製造業におけるVR活用が進む中で、視覚だけでなく“触覚”も求められるようになっている。VRの3D空間で触覚を再現するウェアラブルデバイスとして注目を集めているexiiiの「EXOS」は、既に日産やNEC、デンソーウェーブなどに採用されている。
製造業にとって、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった新技術の活用は極めて重要だ。これらと同様に活用が進もうとしているのが、VR(仮想現実)である。
中でも、製品設計プロセスにおけるデザインレビューや、工場などの作業のトレーニングの用途は本格的な導入に向けた評価が進んでいる。例えばデザインレビューの場合、3D CADで設計した3Dデータのレビューを2Dのディスプレイで行っていたわけだが、VRであれば3Dデータを3D空間の中でレビューすることが可能になる。
製造業におけるVR活用の検討が進む中で、ユーザーからさらなる要求も生まれている。それは“触覚”だ。VRによるデザインレビューやトレーニングでは、仮想の3D空間における視覚情報がしっかりと提供されている。しかし、3D空間の中で目の前にあるものを触ろうとしても触ることはできないのが実情だ。
このVRにおける触覚を実現するウェアラブルデバイスを開発しているのが、ベンチャー企業のexiii(イクシー)である。VRと触覚をつなげるための取り組みはさまざまあるが、同社の触覚ウェアラブルデバイス「EXOS(エクソス)」は、日産自動車、NEC、デンソーウェーブといった有力企業による先行評価を受けている点で大きく異なっている。
創業当初のexiiiは、高価な筋電義手を安価に実現する「handiii」によって広く知られていた(関連記事:150万円以上する筋電義手を10万円に、handiiiの挑戦)。しかし2016年11月、handiiiや、handiiiの技術をオープンソース化したプロジェクト「HACKberry」の事業はNPO法人のMission ARM Japanに移管された。そして、新たに山浦博志氏が代表取締役に就任したexiiiでは、義手の開発で得られた技術と知見を生かした新しいプロダクトの開発に取り組むこととなった。
山浦氏は「handiiiと同様に、人間と機械の協調というテーマの中で検討してきたのが、VR向け触覚ウェアラブルデバイスであるEXOSのコンセプトだった。筋電義手の開発で培った、解剖学的知見や、デバイスを身に付けることの制約、モーター技術を応用することで実現することができた」と語る。
触覚を感じさせるデバイスで広く採用されているのが、皮膚への振動刺激を利用する手法だ。EXOSによる触覚は、この振動刺激は用いていない。EXOSに組み込んだモーターによって、実際に人間の指や腕といった体を動かすことで触覚を再現している。「皮膚だけでなく関節と筋肉によって感じる、触覚の深部感覚までを含めて再現することを目指した」(山浦氏)という。
exiiiでは、2017年1月にEXOSの基礎技術を発表した後、さまざまな業界の顧客からの要望を受けつつ、商品化を進めてきた。同社 COO プロダクトリードの金子大和氏は「VRが注目を集めているエンターテインメントや遠隔コミュニケーションをはじめさまざまな要望を受けたが、製造業からも多くの引き合いをいただいた。特に要望されたのが、デザインレビュー、トレーニング、ロボットコントロールの3つだった」と説明する。
これらの要望に応える形で2018年2月に商品化したEXOSのラインアップは2つ。手首を前後左右に動かした時の触覚を再現する「Wrist(リスト)」と、指でモノをつかむ触覚を再現する「Gripper(グリッパー)」だ。
そして、グリッパーとリストと併せて発表したのが、EXOSを活用した「CADデータに触れる」をうたう3Dデザインレビューシステムである。この発表では、日産自動車のグローバルデザイン本部による、自動車デザインプロセスの早い段階でのリアルなデザイン検証における活用検討を明らかにしたこともあり話題になった(関連記事:CADデータに触れる3Dデザインレビューシステムを開発)。
3D空間の中で触覚を再現できるので、運転席に座った状態から、ステアリングやルームミラーがどの位置にあるのか、ヘッドユニットのボタンはどれくらい押しやすいのか、といったことをモックアップに匹敵するレベルで検証できるようになる。
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