かわいい素材に黄泉(よみ)がえる廃棄物たちマイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(19)(3/3 ページ)

» 2012年03月21日 12時50分 公開
[三木康司/enmono,@IT MONOist]
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「主婦視線」でのモノづくりとは

 前半でお話しした「主婦視線でのモノづくり」とは、主婦が冷蔵庫に入っている素材から「今日はどんな料理を作りましょう?」と選んで料理する感覚の、モノづくりです。

 中台氏も、まさにこの考え方を事業で実践しているというわけです。

 ナカダイの工場には、毎日のようにさまざまな廃棄物が搬入されますが、同社ではそれらを“素材”として活用して製品作りをしているのです。

 例えば製品を大量生産して販売する場合、その製品を製造するための部材を事前に手配して、それらを組み上げて製品にします。

 しかし、ナカダイのプロセスでは、事前に決められた部材をほしいだけ確保するといったことができません。「どの種類の廃棄物が」「毎日何個入ってくる」のかということが、予想できないのです。工場にある素材は、“そのとき限りのもの”かもしれませんし、同じ素材が工場内にある保証もありません。

 しかし、「そのときある素材でしか生産することができない」ということは、つまり「一期一会」のオリジナル限定生産の商品になるということでもあります。

 大量生産をして、それを巨大な流通を通じて大量に売りさばき、在庫が残ったら、値崩れを防ぐために新品のまま処分する――従来製品は、そんな不効率なサイクルだったのです。

 ナカダイは、「旬」の素材である廃棄物を組み合わせると、どのような製品ができるのかを発想し、他のどこにもないオリジナル製品を少量生産して、それを高付加価値で販売しているというわけなのです。「そのような考え方のマイクロモノづくりもあった」と、まさに私たちは開眼させられたのです。

 「いま冷蔵庫にある素材を使って、何を作るのか決める」モノづくりは、従来の大量生産の製品を経験したデザイナーよりは、むしろ、製品開発にそれほど親んでこなかった方(従来手法へのとらわれが少ない方)が向いているのではないでしょうか。

 また、そのような“主婦目線なモノづくり”が、これからのクリエイターやデザイナーに求められ始めているのです。

クリエイター発想を引き出し廃棄物を使って製品化

ナカダイの素材、LANケーブルの廃材を使った、美術大学生の作った犬型の置き物
ナカダイの素材を使いアーティストとコラボレーションをした電気スタンド。究極のマイクロモノづくり?

 クリエイターやデザイナーに対し、素材提供者としての「ナカダイ」ブランドを広めるため、できるだけ多くの人に、同社の工場見学に来てもらうようにしているとのことです。見学者たちが素材を手に取り、そこから製品の発想が「ピン!」と浮かんで、そしてその素材を使って実際に製品を作ってもらうことを狙いとしています。

 ただし、先ほども述べたように、そのようにして生み出される製品は、これまでの大量生産時代の機能を重視したモノではなく、逆に素材からインスピレーションを得て作り出される、「今日、冷蔵庫に入っている素材」をいかにして組み合わせて製品を発想してもらわなければならないので、デザイナーやクリエイターの方にも、それなりの発想の転換が必要になってきます。

クリエイターの脳を刺激する「加工のネタ帳」を計画中

 ナカダイの工場には、新しい素材やアイデアを求めて毎週、大勢のクリエイターやデザイナーが工場見学に訪れています(年間累計で300〜400人)。

 訪問者は、ナカダイの素材を見て、「これ、面白いねー」という反応はしても、それを「どう加工したらいいか」「どう製品や作品に使ったらいいか」などの具体的な活用法が見いだせず、素材の採用になかなかつながらないという問題があるそう。

 そこでナカダイでは現在、「加工のネタ帳」のようなものを用意すれば、それを手掛かりにして、クリエイターたちが発想を広げ、素材を採用してもらうことができるのではと考えているとのこと。

 例えば、同じ形状の部品を、プラスチック、金属、木などの素材で、それぞれ切り分け写真に収めて保管し、それをデータベース化して検索できるような仕組みを考えているそうです。さらに、サンプル加工品の写真もそこにひも付けておきます。この仕組みを通じて、「それぞれの素材をどのようにしたら、自分の作品や製品に生かせるのか」を想像してもらおうという試みなのです。

 また将来的には、それらの素材を加工可能な加工業者の情報も併せて提供することで、より素材を購入しやすくしたいと考えているということでした。素材の材料情報以外の関連情報も提供していく予定とのことです。

「素材から発想する」あらたな形でのマイクロモノづくり

 ここでは、ナカダイの事例をマイクロモノづくりのフレームワークで見てみると、どのように捉えられるか、考えてみましょう。

マイクロモノづくりにおけるバリューチェーン(enmono社資料より)

 今回の事例は、マイクロモノづくりそのものではなく、“マイクロモノづくりを支える”素材を提供する企業であると捉えることができます。

 中小企業がマイクロモノづくりを始める際、なるべく初期投資を控えながら、成功させるためには、原材料にかけるコストをなるべく削減することが重要です。

 ナカダイの素材は、他のどんな原材料よりも安価です。原材料費を大幅に抑えられる、つまりコストを大幅に抑えられることで製品の競争力を高められます。

 自社の持っている加工技術と、ナカダイの提供する素材を組み合わせることで、限定生産のマイクロモノづくり製品となります。“その日冷蔵庫に入っている”範囲で“調理する”ので、製品の生産数は自ずと限定的になるため、安定供給できる製品ではなくなります。すなわち、限定生産という付加価値をもった製品になるというわけです。

 そのような製品のストーリーは、作り込んで完成度を上げていけば、これまでになかった企画製品として、高付加価値製品として差別化を図ることが可能でしょう。

 従って、マイクロモノづくりの全体の流れの中では、「企画」と、「デザイン」の部分で、ナカダイの素材を採用するかどうかということが、製品全体の性質に大きなインパクトを与えるということになるでしょう。

 製品自体が「一期一会」で、日々、素材が変化すること自体が価値であるというストーリーを持たせ、その製品を持っていること自体がライフスタイルとして「おしゃれ」であるというブランディングを十分行えば、消費者に対して強いインパクトを与えられるのではないでしょうか。

 今回は、廃棄物という新たな「素材」から、高付加価値、限定生産のマイクロモノづくりを発想するという新たな切り口でのマイクロモノづくりを考えることで、今まで気が付かなかった、「一期一会」のマイクロモノづくりの価値を見いだすことができました。

 今後も、日本の未来を予感させるような、マイクロモノづくり企業を取材していきますので、ご期待ください。

「産棄」を「教育」に

 enmonoでは、ある製造業関連の企業からの依頼を受け、設計開発に携わるエンジニア向けとして、ナカダイから提供された廃棄物を使った企業向け研修パッケージを開発し、実施しました。

 ナカダイには、「廃棄物をモノ以外の価値に転換できないか」という望みがあり、enmonoがそれに応えた形となりました。

 エンジニアに、これから自分たちが作りだそうとしている製品が環境に与えるインパクトを強く認識した上で、製品開発をしてもらおうという狙いでした。

 大手メーカーの中で、日々業務で忙殺されている設計・開発エンジニアたちは、自分たちが設計している製品の「最後の姿」(廃棄物)を知らないものです。

 そこで、この研修の中では、廃棄物処理の現場を写真で見てもらい、廃棄物の実物も手に取ってもらい、日本の産業界が生みだした「産廃」の背景についての話を聞いていただきました。

ナカダイの産業廃棄物を使った研修会場に20種類の中の産業廃棄物を展示、エンジニアに素材を手にとってもらい、テーマに基づいた製品プロトライプを作り、発表してもらいます

 その後、廃棄物の素材を使って、「どのような製品をもう一度生み出せるのか」を、各エンジニアにじっくりと考えてもらいました。

 この研修に参加したエンジニアも、「いままで“ゴミ”としか認識していなかった廃棄物を、素材として実際の製品に使おうという新しい発想を得たことで、考え方が大きく変わった」と評価していただいたということです。

 今後ナカダイとenmonoでは、より積極的に研修パッケージを開発して、企業向けに営業をしていく予定です。





Profile

三木 康司(みき こうじ)

1968年生まれ。enmono 代表取締役。「マイクロモノづくり」の提唱者、啓蒙家。大学卒業後、富士通に入社、その後インターネットを活用した経営を学ぶため、慶應義塾大学に進学(藤沢キャンパス)。博士課程の研究途中で、中小企業支援会社のNCネットワークと知り合い、日本における中小製造業支援の必要性を強烈に感じ同社へ入社。同社にて技術担当役員を務めた後、2010年11月、「マイクロモノづくり」のコンセプトを広めるためenmonoを創業。

「マイクロモノづくり」の啓蒙活動を通じ、最終製品に日本の町工場の持つ強みをどのように落とし込むのかということに注力し、日々活動中。インターネット創生期からWebを使った製造業を支援する活動も行ってきたWeb PRの専門家である。「大日本モノづくり党」(Facebook グループ)党首。

Twitterアカウント:@mikikouj



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