ギガキャストを発案したテスラの現在・過去・未来いまさら聞けないギガキャスト入門(5)(7/7 ページ)

» 2026年05月26日 08時00分 公開
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13)ギガファクトリーテキサス

 2020年7月、テスラの新たな本社となるギガファクトリーテキサスが着工された(図15)。

図15 図15 ギガファクトリーテキサス[クリックで拡大] 出所:テスラ
  • 建設開始:2020年7月に着工
  • 生産開始:2021年末にモデルYの限定生産が開始された。2022年4月7日に開催されたグランドオープンイベント「Cyber Rodeo」が初出荷となる
  • 特徴:モデルYとサイバートラックの主要生産拠点であり、テスラの米国本社としても機能。世界で2番目に大きい建造物(ボーイングのエバレット工場に次ぐ)であり、敷地面積は約93万m2。2023年時点の従業員数は約2万人

5.テスラの現状と今後の展開

 2026年2月時点のテスラのラインアップと販売状況について見てみる。

 テスラは現在、「自動車メーカー」から「AI/ロボティクス企業」への大胆な転換期にある。

1)販売状況と市場シェア

 2025年通年の販売台数を見ると、テスラが大きな転換点を迎えていることが分かる。

  • 世界販売首位からの陥落: 2025年の世界販売台数は約164万台(前年比約9%減)となった。一方で、中国のBYDが2025年のEV販売台数で約226万台を記録し、テスラは世界首位の座を明け渡した
  • 日本市場での躍進:世界的な苦戦とは対照的に、日本では輸入車EVセグメントで圧倒的なシェアを維持している。2026年末までに国内の店舗数を現在の約2倍(50拠点)に増やす計画で、地方都市へのサポート体制を強化している
  • 収益構造の変化:車両販売の利益率は価格競争で低下しているが、その分をFSDのサブスクリプションや、パワーウォールなどエネルギー貯蔵部門の利益が支える構造にシフトしている

2)次のフェーズ:ロボタクシーとAI

 現在、テスラの関心は「市販車の大量販売」から、以下の次世代技術へ移っている。

  1. Robotaxi(ロボタクシー):専用車両による無人タクシー事業の本格始動
  2. Optimus(オプティマス):ヒューマノイド。工場での実戦投入が始まっており、将来的な外販も見据えている
  3. 廉価版モデル(モデル2?):長らくうわさされている低価格モデルについては、ロボタクシーのプラットフォームと共有する形で開発が継続されている

3)マスク氏とトランプ政権の関与:その光と影

 第2次トランプ政権下でのマスク氏の動向と、それがテスラの経営に与えた影響および現在の販売状況を整理する。

 2025年の第2次トランプ政権発足以降、マスク氏はDOGE(政府効率化委員会)のトップに就任するなど、政策決定の核心に深く関与した。この「政権との蜜月」は、テスラにとって強力な追い風と逆風の両面をもたらした。

  • ポジティブな影響(規制緩和とAI)
    • 自動運転の連邦規格化:各州でバラバラだった自動運転の規制を連邦政府が一括管理する動きを主導。これにより、テスラのロボタクシーであるサイバーキャブの全国展開に向けた法的ハードルが劇的に下がった
    • 対中関税の強化:中国製EVに対する高関税が維持/強化されたことで、米国内でのBYDなどの参入を阻止し、テスラの独占的地位が守られた
  • ネガティブな影響(補助金撤廃とブランド毀損[きそん])
    • EV購入税額控除の終了:トランプ政権は2025年9月にEV購入支援策(7500ドルの税額控除)を事実上終了させた。これが駆け込み需要後の深刻な販売減を招いた
    • ブランドの政治化: マスク氏の右傾化した発言や政治活動により、主要顧客層であったリベラル層(米沿岸部や欧州)の間で「テスラ離れ」が加速。2025年の欧州での販売台数は前年比約27%減と大きく落ち込んだ
  • 株価と業績:ボラティリティの激増
    テスラの株価は、実利(規制緩和への期待)と懸念(販売減)の間で激しく乱高下している
    • 株価の推移:2025年初頭の政権発足時は「トランプバンプ」により過去最高値を更新したが、その後、補助金終了や収益悪化を受けて一時30%以上急落した。しかし、2026年に入り、マスク氏による自社株買い(250万株)や、AI(xAI)との連携、ヒューマノイド「Optimus」の実用化への期待から、再び高値圏で推移している
    • 決算の衝撃: 2026年1月に発表された2025年通期決算では、テスラ史上初となる前年比での減収を記録。純利益も前年比46%減と大幅に悪化した

4)まとめ

 テスラは現在、マスク氏の政治関与や中国勢との激しいシェア争いの結果、創業以来最大の転換期を迎えている。モデル3とモデルYが販売の柱だが、会社としては高級路線のモデルSとモデルXを整理し、ロボタクシーとヒューマノイドの量産に舵を切った非常にアグレッシブな状況にある。

 そして、トランプ政権との強力なパイプを武器に、自動車メーカーからAI/エネルギーインフラ企業への強引な脱皮を図っているところだ。自動車単体の販売や利益は苦戦しているものの、投資家は「自動運転とロボットが実現する未来」の独占権に対して期待を寄せ続けており、株価は高値圏で推移している。

参考/引用文献

  1. 武藤一夫「図解よくわかる機械加工」、共立出版社、2012年04月、ISBN:9784320081888
  2. 武藤一夫、高松英次「これだけは知っておきたい金型設計・加工技術」、日刊工業新聞社、1995年1月、ISBN:9784526036439
  3. 武藤一夫「エンジニア必携トヨタにまなぶ デジタル生産事例・用語集」、産業図書、2021年12月、ISBN:9784782841082
  4. 武藤一夫「図解CAD/CAM入門 CAD/CAE/CAM/CATによるモノづくりを解説」、大河出版、2012年8月、ISBN:9784886617224
  5. 武藤一夫「進化し続けるトヨタのデジタル生産システムのすべて」、技術評論社、2007年12月、ISBN:9784774132822
  6. Tesla
  7. Wikipedia

筆者プロフィール

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武藤 一夫(むとう かずお) 武藤技術研究所 代表取締役社長 博士(工学)

1982年以来、職業能力開発総合大(旧訓練大学校)で約29年、静岡理工科大学に4年、豊橋技術科学大学に2年、八戸工業大学大学に8年、合計43年間大学教員を務める。2018年に株式会社武藤技術研究所を起業し、同社の代表取締役社長に就任。自動車技術会フェロー。

トヨタ自動車をはじめ多くの企業での招待講演や、日刊工業新聞社主催セミナー講演などに登壇。マツダ系のティア1サプライヤーをはじめ多くの企業でのコンサルなどにも従事。AE(アコースティック・エミッション)センシングとそのセンサー開発などにも携わる。著書は機械加工、計測、メカトロ、金型設計、加工、CAD/CAE/CAM/CAT/Network,デジタルマニュファクチャリング、辞書など32冊にわたる。学術論文58件、専門雑誌への記事掲載200件以上。技能審議会委員、検定委員、自動車技術会編集委員などを歴任。


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