ここからは、IDRAが開発するギガプレス本体(プレス成形マシン)のうち、型締め力6000トンクラスの機械に着目して解説する。
連載第1回で述べた通り、ギガプレスは、テスラが車両大型構造部品の一体成形に使用している超大型の高圧ダイカスト鋳造機で、イタリアのIDRAが開発/製造したものである。2020年当時「世界最大級のダイカスト機」といわれた。
導入された初期機種は型締め力5600〜6200トン級(5万5000〜6万1000kN)で、IDRAの製品型番では「OL6100CS」に相当し、機械重量は約410〜430トン。このギガプレスでは、約80kgのアルミニウム合金を射出シリンダーで一気に金型へ射出し(速度約10m/s)、わずか1分強(サイクルタイム80〜90秒)で大型部品を鋳造できる。実際の生産能力は、ダイカスト鋳造成形品で1時間当たり約40〜45個(1日最大1000個前後)となっている。これは従来の多数部品を組み合わせて製造する手法と比べて圧倒的なスピードと量産性を実現する。
テスラは、まず米国カリフォルニア州のフリーモント工場にこの6000トン級ギガプレスを導入して2020年に稼働し、「モデルY」のリアアンダーボディーのダイカスト鋳造成形に使用している。また、米国のフォードや韓国の現代自動車、欧州の自動車メーカーでもIDRAの6000トン級ギガプレスが既に導入されている。
図1に、2023年にフォードのブランド名が印刷された6000トン級ギガプレスが組み立てられた様子を示す。イタリアのトラヴァルジャートにあるIDRAの本社工場でテストされていた。
テスラは、フリーモント工場に続いて、上海工場、ベルリン工場、テキサス工場にもギガプレスを順次導入した。加えて、将来の新型車種向けにさらに大規模なギガプレスも発注しており、9000トン級の機種が「サイバートラック」向けとして2022年に完成/出荷された。この9000トン機はIDRAが「挑戦的な巨大装置」として開発したもので、世界初の9000トンダイカスト鋳造機を実現した。
図2に、IDRAのギガプレス(型締め力5500〜9000トン)の構成を示す。
前回述べたように、IDRAのギガプレス本体は、FSAとの協業を基にしたモジュラー設計によるアーキテクチャ構造になっており、これらもさらに複数のサプライヤーから構成されている。
表3に、IDRAのダイカストマシン「OL6200CS」の主な仕様を示す。このOL6200CSは、IDRAが“OLCSネオシリーズ”の一機種として位置付けている大型高圧鋳造機である。非常に大型で、特に高圧/大面積の鋳造に対応する設計である。なお、外形寸法および重量は搬入/据付設計において非常に重要なパラメータとなる。
| 項目 | 仕様 | 補足 |
|---|---|---|
| 締付力:Clamping force | 61,000kN | 61,000kN(約6,218トン重) |
| 締付力:Clamping force(トン) | 6,218トン | 同上(トン換算値) |
| 射出力:Injection force with 20bar counter pressure | 3,097kN | 鉄型反圧20bar時の射出力3,097kNは理論値。実際運転条件(反圧/抵抗損失など)により実効力はこれを下回ることが想定される |
| 反圧なし射出力:Injection force | 3,407kN | 純粋な射出力(反圧なし時想定値) |
| 金型最大厚さ:Max. die height | 2,500mm | 金型最大厚さ:2,500mm |
| 金型最小厚さ:Min. die height | 1,500mm | 金型最小厚さ:1,500mm |
| 金型取付プレート有効面:Platens dimensions(H×V) | 3,650×3,650mm | 金型取付プレート有効面:3,650mm×3,650mm |
| タイバー間クリアランス:Tie bar spacing | 2,350×2,350mm | タイバー間クリアランス:2,350mm×2,350mm) |
| タイバー径:Tie bar diameter | 470mm | タイバー径:470mm |
| 可動金型プレート可動距離:Movable platen stroke | 2,300mm | 可動金型プレート可動距離:2,300mm |
| 射出排出(イジェクト)ストローク:Ejection stroke | 400mm | 射出排出(イジェクト)ストローク:400mm |
| 射出可能量(アルミ合金):Max. shot weight(Al alloy) | 104.6kg | 射出可能量(アルミ合金):104.6kg |
| 射出圧400bar換算時有効投影面積:Max. projected area(400bar onmetal) | 15,545cm2 | 射出圧400bar換算時有効投影面積:15,545cm2 |
| 乾サイクル速度:1Drycycles(perDIN24480) | 1.3n/1’ | 乾サイクル速度:1.3回/分(DIN24480に基づく)はかなりゆったりなペースであり、大型鋳造機特有の制約を示唆する |
| 油圧ポンプ駆動電力:Pumps motors power | 4×90kW | 油圧ポンプ駆動電力:90kWモーター×4台(合計360kW) |
| 機械重量:Machine weight | 430トン | 機械重量:430トン |
| 機械外形:Machine dimensions(L×W×H) | 19.5×5.9×5.32m | 機械外形:長さ19.5×幅5.9×高さ5.32m |
| 表3 「OL6200CS」本体の主な仕様 出所:kitmas.com.ua) | ||
IDRAの6000トンクラスギガプレスの特徴をまとめると以下のようになる。
ここからは6000トンクラスギガプレスの各特徴を深掘りしていく。
IDRAのギガプレスは、100kgを超える鋳造品でも優れた結果を出した。これは、独自の再生システムと独立した噴射電源、最先端のシステムである5Sインジェクションを適用したことによる成果である。
ダイカスト工程の核となるのは、非常に強力な射出成形であり、以前のシリーズよりも大きな動的力により、最も複雑な金型でも簡単に、速く、そして力強く満たすことができる。ギガプレスの鋳型の大きさは幅が2m以上あり、溶融金属の安定した大量の流れが必要である。
このギガプレスのシステムでは、最初の段階では、長い湯道、非常に大きいキャビティがある。そこで溶湯が空気と混じる重大な問題になりかねない。従来技術では、必要なときに利用できるダイナミックな力が少なくなる。
圧力差を生かすことで、5Sインジェクションのアキュムレーターは、第2段階の注入フェーズで強力な優れたダイナミクスが利用可能になるからこそ、ギガプレスは大きくて高品質な成形品を作ることができるのである。
図3に示すように、5Sインジェクションは閉ループ再生回路を備えた鋳造ユニットで、独立したサーボポンプが必要なバッテリー充電を提供し、流体再生システムの適用による省エネおよびメンテナンスパラメーターの管理を簡素化する。5Sとは、Strong(強い)、Simple(シンプル)、Stable(安定)、Smooth(スムーズ)、Sustainable(持続可能)の頭文字をとったもの。
「Foreco. Forever」という理念に基づき開発した新しいガードシステムは、環境への持続可能性と効率性を両立させ、製造コストと環境負荷の低減を実現した。光バリア保護機能を備えたクローズドシステムによりトグルガードを廃止し、製造が困難な板金製ギアガードも不要にした。高い生産速度とシンプルで安全なメンテナンスを組み合わせ、新設計の安全ドアを前面に押し出したコンセプトを実現している。
図4に、DCP(駆動制御ポンプ)システムを示す。このDCPシステムは、新型マスタースレーブ、クロージングユニット、改良されたPLC制御、そしてクロージングおよびコアプーラーシステムとは独立して充電する新型インジェクションアキュムレーター充電ユニットなどから構成される。これにより、低出力の小型モーターで最大限の効率を実現し、エネルギーコストを節約を実現できる新しいアーキテクチャの採用が可能になった。
図5に示すように、新しいIDRAセルコントローラーは、IDRAが開発した最新の4.0アーキテクチャに基づき同社の全てのマシンに搭載されており、複雑なセルのソフトウェア要件を効率的に処理する。このコントローラーは、ダイカストマシン(DCM)と周辺機器間のシームレスなデータ交換により、新たなレベルの接続性と統合性を実現し、生産とプロセスのトレーサビリティーを完全に制御する。単一の画面でセルの完全な診断分析を行えるため、セットアップとメンテナンスにかかる時間とコストを大幅に削減できる。
IDRAの4.0アーキテクチャの主な特徴は下記の通り。
表4は、“6000トンクラス”(OL6200/NEO6100相当機)の仕様と特徴を示す。
IDRA自身が“6000トンクラス”というモデルを公式に出しているわけではなく、近隣クラス(NEO6100、OL6200CSなど)の機種名を出している。
この機械は、大型/高圧鋳造装置なので、設備導入には周辺インフラ(電力供給、冷却・給排水、床強度、金型交換機構、安全設計など)が非常に重要であり、それらは仕様書外で設計される部分が大きい。詳細な項目としては、寸法、油圧仕様、材質、補助機構(冷却系、金型操作系、移送系などが重要である。
| 項目 | 仕様/特徴 | 解説/注記 |
|---|---|---|
| 型締め力(クランプ力) | 約6000トンクラス | 金型を閉じて保持する力。“6000トン”クラスとは、金型を閉じる型締め力(クランピング力)が6000トン(または同等)に相当する圧力性能を持つものを指す。6000トン級とするレンジ |
| インジェクション注入方式 | 5Sインジェクションシステム | IDRAの5Sインジェクションシステム(クローズドループ再生注入:流体を排出せず、再利用できるようにする方式)を採用。これにより注入速度/圧力の制御精度を高め、制御性能を向上させ、圧力/速度流体ロスを下げる設計により鋳造品質を安定化させつつエネルギー効率も高めることを目指している |
| 油圧構成 | 分離型ポンプ(閉じる系/注入系)&DCP構成 | 型締めクローズと溶湯注入を別系統で設計し、効率/制御性を上げ、無駄な動きを削る方式 |
| 省エネ性能 | エネルギー消費を最大54%削減可能という公称値 | シリーズでは、エネルギー消費の最適化を強調しており、IDRAは「ハイドロリック系の新しい構成により最大54%のエネルギー消費削減」などを掲げている。この数値は全体の目標値として示されている |
| 制御系/ソフトウェア | “InjectComputer3.2”およびセルコントローラーの統合制御 | セルコントローラーによるセル一括制御、InjectComputer3.2(最新版制御ソフト)などを標準にし、機械操作/周辺装置との連携を含めた統合制御系。操作性/トレーサビリティー制御を強化している |
| サイクルタイム/出力 | 数十〜80〜100秒程度のオーダー | 系列では、1サイクル当たり数十〜120秒程度(例:500kgのアルミを10m/sでインジェクション注入)。例えば“約120秒/サイクル、1時間当たり30個”。他社製品や報道例では、1サイクル80〜90秒という例もある |
| 鋳造可能部品サイズ(寸法/形状) | 大型構造部品対応、薄肉鋳造も想定 | 最大鋳造幅(キャスト幅)は約2.2m程度という例もあり、大型部品の一体鋳造が可能。車体アンダーボディー、床構造、バッテリーケース統合部などに使われる設計を意図した用途が多い |
| 機械寸法(サイズ)/重量 | 非常に大規模、数百トン規模 | 構造が巨大であり、機械本体の寸法/重量も同様。例えば“19.5×5.9×5.3m、410〜430トン”という機械寸法例を報じる資料もある。他のモデル例では410トン前後という重量例もある |
| 用途 | 大型構造部品対応、薄肉鋳造も想定 | 自動車の前後アンダーボディー、バッテリーケース一体化、車体構造部品など大物鋳造をターゲットとしている |
| 表4 IDRAの“6000トンクラス”(NEO6100/OL6200CS相当機)の仕様と特徴 出所:IDRA Group.com | ||
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