル4相当」の自律運航機能を備えていることをアピールした。
「おりんぴあどりーむせと」は、国際両備フェリー所属のカーフェリーで、全長65.56m、総トン数942トン、速力13.0ノット、旅客定員数500人、積載台数普通乗用車60台または観光バス10台。2019年5月1日就航。外航船のラウンジを思わせるインテリアや露天甲板にアニメキャラクターのミニトレインを走らせるなど、「海を走る遊園地」をコンセプトに掲げる[クリックで拡大]この実証デモは、日本財団が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」第2ステージの取り組みの一環として実施された。MEGURI2040は、2020年度から始まった海事分野の自律化プロジェクトで、第1ステージでは要素技術の成立性検証を進め、第2ステージでは、単なる技術実証にとどまらず、「社会実装」を明確な目標に掲げるなど、自律航行技術を商用航路で継続的に運用し、制度面と運用面を含めた実装条件の整備まで視野に入れている。
本プロジェクトでは、複数の海運事業者やメーカー、研究機関を横断する形で資金支援と進行管理を担うことで、技術開発と制度整備を並行して進め、国際的な自律運航ルール形成にも資するデータ蓄積も目指している。
今回実証デモを実施した「おりんぴあどりーむせと」は、定期旅客航路に就く現役の船で、国土交通省による2段階の船舶検査を経て「自動運航船」としての証書を取得した。プロジェクトでは「レベル4相当の自動運航」と訴求しているが、この「レベル4」は自動車分野の自動運転レベルとは異なり、船舶においてその条件はより多層的に設定されている。
そもそも前提として、海事分野の自律運航(自動車でいうところの自動運転に相当)は、国際海事機関(IMO)においてMASS(Maritime Autonomous Surface Ship)の定義やコード化がいまだに議論中で、法的に確立した「レベル区分」が存在するわけではない。そのため今回のデモで訴求している「レベル4相当」は、特定条件下で人の継続的な操船操作を必要とせず、自律システムが航行判断から舵/推進器制御までを実行できる能力を備えることを指す“便宜的な表現”となる。
ここで重要なのは、「常時無人」や「完全放置運転」を意味しないことだ。今回の実証で示された自律運航は、事前に定義された航行可能エリア内で、環境条件や交通状況が想定範囲内にある場合に、システムが衝突リスク評価、回避ルート生成、減速、変針を提案し、舵と推進器を自動で制御する、という限定条件付きの自律になる。そのため、これらの条件を外れればシステムは自律レベルを引き下げ、乗組員による操作へ移行する。
さらに、船内には有資格の船長もしくは航海士が配置され、いつでも手動介入できる状態を維持している。また、陸上支援センターによる遠隔モニタリング体制も確立して、運航データやステータスを常時監視する。このように、船でいうところのレベル4相当とは、「人が存在しない」ことではなく、「人が常時舵を握らなくても航行が成立する」状態を制度的に許容した運用形態といえるだろう。
また、船舶特有の難しさとして、外力(潮流、風、浅瀬影響)や輻輳(ふくそう)密度の変動が大きく、それが故に機敏な回避が困難な点も挙げられる。そのため自律システムは単に設定された航路をトレースするのではなく、制約を前提としたリスク評価と状態の遷移を見越した制御を行う。システムが提案してきた減速や避航を、必要に応じて人が承認もしくは却下する設計も、海事版レベル4の重要な特徴といえる。
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