おりんぴあどりーむせとに導入された自律運航システムは、単一のAI(人工知能)が判断する構造ではなく、複数のレイヤーを組み合わせた分散型アーキテクチャで構成されている。判断系、検証系、実行系を分離し、それぞれが役割を担うことで、安全性とシステムの見通しを確保している。
「おりんぴあどりーむせと」に導入された自律運航システムの構成とそれぞれの参画企業を示す。レーダーなどのセンサー群が周囲状況を把握し、プランナーが回避ルートを生成、APUがその安全性を評価する。DTCが操船を自動制御し、CIMが自律運航の可否を判断する多層構造により、安全性と運用責任を両立している[クリックで拡大] 出所:日本財団まず最上位に位置するのが、航行判断を行う「判断系」だ。実証では、回避ルートを生成するプランナー、船体性能や水深、航行制限を考慮して計画の妥当性を評価するAPU(Action Planning Unit)、さらにこれらシステムのステータスを管理するCIM(Central Information Management)など各系統が並列的に機能していた。プランナーが他船との衝突リスクを検知し、代替ルートを生成すると、APUがそのルートが安全に実行可能かどうかを再評価する。加えて、着桟局面では低速域での精密な位置制御を担当するシステムが自律運航を主導する。
なお、おりんぴあどりーむせとは、日本海洋科学の「ARS(Advanced Routing Simulation and planning)」、常石ソリューションズ東京ベイの「iRPS(intelligent Route Planning System)」、三菱造船の「SB-X(SUPER BRIDGE-X)」といったベンダーが異なる3種類のプランナーを搭載している。また、APUは古野電気が、CIMは三菱造船と古野電気がそれぞれ開発している。
プランナーが3台あるのは、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場するNERVのMAGIシステムのように多数決で決める……、からではなく、限られている実証航海で可能な限り検証の機会を用意して精度を上げるべく複数のシステムを搭載するためだ。それぞれのシステムは連動することなく別々に動作している。
次に重要なのが、実行系であるDTC(Dynamic Thruster Control)だ。DTCは舵角やプロペラ出力、スラスターを統合的に制御し、判断系が決定したルートや速度目標を物理的な操船動作へと変換する。特に着桟時には、潮流や風といった外力を補正しながら、目標位置に対して滑らかに収束させる制御が求められる。おりんぴあどりーむせとは、常石ソリューションズ東京ベイの「sMCS(seamless Maneuvering Control System)」を実装する。
自律運航システムを構成するシステム。左からDTC(sMCS)、プランナー(iRPS)、プランナー(ARS)、評価ユニット(APU)、プランナー(SB-X)。iRPSとARSは1台のディスプレイを共有している[クリックで拡大]これらの上位層を支えるのが、周囲環境認識を担うセンサー群だ。レーダー、AIS(自動船舶識別システム)、電子海図情報に加え、風向風速や船体挙動データを統合し、システムは航行可能エリアをあらかじめ定義した空間として把握する。プランナーのディスプレイに示す緑色の航行可能範囲や許容偏差の設定は、自律運航システムが把握している空間の認識状況を可視化したものといえるだろう。システムは「どこに行くか」だけでなく、「どこに行ってはならないか」を常に計算しながら動作している。
さらに、自律運航のレベルは固定ではなく、環境条件に応じてステータスが遷移する設計となっており、必要に応じて船長や航海士が即座に手動介入できる。この「提案&承認型自律」ともいえる協調構造が、確実な安全性を必須とする商用運航への自律運航システムの導入を可能にしている。
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