町工場が持つすべての叡智(えいち)を集合した本物志向のモノを作りたい! そんな思いから製品開発が始まった
前回に引き続き、町工場から最終製品を生み出す活動をしている、または「マイクロものづくり」を実践している事例を紹介していきます。
わたし(三木)が、「マイクロモノづくり」というコンセプトを思い付いた背景には、中国など新興国での日本メーカーの量産活動が本格化し、円高の動きへの懸念が高まる中、これまでの「大量生産→海外輸出→外貨獲得」というゴールデンルールでは経済は回らないと考えたからです。
これまでのように国内での大量生産のニーズはないので、これまでの5分の1、あるいは10分の1の数の最終製品を5倍、10倍の付加価値で生産販売することで、最終的な帳尻を合わすしかないでしょう。
今回紹介するのも美顔器ですが、一般の製品とは違い、男性向けです。「これまでに存在しなかった市場を掘り起こす」というのも、マイクロモノづくりのコンセプトの1つです。また、マイクロモノづくりのコンセプトに従い、少量生産、高付加価値を目標に置き、それに適したブランディングとストーリー作りを目指しています。今回は、美顔器「iShape」開発者である協和技研 代表取締役 鈴木 紀男氏に、同社の製品開発についてインタビューしました。
マイクロモノづくりというコンセプトをより深く理解していただくために、今回はインタビューとその解説という形式で進めていきます。
――なぜいわゆる下請けである日本の町工場が、最終製品である美顔ローラーを作ろうと考えたのでしょうか?
鈴木氏:当社では、主に他社からの依頼でさまざまな製品の表面処理を行っています。現在数多くの美顔器が世の中に出回っていますが、その多くは中国で製造されていることを知っていました。「すべての中国製品が品質に問題あり」とはいいません。しかし実際に使用されている素材などをよく調べてみると、美顔器という人間の肌に触れる製品としては、安易なモノづくりが行われていると感じていました。
製造業仲間で、日本の町工場の叡智(えいち)をすべて集合した「本物志向のモノ」を作っていきたいと話し合っていました。
そんなとき、「ブラックシリカ」という北海道でしか採掘できない特殊な鉱石があることを知ったんです。そこで、いろいろと調べてみるとその効能は「トルマリン」や「ゲルマニウム」にも引けを取らないだけではく、場合によってはそれらより美容に良いことが分かってきたのです(注:ブラックシリカの効能には諸説あります)。
そこで、日本でしか産出しないブラックシリカを使い、日本の町工場が力を合わせて作り、品質にこだわり抜いた「メイドインジャパン」の美顔器を作ろうと考えました。
――マイクロモノづくりの基本コンセプトは、より高付加価値の製品を少量販売し、町工場が利益を出していくというものです。鈴木氏の「本物志向のモノ」というコメントは、まさにこの高付加価値製品づくりを目指すというマイクロモノづくりのコンセプトにしっかりとフィットしているといえます。
――その「ブラックシリカ」という鉱物をどのように知ったのでしょうか?
鈴木氏:ある日、突然北海道の方から電話があり、とある鉱物の表面を研磨してほしいとの連絡がありました。何のことかも分からず、引き受けることになったのです。その後、その鉱物が工場に送られてきました。工場に届いたものは30kgの岩石と、サンプルである粒状になったブラックシリカでした。サンプルと同じ状態になるように、いろいろ工夫して磨いてみたけれど、一向にきれいにならない。ザラザラになる……。非常に硬い鉱物だったのです。
そこで電話をしてみたところ、北海道にあるブラックシリカ健康館の館長 中村 正行さんから翌日に資料が届いて、これがブラックシリカだということを教えてもらいました。
ブラックシリカというものは非常に硬いもので、加工の途中で注意して扱わないと落とすだけで割れてしまいます。その性質はセラミックのような質感で形状を作るのが困難です。そして表面処理も難しいという代物。いまだに商品開発も続けています。
――マイクロモノづくりの考え方として、自社の技術の延長上としての最終製品づくりという考え方があります。共和技研の場合、自社の技術として表面処理、メッキ技術、そして共和技研の協力工場の技術として切削加工がありました。最終製品を造るからといって、新たな投資はせず、自社や仲間の持っている設備を使い、最小限のコストでまずは小さく試作品づくりから始め、サンプルを周囲に使ってもらいます。そして、その声を聞きながら製品の精度を上げていくというのがマイクロモノづくりの基本なのです。
――実際に、この種のフェイシャルローラーを製造することについて周囲の反応はどうでしたか?
鈴木氏:さすがに、「いまさら、同じもの(すでに世の中にあるもの)を作ってもどうなのか?」という反応は多かったことは確かです。「後発ならば、より良いものを日本の技術を発揮して作っていきたい」という思いを仲間に何度か話したところ、地理的にも近く、旧知の仲であるキャムブレーンの太田 実(キャムブレーン 代表取締役)などの仲間が賛同してくれました。そこから次第に周りの人たちが協力をしてくれるようになり、オールジャパンのモノづくりがスタートしたのです。
――町工場が最終製品を生産・販売しようとする場合、その多くは当初、周囲のネガティブな反応に出合います。場合によっては、「所属する工業会の中で孤立してしまう」、あるいは「周囲の賛同が得られず、必要な経営資源も得られない」「社長や担当者のペットプロジェクト(会社の業務とは独立したプロジェクト)として始まる」、といった場合が多いといいます。しかしながら、担当する人間の熱意に心を打たれ、賛同者が集まったとき、プロジェクト自体の求心力は相当なエネルギーになっていきます。
――なぜ日本製にこだわるのですか?
鈴木氏:日本のモノづくりにかかわる人間として、海外での製造ではまねできない、高い品質のモノづくりをしたいと考えているからです。ですからオールジャパンということにこだわりたかったのです。もちろん、国内で作るとコストが上がってしまうことは分かっていましたが、日本人の感性と品質を追求したかったのです。
――「日本製であるということ」にこだわったとは、具体的には?
鈴木氏:1つは、このスクリューローラーの形状です。人間の肌というのは平面なところはどこにもないのです。平らな形状だと当たっているところが少なくなってしまう。そこで、ロールを加えた形状にすることによっていつでもどこかの面が肌に当たっているような形状となるよう工夫しました。この形状は材料をマシニングセンタにより削り出すことにより作り出しています。
このデザインには、医学博士や整体師の方の意見を取り入れて形にしました。またロールする形状により、自然に弧を描くような動きになっています。このように、真っすぐ動かしても弧を描くようになっています。通常の六角柱の形状だと、平面でしか当たらず、またガタガタと衝撃が強く当たってしまいますが、6面7角42層にすると、滑らか、かつ弧を描くようにスムーズに肌に当たります。それにより、肌のすべての面に均等にブラックシリカが当たるようになって、「ほうれい線」のリフトアップにも役に立つようになっています。
実はこの製品の両端についているローラーは全部削り出しで作っています。大きめの材料からドリルで削っていくのですが、この6面7角42層という独特な形状を生み出すためには最適です。そのため、削り取った余分な部分はゴミとして捨てることになり、コスト的には高くついてしまいます。しかしそれでも、この形状と精度を出すためには、必要だったのです。
材質のベースは真鍮(しんちゅう)で、その上に本物のプラチナを噴いてメッキしています。このプラチナは非常に高価な金属ですが、実際に市販の化粧品の中にも入っているものもあり、その美肌効果は実証済みです。
さらに、メッキ部分が金のモデルもあり、こちらは24金仕様です、純金にしても金にしても、昔から肌の美白効果があるといわれてきました。できるだけ混ぜ物のない金メッキを使用しています。より本当の、本物志向を分かっていただければと、考えました。
また、日本製ならでのモノづくりとして、リサイクルを前提にモノづくりをしています。具体的には、長く使用して不要になったiShapeをリサイクルとして下取りをすることで、環境に負荷を掛けずエコシステムとしてのモノづくりを目指しています。
――鈴木氏がジャパンクオリティのモノづくりをいかに大切に考えているか分かります。また現在多くの中国製品が、売り切り型のモノづくりなのに対して、リサイクルを前提とした息の長いモノづくりを目指していることも分かります。それが、マイクロモノづくりのコンセプトである、高付加価値のモノづくりにつながるものです。
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