自社商品開発で失敗したことのある人にやってほしい「宝探し」マイクロモノづくり概論(1)

モノづくりビジネスを継続するためには、その理由やビジョンを明確にすることが大事だ。まずは、自分自身を見つめるところから始めよう。

» 2013年08月28日 11時00分 公開
[宇都宮茂/enmono,MONOist]

マイクロモノづくりとは

 私たちが「マイクロモノづくり」と名付けた新しい製造業の概念は、それを提唱し始めた2010年頃は、「下請け主体の中小企業(町工場など)が自社オリジナル商品を生み出すこと」だと考えていた(下記、引用文参照)。


 これから、日本国内における製品の生産ロットは少なくなっていき、売り上げは激減します。国内でのモノづくりも少量(マイクロ)になるため、従来のモノづくりでは生き残れません。生き残るには、単価を上げるか、ロットの種類を増やすか、海外展開するか、いずれかの方法が必要となります。

 そこで業態変化、マインドの変化など困難な道ではありますが、下請けを脱し、自ら商品を作り出し、世界を市場にしていくような企業へと変化する必要があります。マイクロモノづくりという概念は、その1つの鍵となります。

マイクロモノづくり〜町工場の最終製品開発〜(1)より

 そもそも、「何のために、自社オリジナルの商品を作ることが必要なのか」といえば、それはビジネスのためである。今や、従来と同じ考え方や手段ではビジネスを継続できないため、何とかしようと考えた結果、「自社商品開発」にたどり着くわけだ。

 さらにその奥には、「なぜ、自分たちはビジネスを続けなければいけないのか」という問いが出てくる。その答えに至る過程に、マイクロモノづくりの「手段としての価値」があるのではないかと最近は考えるようになった。要するに、マイクロモノづくりとは、「ビジネスを推進する人(経営者)の心理にスポットを当て、見つめる」作業である。

 さて、「技術を持つエンジニア」や、「デザインができるデザイナー」は、大抵、自分が持っている技術やスキルで何か物を作れないかと夢想することがよくあるだろう。しかし、それを自らがビジネスにしようとまでは考えないことが多い。とはいえ、「モノを作るのが好き」という気持ちだけで、取りあえず、何かしら作ってみるといったことは、多かれ少なかれ、体験しているのではないだろうか。

 私たちが支援している町工場の経営者の方々の中には、「せっかく何かモノが作れるのだから、売れるオリジナル商品を作りたい」といったことを考える人が結構いる。しかし、実際に作ってみたものの、さっぱり売れないということを何度か繰り返し、周囲の反対に抵抗する気持ちも薄れてしまい、結局は従来通りの仕事を継続する、といったケースが多かった。

 私たちは、そんな「くじけてやめてしまった人たち」に、自社商品開発へのチャレンジを再度提案しているのである。それは無謀なことだと思われるかもしれない。それにもかかわらず、私たちの提案に耳を傾けてくれて、「実際にやってみよう!」「また挑戦してみよう!」と言ってくれる町工場が少しずつ増えてきている。

 チャレンジする町工場のパワーをより大きくするには、そこに、デザイナーやエンジニアたちのアイデアが加わっていくのがよいだろう。この連載をお読みになり、興味が湧いた方は、ぜひenmonoにコンタクトしていただきたい。もしかして、思いもよらないビジネスが生まれるかもしれない。

何のために

 さて、「ビジネスを続ける理由」といえば、「ビジョン」「ミッション」「理念」などの言葉がある。つまり、「何のために」という問いかけである。マイクロモノづくりを通じて、「何のために」を問いかけ続けることで、見えてくるものがあるだろう。

 新規ビジネスは基本的に失敗の連続で、賛同者も少ないことである。そのためへこたれることが多々あって、通常なかなか、継続しづらいものである。しかし、自分がするべき目的(「何のために」)が明確になってくると、継続することが可能になってくる。それが、「理念」というものではないだろうか。

 「何のため?」――日本国内に中小企業は300万社ほどある。その中で仕事が順調で将来安泰という会社はどれぐらいあるのだろうか? どのような企業規模であろうとも、実際、状況はあまり変わらないのではないだろうか。

  • 「仕事って何なのだろう?」――誰かの「役に立つ」ことで、お金をいただく、ということ。
  • 「役に立つって何だろう?」――その方の「困りごと」を解決することで、感謝されるといったこと。
  • 「困りごとって何だろう?」――実は、それが何か、自分自身で気づいていない場合が多いのではないだろうか?

 日頃、私たちが町工場の方々などと話す中でも、こちらからある程度働きかけなければ、「困りごと」に気付いてもらえないことが多いように感じている。逆に、困りごとについて相談を持ちかけられた場合では、実はそれが「“真の”困りごと」そのものではない場合もあった。それを解決しても、問題が再発すると思われることが多々あるのである。

 ビジネスは、製造業の現場改善手法と似ている気がする。現場改善では、「なぜ、なぜ」と問いかけて、真因を探り、問題を見付け出して解決していくものだが、しかし最近は、その企業内だけでは、解決の種を見付けることが難しいという時代になってきている。つまり、改善手法だけでは問題解決が難しい時代なのである。過去の延長線上にその答えがないからだ。では、そういった場合、どうしたらいいのか。

 例えば、自分自身を振り返り、「人間は本当に何を求めているのか」というところまで深掘りすることで、取りあえず何となくは未来像が描けるはずである。それを形にすることで、少しずつ周りの反響を集めて、新たな価値を創造していくことが可能である。それは、ビジネスとして成立するかもしれないし、失敗するかもしれない。いずれにしても、試行錯誤をしていかなければ未来はないはずだ。

 人間は感覚や感情を持ち、その性質は昔からそれほど変わっていない。「感覚と感情に訴えかけるモノ」、すなわち、これを提供するのが“モノづくり”なのだろうと私たちは考えている。拡大解釈すれば、誰かの言いなりになっているだけの人でなければ、皆、何かしら“モノづくり”しているということがいえる。

 世の中の「誰かの言いなりなだけの人」「自分を持っていない人」が少しでも減って、皆が創造的になっていけば、ワクワクする未来が開けるのではないかと思う。

 自分以外に、たとえ10人しか賛同者はいなくてもよい。たとえその数は少なくても、TwitterやFacebookのやり取りを通じて、「自分一人ではない」ということを実感することができる。賛同してくれる方々への感謝の気持ちを携え、皆が創造性を発揮する。さらに、それを私たちが支援する……そういうことが、ムーブメントになっていけばよいと思う。

 マイクロモノづくりを手段として、少しでも多くの方々が、自分が「心からやってみたい」に気付き、天職ともいえる仕事に出合えることができるなら幸いである。

ワクワクする宝探し

 最後に、私たちが開催しているマイクロモノづくりを学ぶ講座の中で、実際に受講生の方にやっていただいている「ワクワクトレジャーハンティングチャート」を紹介する。「何を作ろうか」とモヤモヤしている方は、一度、「自分の中に眠っている宝物(アイデア)」を取り出す作業をしてみてはいかがだろうか。

ワクワクトレジャーハンティングチャート
記入例

 縦軸には、「自分が最もワクワクすること」を3つ書き出す。横軸には「自分が持っているスキル」を3つ書き出す。そうすると、縦軸と横軸に交点が9個できるはずである。この9個の中で、自分が最も心惹かれるところの付近に何かしら、本当に作ってみたいものが眠っているはずである。

 さあ早速、試してみよう!

うまく取り出せない人へ:自分が10歳だった頃の夏休みは、何にワクワクして遊んでいましたか?

(次回に続く)


Profile

宇都宮 茂(うつのみや しげる)

1964年生まれ。enmono 技術担当取締役。自動車メーカーのスズキにて生産技術職を18年経験。試作メーカーの松井鉄工所にて生産技術課長職を2年務めた。製造業受発注取引ポータルサイト運営のNCネットワークにて生産技術兼調達担当部長として営業支援に従事。

2009年11月11日、enmono社を起業。現在は、製造業の新事業立上げ支援(モノづくりプロデューサー)を行っている。試作品製造先選定、部品調達支援、特許戦略立案、助成金申請支援、販路開拓支援、プレゼン資料作成支援、各種モノづくりコンサルティング(設備導入、生産性向上のためのIT化やシステム構築、生産財メーカーの営業支援、生産財の販売代理、現場改善、製造原価、広告代理、マーケティング、市場調査、生産技術領域全般)など多岐にわたる。

Twitterアカウント:@ucchan

記事で紹介した企業も登場:MMS放送アーカイブ

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