クラウドファンディングによる資金調達は、マイクロモノづくりにおいては必須だ。自分が企画した製品の強みやカテゴリーを理解した上で、クラウドファンディングのサービスを効果的に利用しよう。成功の秘訣は「義理と人情」!?
今回から、「マイクロモノづくりにおけるクラウドファンディングの活用方法」について、前編・後編の2回で考えていく。
現在の「マイクロモノづくり」は、あらかじめクラウドファンディングのサービスを活用して資金調達し、モノづくりすることを前提に進める考え方となっている。クラウドファンディングが出現する以前と、それ以降のモノづくりのやり方がこれまでの方法論と大きく異なっている。
マイクロモノづくりのプロセスを以下の図1に示す。
マイクロモノづくりは、まず、中小企業経営者、もしくは個人の“メイカーズ”が自らモノづくりの企画をスタートするところから始まる。
クラウドファンディングは非常に便利なツールであるが、デザインや機構を先に世の中に公開することから、知財の確保が重要だ。
「捕らぬタヌキの皮算用」に時間をお金をかけるより、他人の“タヌキ”を盗んでいないかというチェックの方がより重要だ。万が一製品が大ヒットした場合、損害賠償請求を求められる場合もある。他人の知財を侵害していないかを調べるためには、IPDL(特許電子図書館データベース)で検索すればよい。
また、知財に関しての入門書も多数出ているので、そちらも参考にするとよいだろう。
次のステップとして、企画した製品の試作品(プロトタイプ)を自らの手で試作してしまおう。簡単にはいかないかもしれないが、自分の手で試作品を仕上げることが重要だ。プロトタイプを作ったら、とにかく周囲の人に見せてまわろう。何かしらフィードバックがもらえるはずだ。
会社の部下や、友人であればポジティブな意見ばかりかもしれない。もっとも手厳しく、意味のある意見は、自分の彼女や奥さんの場合もあるので、できるだけ多くの属性の身の回りの人に試作品を見せて、フィードバックをもらうとよい。
製品が“B2C(消費者向け)寄り”の場合なら、年に2回ほど開催されるアート系展示会「デザインフェスタ」に出展し、来場者から性能や価格に関しての意見をもらうことも可能だ。
町工場経営者や技術系メイカーズであれば、大抵、「試作品は作れても、デザインは苦手」である。自らデザインするには、ハードルが高いだろう。しかし、製品の基本コンセプトを自分の手で生み出さなければ、マイクロモノづくりは成り立たない。この部分の具体的な手法はマイクロモノづくり概論(1)を参照していただきたい。明確な製品コンセプトさえ自分で取り出せてしまえば、後はデザインが得意な人物を見つけて、共同作業をすることも可能だ。
重要なことは、デザインが先にあるのではなく、自ら生み出したい製品のコンセプトと試作品が先にあるべきだということである。デザインの方がより強力なツールであるので、製品の方がどうしてもそれに引きずられる傾向にあるからだ。知らず知らずのうちにデザイナーの作りたいもの、生み出したいものを優先させ、デザイナーの下請けになってしまう可能性がある。
知財のリサーチを済ませ、試作品を完成させたら、クラウドファンディングのサービスに製品コンセプトを掲載しよう。この際に重要なのは、自分の生み出した製品が、「スペック」「イノベーション」「ストーリー」のうち、どのカテゴリーなのかを明確に認識することである。
「スペック」は、既に市場に同様のコンセプトの製品があるが、製品のスペック(価格・性能)が従来品と比較して飛び抜けてた製品であるということである。例えば同じ性能だが価格が従来品の2分の1〜5分の1でそれが実現できる、もしくは製品の大きさ、重さ、バッテリーの持ち時間、スピードなどがこれまでの製品をはるかに凌ぐような製品であることだ。
具体例としては、米国のクラウドファンディングサイト「Kickstarter」で3億円近くの資金を調達した、3Dプリンタ「Form Labs FORM」が挙げられる。
「イノベーション」は、これまで世の中に存在していなかった製品で、その製品を使うことで人々の生活が大きく変わる可能性を秘めた製品だ。例えば、「Googleグラス」のようなウェアラブルデバイスのようなものだ。
こちらの具体例としては、上記と同じくKickstrterで7千万円近くの資金を調達した「FlyKly Smart Wheel」が挙げられる。
「ストーリー」は、古くからあるコンセプトのプロダクトで、その製品の背景にあるストーリーが明確にあったり、それを復刻し、新たなデバイスなどを付加して価値を加える、あるいはその製品が生み出された背景にある「作り手」のストーリーを付加価値として加えたものである。
具体例としては、日本の伝統工芸製品の技術をクラウドファンディングサービス「READYFOR」で支援する試みである「この道48年の彫り士が手掛けるApple製品のケース」プロジェクトが挙げられる。
また革新的なものでは、ロシアで生み出された、クラシックレンズを復刻してデジカメに対応した「Lomography Petzval Lens」がある。
クラウドファンディングを利用する際に、自分の生み出した製品の訴求点が上記のどのカテゴリーに入るのかを十分吟味した上で、クラウドファンディングに掲載するための以下のコンテンツを準備しよう。
「?」と思わせる言葉・トレンドの言葉をタイトルに入れるよう。例えば、「zenmono」では、タイトル文字数が30文字以下という制限があるので、短い言葉による表現で勝負となる。新聞や雑誌、Webマガジンなどの見だしをぜひ研究してほしい。
クラウドファンディングにおいて、「写真」の位置付けは非常に大きい。インターネット上に情報が氾濫する世界で、短時間でプロダクトのコンセプトを伝えるには、写真が最も効率がよい。クラウドファンディングの中では、「写真→動画→テキスト」という動線でユーザーを誘導していく。
従って、最初にユーザーを捉える写真撮影には、細心の注意が必要となる。具体的には、製品の特徴を最大限に引き出すカット、照明の当て方、露出などだが、写真のクオリティがユーザーにとっての最初のアイキャッチとなるので、撮影には徹底的にこだわりたいところだ。
ちなみに、筆者がこれまで支援したクラウドファンディングプロジェクトでは、プロジェクト企画者自身に、われわれが写真撮影方法を徹底的にレクチャーした上で、写真撮影をしてもらうようにしている。
パトロンを検討している一般のユーザーは、写真を通して製品に興味を持つと、製品コンセプトを理解するために動画を見る。
動画では、プロダクトのコンセプトだけではなく、その製品が生み出された背景ストーリーも知ることが可能だ。従って動画制作においては、そのプロダクトが生み出された背景のストーリーを十分に語ってもらいつつ、「製品の作り手の“生の声”をどうやって伝えるのか」を意識して編集するようにする。
仮に製品のスペックが飛び抜けて素晴らしい製品だったり、世の中になかったようなイノベーションを盛り込んだ製品でも、「作り手の生の声ストーリー」はあった方がよい。スペックやイノベーションが優れている製品に、さらに作り手の生の声が加われば、さらに説得力が増すプロジェクトになる。
当社が支援した全てのプロクジェクトで、プロジェクト起案者自身に動画の撮影や編集をしていただいた。最近では、動画の編集ツールを安価に手に入れられ、動画の編集についても、コツさえ覚えてしまえば、比較的簡単にできる。
ただし、全体の動画の構成を考えるのは、自分一人ではなく、プロジェクトに客観的に関われる人々も巻き込んでいくことが必要だ。
パトロン候補のユーザーは、最初にプロジェクトの写真にひきつけられて、その後、動画を閲覧して製品コンセプトを理解した後、最後にじっくり読むのがテキストだ。テキストを書く際には、誤字脱字に気を付けよう。それなりの対価でユーザーに寄付をしてもらおうとしている製品の紹介で誤字脱字があれば、それだけでたちまち信頼度が下がってしまう。
またテキストの文章の書き方も、よくあるECサイトのように商品のスペックや「ウリ」を前面に出すのではなく、その製品が生み出された背景にあるストーリーや、作り手の思いを表現しよう。
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