ギガキャストを発案したテスラの現在・過去・未来いまさら聞けないギガキャスト入門(5)(1/7 ページ)

自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第5回からは、ギガキャストを発案したテスラの取り組みを紹介する。今回は、テスラという会社について着目し、その歴史やクルマの開発状況、工場の展開などについて見てみる。

» 2026年05月26日 08時00分 公開

1.はじめに

 本連載「いまさら聞けないギガキャスト入門」では、第1回でギガキャストが騒がれる理由、第2回でギガキャストの歴史と基本技術の鋳造法であるダイカスト法の概要、第3回でギガキャストに用いられる装置である超巨大ダイカスト成形機「ギガプレス」を実現したイタリアのIDRAとFSA(Foundry Star Alliance)の取り組みを、第4回ではギガプレスの本体を開発したIDRAグループと、ギガプレスの動作サイクルの詳細を取り上げた。

 今回の第5回からは、ギガキャストを発案したテスラの取り組みを紹介する。今回は、テスラという会社について着目し、その歴史やクルマの開発状況、工場の展開などについて見てみる。

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2.テスラの沿革

 テスラは、発明家ニコラ・テスラ※1)に敬意を表した社名を持ち、2003年7月にマーティン・エバーハード氏※2)(初代CEO)とマーク・ターペニング氏(初代CFO)によって米国デラウェア州でテスラモーターズ(Tesla Motors)として設立された。同社の目的は、EV(電気自動車)や太陽光発電によって得られる持続可能な輸送とエネルギーへの移行を促進することである。表1にテスラの沿革を示す。

表1 表1 テスラの沿革[クリックで拡大]

※1)ニコラ・テスラ(Nikola Tesl、1856〜1943年)は、セルビア系米国人の発明家、電気技師、機械技師。交流電気方式の発明者で、その他にも交流送電システム、テスラコイル、無線通信、地球規模の無線送電「世界システム」、全世界的な無線通信網(Wi-Fiの原型)、遠隔操作(リモコン技術の原型)など現代の電気技術の基礎を築き、エジソンとの「電流戦争」に勝利したことで有名。

※2)マーティン・エバーハード(Martin Eberhard、1960年〜)は米国のエンジニアで起業家。2003年7月にマーク・ターペニングとともにテスラ(当時はテスラモーターズ)を共同設立。エバーハードは初代CEOとして2007年末まで務めた。2015年にはイリノイ大学工学殿堂入り。1982年、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校でコンピュータ工学の学士号を取得。ワイズ・テクノロジーで電気技師。1984年、同校で電気工学の修士号を取得。1987年、Network Computing Devicesを共同設立。1992年、IPOまでチーフエンジニア。1996年、マーク・ターペニングとともにNuvoMediaを設立。2000年、NuvoMediaがGemstarに買収されるまで会長兼CEO。2003年、カリフォルニア州メンローパークでマーク・ターペニングとともにテスラモーターズを設立し初代CEOに就任。2019年、Tiveniを設立。

1)創成期と高性能スポーツカーによる基盤確立(2003〜2011年)

 テスラの歴史において決定的な転換点は、2004年2月のシリーズAラウンドの資金調達であった。このラウンドをイーロン・マスク氏が主導するとともに、同氏も私財から650万ドルを拠出。そして、テスラの取締役会長ならびに筆頭株主として経営に参画した。マスク氏は後にCEOに就任し、創業期に私財のうち7000万米ドルを投じるなど、初期の資金供給を担った。J・B・ストラウベル氏も2004年5月にCTOとして入社した。

 2006年に初のコンセプトカー「テスラロードスター」を発表し、2008年2月に量産車を納車開始した。これはEVのイメージを一新する高性能スポーツカーであった。この成功と、2008年5月にロサンゼルスで開始した独自の直販モデルが初期の基盤を築いた。

 資金調達面では、2009年6月に米国エネルギー省から4億6500万ドルの利子付き融資を受ける承認を得た。これは2013年5月に早期に全額返済された。また、2009年5月のDaimler、2010年5月のトヨタ自動車との資本業務提携は、企業の信頼性を強化した。2010年6月にはNASDAQへ上場し、資金調達能力を強化した。2010年1月にはパナソニックと次世代バッテリーの共同開発を発表しており、後の「ギガファクトリー」構想の土台となった。

2)主力モデルのブレークと製造革命の開始(2012〜2016年)

 2012年6月、テスラは主力セダンである「モデルS」の納車を開始した。モデルSは、航続距離と性能、そして先進的なソフトウェア技術でEV市場の評価を一変させ、テスラを高級車ブランドとして確立した。

 EV普及の鍵となるインフラ面では、2014年9月に超急速充電ネットワーク「スーパーチャージャー」の提供を開始。製造面では、同月にネバダ州でパナソニックと合弁による大規模電池工場「ギガファクトリー」の建設に着手し、バッテリーの内製化とコスト削減の道を開いた。2015年9月には、SUVの「モデルX」を出荷し、車種ラインアップを拡充した。

 2016年には、ソーラーパネルメーカーのSolarCityを買収し、エネルギー事業をテスラに統合した。この事業多角化に伴い、2017年1月には社名を「テスラモーターズ」から「テスラ」へと変更した。

3)大衆化への挑戦とグローバル化(2017年〜2020年)

 2017年7月、テスラは低価格帯の大衆向けEVである「モデル3」の納車を開始したが、生産の高度な自動化を目指したが故に、「生産地獄」と呼ばれる量産体制の立ち上げの大きな困難に直面した。

 この間、2017年6月にトヨタ自動車との業務提携は解消された。テスラはグローバル展開を加速させ、2019年1月には海外初の生産拠点として中国の上海ギガファクトリーの建設を開始した。また、2019年5月にはバッテリー技術強化のためMaxwell Technologiesを買収した。

 2019年11月には、ステンレス製の特異なデザインを持つピックアップトラック「サイバートラック」のプロトタイプを発表し、大きな話題となった。そして2020年3月には、販売の主軸となるSUV「モデルY」の出荷が開始された。このモデルYの成功もあり、2020年8月にはテスラはEVメーカーとして販売台数世界一を達成した。

4)AI/ロボティクス企業への進化(2021年〜現在)

 テスラの成長は止まらず、2021年8月には時価総額が1兆ドルを突破し、自動車業界における地位を確固たるものにした。同月には、自動車以外の新たな分野として、AI(人工知能)技術を応用したヒューマノイド「Optimus(オプティマス)」の開発を発表し、2022年9月にはその試作機を公開した。

 2021年10月には、テキサス州オースティンにあるギガファクトリーテキサスへ本社を移転した。グローバル生産体制も整い、2023年12月には、長らく待たれていたサイバートラックの納車が開始された。

 そして現在、テスラはダイカスト技術を革新したギガキャストによる車体一体成形の導入を加速し、製造コストの抜本的な削減を目指すとともに、2024年10月に発表された完全自動運転のロボタクシー「サイバーキャブ」のプロトタイプにより、AIとモビリティサービスを融合させた未来を提示し続けている。

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