カッコいい彫刻のエフェクターボックスを売ってみたマイクロモノづくり〜町工場の最終製品開発〜(5)(1/2 ページ)

カッコいい彫刻入りのエフェクターボックスって売っていない。それなら、自分で作ればいい――そんな趣味を事業化!

» 2011年01月05日 11時00分 公開
[宇都宮茂/enmono,@IT MONOist]
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 マイクロモノづくりを成立させるためには、設備を持って製造する会社と、製品アイデアを持つ方とのコラボレーションが必須です。今回は、製品アイデアを持つ方からのアプローチで、マイクロモノづくりが成立した事例を紹介します。

 金子 栄治氏は昔から、趣味でギターを弾いていました。そんな中、ギターの付属パーツであるエフェクターボックスのカスタマイズもしていて、ブログでもその作品を発表し、仲間内で好評を得ていました。また「ブログを見た」という方からの問い合わせも、国内外を問わずに結構あったとのことでした。

ALT トランミット社製「エフェクターボックス」

 楽器店で、このエフェクターボックスのように、繊細な彫刻のあるアクセサリーが売られているのをよく見かけます。世のバンドマンたちが好みそうな柄のエフェクターボックスなのですが、これが、ありそうでなかったのです。

 エフェクターボックスというものは、なぜか、非常に簡素で無機質なものが通常だったのです。金子氏が自作していたような、凝った彫刻を施したものは、(金子氏が見ていた限りですが)それまで、見つけることはできなかったというのです。

 そのような背景から、案の定ともいうべき反響の大きさから、金子氏はそこからビジネスチャンスを感じ取り、これら自作パーツ関連の会社を起業しようと考えたのでした。

 そこで、東京都の商工会議所の指導を受けながら事業計画を作成し、金子氏は開業資金の融資保証を受け、トランスミット社をスタートさせたのです。なお、Web上で得ていた製品の反響も、融資保証を受けるにあたって大きな説得力となったとのことです。

肝心な加工先が見つからない……

 実際、町工場には営業と呼ばれる人がいないことが多く、どうしても「一見さんお断り!」の風潮になりがちです。その後の金子氏も、その風潮に巻き込まれていくことになります。

 金子氏は、事業開始後、ケースの装飾加工をしてくれる企業を探していきますが、なかなか見つかりません。もちろん、何社かの町工場へ問い合わせもしてみたのですが、どこからもきちんとした返事をもらえなかったのです。そんな中、ネットでいろいろと調査をしていた際に当社(enmono)を見つけ、相談にみえたのでした。

 まずわたしたちは、金子氏の打診がうまくいかなかった理由について、次のとおりに考えてみました。

ALT トランスミット社の代表取締役 金子 栄治氏

 金子氏自身は、エンジニアではありません。なので、まず設計図(図面)というものを持っていませんでした。ですから、製品のイラストおよび手作りのサンプル品を持って交渉をしていました。しかし、通常の町工場では、設計図を基にモノを作ることが通常であり、寸法の入った図面がない依頼では、まず、非常に戸惑うでしょう。さらに、今回のようなイレギュラーな仕事ということになると、予期せぬ仕事が増えてしまうことになります。

 故に、金子氏の依頼したい仕事を町工場が受けようとする場合には、大変割高な見積りを出すか、端から「できない」と対応してしまう可能性が非常に高くなってしまいます。貴重な経営資源を割いて仕事をする以上、「もうけにつながる」ということが、どうしても先決になってしまうからです。

 そのうえ、素性をよく知らない人からの発注となれば、さらに、壁は高くなってしまうでしょう。

 そこで、わたしの知り合いやモノづくり仲間の中で、対応してもらえそうな会社をどうにか探し出すことになったのです。

 その後、何社かに交渉を続けたところ、幸い、見積りなどの折り合いが付いた会社があって、実際に加工してもらえることになりました。その後、無事にケース装飾を納めることができたのです。

 しかし、さすがに納品まですんなりと運んだわけではありません。加工をしていただく中で、予期せぬトラブルなどは、どうしても出てくるものです。トラブルは、モノづくりにどうしても付き物ではありますが、この業界にいない方にとっては、それがなかなか想像しづらいところもあるように思います。

データ変換のトラブル

 ケースに彫刻するデザインは、金子氏自身がグラフィックソフトのIllustrator (Adobe Illustrator)でデザインを作成し、その線画データを彫刻メーカーの方に渡しました。彫刻メーカーでは、その線画データをDXFデータに変換して彫刻機で取り込んで、さらにそれをNCデータ化して彫刻の加工をしていきます。

 仕事を開始してすぐのころ、金子氏が装飾メーカーの方にIllustratorのデータを渡したところ、そのデータを基にしたDXFデータでは即加工できるNCデータに変換することができませんでした。

 このような装飾データは、デザインの線画データをアウトライン化(途切れていない輪状のデータにすること)してから、彫刻機が対応しているDXFデータに変換しますが、グラフィックソフトでの変換時にアウトライン化したはずの線が途切れてしまっている、あるいは線が重複してしまっている、などが原因で正常なNCデータに変換できない……、といったエラーでした。

 金子氏自身は加工データの受渡しなどの経験は少なかったため、エラーになる理由が分からず、「いったいどうしていいものか……」と思い悩み、ギブアップしそうになったとのことです。

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