ギガキャストを可能にした「ギガプレス」の開発企業と動作サイクルを深掘りするいまさら聞けないギガキャスト入門(4)(1/5 ページ)

自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第4回は、超巨大ダイカスト成形機である「ギガプレス」の本体を開発したIDRAグループと、ギガプレスの動作サイクルの詳細について解説する。

» 2026年02月24日 07時00分 公開

1.はじめに

 本連載「いまさら聞けないギガキャスト入門」では、第1回でギガキャストが騒がれる理由、第2回でギガキャストの歴史と基本技術の鋳造法であるダイカスト法の概要、第3回でギガキャストに用いられる装置である超巨大ダイカスト成形機「ギガプレス」を実現したイタリアのIDRAとFSA(Foundry Star Alliance)の取り組みを取り上げた。

 第4回の今回は、超巨大ダイカスト成形機であるギガプレスの本体を開発したIDRAグループと、ギガプレスの動作サイクルの詳細について解説する。

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2.IDRAグループとは

 まずは、イタリアのIDRAグループ(IDRAの正式社名であるIDRA S.r.l.などを含むダイカスト/圧鋳向けのマシンを展開する機械メーカーのグループ)の構成、各拠点/関連子会社の役割について見る。

IDRAグループの概要

 IDRAグループの主な概要は、次の4点にまとめられる。

  1. 創業:1946年、Adamo Pasotti氏※1)によって設立。拠点はイタリア、ブレシア県トラヴァリアートに設立
  2. 主たる事業内容:非鉄合金を用いた高圧ダイカスト(cold chamber high-pressure die casting)、マシン設計/製造。ギガプレスと呼ばれる巨大なダイカスト機が特徴。自動車部品(特に大物/構造部品)用途が多い
  3. 所有構造:2008年に、LK Machineryなどを傘下に置くLK Technology※2)に買収されており、同社の企業体の一部となっている
  4. 経営陣:現在(直近)はJohn Stokes氏がジェネラルマネージャー、Riccardo Ferrario氏は“顧問”の立場。他に設計部門/電子設計/購買/環境/安全/品質管理などの責任者がいる。

※1)Adamo Pasotti(アダモ・パソッティ、1916〜1999年)は、1946年に父の会社パソッティ・ジャコモから独立し、ブレシアにIDRAとして知られる職人技のダイカスト会社を設立。その後数十年にわたり、同社は飛躍的に成長し、「パソッティグループ」傘下のIDRAは、ダイカスト、鋳造、機械加工などの専門企業と並び、大型ダイカスト機械の製造におけるリーディングカンパニーとなった。ブレシア地域に複数の拠点を構え、グループは1500人以上の従業員を雇用。1978年までのパソッティグループの売上高は450億リラ。

※2)LK Technology(正式社名:LK Technology Holdings Limited、中国社名:力勁科技集団有限公司)は、1979年に劉相尚(Liu Siong Song)が香港で創業。産業用工作機械の設計、製造、販売を手掛ける多国籍企業グループ。主要製品はダイカストマシン、プラスチック射出成形機、CNCマシニングセンタ。特に、ダイカストマシンの分野では世界的な大手メーカーの一つとして知られている。香港証券取引所に上場。グループは、中国本土(深セン、中山、寧波など)、台湾、イタリアなど、複数の地域に生産拠点と研究開発センターを持つグローバルなネットワークを構築。世界30以上の国と地域で販売/サービスネットワークを展開。

IDRAグループを構成する企業と拠点、役割

 IDRAグループはイタリア本社の他、世界各地に子会社/支社を持っており、販売、サービス、アフターサポート、ローカル市場対応を主目的とするものが多い。表1に、グループ会社/拠点とそれぞれの役割を示す。

 中でもIDRA S.r.l.は、設計/開発/製造の中心で、ギガプレスなどの大型ダイカスト機の設計/製造の拠点となっており、技術革新、生産ライン/試験設備、マシンのプロトタイプ(試作開発)およびユーザーの仕様に応じた製品開発などを担当している。

企業/拠点名 所在地 主な役割/機能
IDRA S.r.l. Travagliato, Brescia, Italy 本社機能。設計/開発/製造の中心。大型ダイカスト機などの設計/製造拠点。技術革新、生産ライン/試験設備、マシンのプロトタイプおよびユーザーの仕様に応じた製品開発などを担当
Idra North America, Inc. Kokomo, Indiana, USA 北米市場向けの販売/サービス拠点。機械の販売窓口、設置後のサポート、メンテナンス、部品供給などを担う。米国の顧客に対するローカル対応のため
Idra Mexico Garcia, NuevoLeon, Mexico 中南米市場対応拠点。販売およびサービス。ロジスティクスやユーザーサポート体制を南米向けに整備している
Idra Pressen GmbH Remshalden Grunbach, German 欧州圏での販売/アフターサービス拠点。特にドイツや近隣国の顧客対応、メンテナンス、部品供給をローカライズし、迅速な対応が可能となるようにしている
Idra China Ltd. 上海市松江区, 中華人民共和国 アジア市場対応。販売/サービス/現地サポート。中国を中心としたアジア諸国での納入/メンテナンスを円滑に行えるようにした拠点。技術説明、顧客との調整などのローカル対応が重要
表1 IDRAグループを構成する企業と拠点、役割 出所:IDRA Group.com

IDRAグループの主要製品(ブランド/シリーズ)

 IDRAグループの子会社/拠点は、IDRAの各製品シリーズの取り扱い/提供についても地理的/用途的に違いがある。主要製品として主につぎの2点があげられる。:

大きなダイカスト機シリーズ

 IDRAは、非常に大きなダイカスト機を提供しており、自動車の構造部品など、大きな鋳造品を一体で製造できる。例えば、型締め力で5500トン、6200トン、8000トン、9000トンクラスの機械になる。「OLCS」「NEO」「XPressシリーズ」などは、それぞれ用途/性能/価格帯が異なり、中小型機や省エネ性能/操作性/保守性などを重要視したモデルだ。

 表2に、IDRAの「OL/OL R(Rシリーズ)」のうち「OL6100CS」「OL9000CS」「OL12000CS」の主要な機械仕様の例を示す。

仕様項目 OL6100CS OL9000CS OL12000CS
Clamping Force(型締め力、kN/トン) 61,000kN(6,100トン) 90,000kN(9,000トン) 120,000kN(12,000トン)
Max Die Height(最大金型高さ、mm) 2,100 2,400 2,600
Min Die Height(最小金型高さ、mm) 1,000 1,000 1,000
Platens(H×V)(プラテン寸法:横×縦、mm) 4,200×3,900 4,900×4,600 5,400×5,100
Tie Bar Spacing(タイバー間隔、mm) 2,250×2,050 2,750×2,550 3,100×2,900
Tie Bar Diameter(タイバー径、mm) 640 750 850
Movable Platen Stroke(可動プラテンストローク、mm) 2,100 2,400 2,800
Ejection Stroke(エジェクタストローク、mm) 350 350 400
Max Shot Weight(Al alloy)(最大射出重量/アルミ合金、kg) 120 180 250
Dry Cycle Rate(n/1')(空サイクル速度、cycles/min) 5.5 4.5 3.5
Working Pressure(作動圧力、bar) 160 160 160
表2 IDRAの「OL6100CS」「OL9000CS」「OL12000CS」の主要な機械仕様例

 IDRAの超大型ダイカストマシンは、テスラが導入したことでも知られるギガキャストによる車体部品の一体製造を可能にするため、特に以下の点において優位性を持っている。

  1. 超高型締め力:1万トンを超える型締め力により、大型の車体部品を1回の鋳造で成形できる。これは、従来の複数部品を溶接/接合する工程を削減し、製造工程の劇的な単純化に貢献する
  2. プラテン寸法:プラテン(金型取り付け盤)のサイズが非常に大きく(例:OL12000CSで5.4×5.1m)、複雑な大型一体成形品の製造に対応している
  3. 高速/高精度射出:IDRA独自の射出システムにより、長距離の射出ストロークでも高速かつ精密な圧力制御が可能であり、大型品で課題となる鋳造欠陥の発生を抑える

 IDRAのOLR/OLR(Rシリーズ)のうち、OL6100CS、OL9000CS、OL12000CSのモデルは、特に自動車産業におけるギガキャストを用いた大型部品製造を目的とした超大型高圧ダイカストマシンであり、その多くは顧客の要望に応じてカスタマイズされている。

 上記の超大型モデルの備考として、下記の項目がある。

  • Bicostant intensification pressure adjustment(ビコスタント加圧制度):射出加圧(インテンシフィケーション)工程で、最終圧力を一定に制御する方式。油圧ピークを抑制しつつ、鋳造品質の一貫性を高める設計
  • Close loop real time injection control(リアルタイム閉ループ射出制御):射出位置/速度/圧力をセンサーで常時モニターし、制御フィードバックをかける方式。高速応答と精度安定性を確保
  • Integrated, modular hydraulic manifolds/few external pipes(モジュール式油圧マニホールド、外部配管最小化):油圧ユニットをモジュール化し、外部パイプをできる限り減らした構造。漏油リスク低減、保守性向上を狙った設計
  • Cycle rate(dry cycle sperminute):金型を閉じて射出、開放、金型排出などを含む、無充填(じゅうてん)時(乾サイクル)のサイクル回数。OLRモデルでは4〜5.5回/分程度
  • Working Pressure(作動圧力):通常の油圧回路の作動圧力。例では180barが標記例
  • Clamping Force(型締力/クランプ力):“kN”(キロニュートン)で表記されており、XPress300では3000kN(約306トン重に相当)など
  • Die Height(型高:金型の最大/最小厚さ):最大/最小金型厚さ(Max. Die Height/Min .Die Height)が記載されており、金型設計上の制約を示している
  • Platen寸法(H×V):可動/固定金型プレートの有効サイズ。Hは横方向(横幅)、Vは縦方向(前後方向)
  • Tie Bar Spacing:タイバー(引き締め柱)間のクリアランス。金型設置可能領域を示す
  • Movable Platen Stroke(可動プレートストローク):可動プレートが動作可能な最大距離
  • Ejection Stroke(排出ストローク):鋳物を押し出す排出(イジェクト)工程でのストローク
  • Injection Stroke(射出ストローク):射出ピストンが可動可能な最大ストローク
  • Max Injection Velocity:最高射出速度(m/s単位)
  • Power(動力):主駆動モーターなどの電力
  • 機械寸法/重量:機械の全体外形(長さ×幅×高さ)および質量

IDRAのグローバルサービス体制

 IDRAは、製造だけでなく販売後のサポート/サービス体制も比較的整っている。技術トレーニング、顧客向けのテクニカルセンターを運営し、機械の操作/メンテナンス/最適化などに関する教育サービスを提供する。

 各拠点でのアフターサービス/部品供給体制についても、近隣にサポート拠点を持つことで応答時間を短縮している。

IDRAの強みと特徴

 IDRAグループと他のダイカスト機械メーカーを比較した場合の強みと特徴をまとめると以下のようになる。

  1. ギガプレスの開発/製造能力。世界最大級の高圧ダイカスト機を製造しており、自動車産業の構造部品を一体鋳造するというトレンドに応えている
  2. 技術革新:センサー技術、自動化、制御システム、環境/省エネ性能などに投資をしている。例えば、インジェクション注入制御システムやインダストリー4.0対応など
  3. グローバル展開:世界各地(北米、中南米、アジア、欧州)に支社/子会社を持つことで、地域ニーズに応じたサポート/販売を可能にしている

IDRAの製品に関わる情報

 ここで、IDRAの製品に関わる情報を紹介しよう。

  • IDRAの製品ラインには「NEO5500」「NEO6100」「NEO8000」「NEO9000」というラインアップが示されている
  • IDRAの目的は、自動車のボディー構造部品(“Body in White”部分、鋳造一体化構造)を大口一括鋳造することで、従来の多数部品を接合する手順を削減/簡素化することである
  • 技術的特徴として、IDRAは「5S注入システム(閉ループ再生型注入)」「DCP(Drive Control Pumpシステム)」「Cell Controllerによる統合制御」「省エネ設計」などを打ち出している
  • また、IDRAは2019年に「OL6200CS」モデルを確認しているという沿革が記載されている

 これらの情報から、型締め力6000トンクラスの製品として、OL6200CSやNEO6100といったモデルが該当範囲、あるいはその近接仕様である可能性が高いと考えられる。

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