テスラは世界各地に、年間で容量GWhオーダーの車載バッテリーを製造できる「ギガファクトリー」と呼ばれる巨大な垂直統合型生産拠点を展開し、生産能力を急速に拡大している。表7に、テスラのギガファクトリーや、自動車組み立て、メガパックなどの工場や生産設備をまとめた。
ここからは、テスラロードスターで評価を得て以降、2010年ごろからテスラが建設していった主要工場を時系列で見ていく。これらの主要工場の建設と同期する形で開発されたEVやさまざまな取り組みについても紹介する。
2010年5月、テスラモーターズはトヨタ自動車とEV分野における共同開発を行う業務提携契約を結ぶことを発表。これに伴い、テスラモーターズはカリフォルニア州フリーモントのNUMMI工場※4)をトヨタ自動車から4200万ドルで買収した。それ以前は、トヨタとGMの合弁企業であるNUMMIが運営していた。余談であるが、筆者はNUMMIに2回訪問したことがある。恐らく、NUMMIに訪問したことがある日本の大学の教員は筆者だけであろう。西部劇に出てくる低い山々に囲まれた工場立地である。
※4)NUMMI(New United Motor Manufacturing、ヌーミ)は、1984年にトヨタ自動車とGMが合弁でカリフォルニア州フリーモントに設立した自動車の製造会社。1980年代の日米貿易摩擦により、日本の自動車産業界から「米国内に工場を設置することによって政治問題化を避けるべき」との要請に応じたトヨタは、米国自動車企業のパートナーとしてGMを選択した。トヨタは、GMが持つ米国での製造/販売のノウハウを、他方GMにとってはトヨタが作り上げた生産技術である「かんばん方式」をそれぞれ学ぶことを目指すこととなった。そして、1983年(昭和58年)2月に共同で合弁会社を設立することに関する覚書を締結し、翌年にNUMMIを設立。1984年(昭和59年)12月より本格的に生産を開始。その後、トヨタ、シボレー、ポンティアックなどのブランドの車の生産を数多く手掛けた。
2002年(平成14年)にはポンティアック・ヴァイブを右ハンドル化したトヨタ・ヴォルツを日本向けに生産。2009年(平成21年)6月29日、破産後に再建のため国有化されたGMがトヨタとの合弁事業が解消。この結果、NUMMIは「新GM」には引き継がれないことが決定し、GM側のポンティアック・ヴァイブも同年の第3四半期で生産を終了。これを受け、トヨタはNUMMIの工場を閉鎖。2010年(平成22年)よりトヨタ自動車とテスラモーターズによるEVの共同生産に用いられ、名称も「テスラファクトリー」に変わった。
図2に示すフリーモント工場は、テスラの自動車製造計画全体において重要な役割を担っている。2010年に買収したフリーモント工場は、テスラの最初の工場であり、また最大規模の工場の一つで、モデルS、モデル3、モデルX、モデルYといった主要モデルを生産している。年間生産能力は65万台を超え、そのうちモデル3とモデルYが55万台以上を占める。2024年5月には累計生産台数300万台という節目を迎えた。2万人以上を雇用する同工場は、電気モーター、バッテリー、パワートレインの主要拠点であり、テスラの生産プロセスにおける品質と効率性を高めるために緊密に統合している。150万m2の敷地内に位置し、チームや役職レベルを超えた開かれたオープンな職場環境がある。
本連載のテーマであるギガキャストの技術導入は2020年ごろで、モデルYのダイカストアンダーボディー後部に単一鋳造部品の大量生産技術として導入された。モデルYの車両の安全性、航続距離の向上、エネルギー効率に寄与している。年間100万台を組み立てる予定であるため、車両構造のアーキテクチャから単一鋳造部品としてアンダーボディー後部を製造するに当たってテスラが考案したギガキャストへの投資は理にかなっているといえよう。
テスラのカトー工場は、その所在地にある通りの名前にちなんで名付けられた(図3)。フリーモント工場と同じフリーモントに位置し、同社のバッテリー開発とパイロット生産イニシアチブにおける要となっている。カトー工場は、テスラの最新バッテリー技術のテスト拠点として機能し、ギガファクトリーでの生産規模拡大に先立ち、設計の反復的な改良と最適化を可能にしている。
カトー工場の中核を成すのは、テスラのEV向けに特化したバッテリーセル/モジュール/パックの開発と製造である。同社が乾式電極技術を先駆的に導入した施設であり、陽極と陰極に湿式ペーストコーティングを用いる従来のリチウムイオン電池製造方法からの脱却を可能にした。
この革新的な技術は、エネルギー消費量の削減、工場スペースの効率的な配分、そして生産コストの低減を実現すると期待されている。テスラは2019年にMaxwell Technologiesを買収して以来、乾式電極製造プロセスの改良に取り組んできた。カトー工場はバッテリーの試作と製造のみならず、テスラの将来のバッテリー生産を担う人材の育成拠点としても機能している。
なお、バッテリー技術(および技術全般)の進歩にもかかわらず、テスラは最新の4680バッテリーセルは、生産規模の拡大、特にカソードのドライコーティングプロセスの完成において課題に直面している。モデルYとサイバートラックが製造されているテキサス州オースティンのテスラのギガファクトリーの運営に詳しいとされる情報筋によると、カソード製造における技術的な障害のため、野心的な生産目標を達成するのに苦労しているという。
2010年6月29日、同社はIPO(新規株式公開)により上場した。これは、1956年のフォード・モーター以来、米国の自動車会社として44年ぶりのIPOだった。テスラモーターズはナスダックでの上場時に1株当たり17ドルで1330万株の普通株を発行し、2億2600万ドルを調達した。
同年10月、テスラモーターズは図4に示すモデルSの生産を開始するためフリーモント工場内に新ラインを開設した。
2012年1月、テスラモーターズはロードスターの生産を中止。そして同年6月、同社として2番目の車種となる高級セダンのモデルSを発売した。
モデルSは、以下のような特徴がある。
モデルSは、リフトバックボディーとデュアルモーター、全輪駆動レイアウトを備えたフルサイズカーである。乗車定員5人のセダンタイプで、家庭用コンセントから充電可能。推定価格は6万米ドルで、BMW 5シリーズやアウディのA6などに代わる車両として設計された。航続距離はEPA(米国環境保護庁)基準で402マイル(647km)。2007年以前から開発されたモデルSは、2012年6月に納車が開始された。なお、2013年のモータートレンドカーオブザイヤーなど、2012年と2013年に幾つかの自動車賞を受賞した。
2013年7月15日、テスラモーターズはナスダック100企業となった。モデルSは、同年9月にノルウェーの月間販売ランキングでトップとなり、同時に同国の月間販売ランキングでEVとして初めてトップに立った。2015〜16年には、モデルSは世界で最も売れたEVとなった。
なお、モデルSは2度の大規模なデザイン刷新を行っている。最初は2016年4月に新しいフロントエンドデザインが導入され、次に2021年6月にインテリアを刷新した。
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