「iPhoneをカッコよく振り回したいぜ!」とふと思った町工場の社長が、夜な夜なコツコツと開発した面白ガジェットとは。その開発の軌跡を紹介しよう。
今回紹介するのは横浜市金沢区のニットー 代表取締役の藤沢秀行氏です。同社は、機械加工からプレス、金型、治工具製作と幅広くモノづくりに携わる会社です。
藤沢氏は横浜国立大学を卒業後、日本発条に入社。そこで製品開発に従事し、その醍醐味(だいごみ)や面白さを十分に味わったそうです。後に、自身の父上が設立したニットーに戻って、9年間の修行を経て、2006年に社長(代表取締役)に就任しました。
そんな藤沢氏とわれわれenmonoの出会いのきっかけは、MONOistで2012年4月1日に掲載された「童心に返る――春のおばかモノづくり祭」(以下、おばかモノづくり祭)の作品を募るために立ち上がったFacebook上の企画準備ページでした。
そこに投稿された「iPhone Trick Cover」の動画は、強烈でした。特に、その主の「目力」が……です。
この動画を見た時点で、われわれは、アップ主の藤沢氏とまだ直接お会いしたことがありませんでした。この連載でも登場した木型メーカー ミナロの代表取締役 緑川賢司氏が、製造業仲間である藤沢氏をこの企画に引き込んでくださっていたのです。
その動画を見たわれわれは、すぐに藤沢氏にコンタクトを取り、お会いさせていただき、それから本格的なお付き合いが始まっていきました。
おばかモノづくり祭は、「停滞感が漂う日本の製造業に、せめてエイプリールフールだけでも『ワクワクする』感覚を取り戻せたらいいな」という、MONOistの編集記者とenmonoの思いが重なって実現した企画でした。
その企画の目的は、「本格的なプロのモノづくり技術で、いかに“おばかな”ことを実践するか」、そして「日本の製造業界に清涼感をもたらし、中小製造業の存在感をアピールすること」としていました。
あくまで「MONOistの読み物」のためのネタが、まさか本当に製品化し、販売までこぎつけるとは、あの企画に参加した誰もが想像していなかったのです。
藤沢氏の行動力と巻き込み力は、まさに脱帽モノです。
そもそも、藤沢氏がiPhone Trick Cover(以下、Trick Cover)を思い付いたきっかけとは、何だったのでしょう? それは、おばかモノづくり祭の企画が始まる以前にさかのぼります。
もともとニットーでは、既存の受注加工の業務以外に、自社製品開発にも力を入れようとしていました。自社製品開発力を高めていく活動の一環として、スマートフォン関連製品を開発したいと考えていたのです。「B2C向けの製品開発をすることで、B2B向けの提案力も高め、既存のお客さま(B2B)にも満足していただこう」という目的でした。
そんな中、藤沢氏はいろいろな製品コンセプトを企画していくうちに、「iPhoneをヌンチャクやバタフライナイフみたいに振り回してみよう」と思い立ったのです。
Trick Coverは、「ペン回し」や「ジッポーのライターをカチャカチャといじる」など――それ自体にはあまり意味はないけれど、何となくやってしまう動作をiPhoneカバーで実現したらどうなるか? という発想からそのアイデアが生まれました。
このiPhoneカバーの企画について、藤沢氏は社員の何人かに話してみたのですが……。「面白そう」という反応はあったものの、企画だけの“モノがない”状態ということもあって、「果たして、ちゃんとした製品になるのかどうか……」といった少々不安な感じの反応が多かったようです。そういうこともあり、ニットー社内ではひとまずこのプロジェクトはペンディングとなっていました。
それが、おばかモノづくり祭への参加がきっかけとなって、再び動き出したのです。
藤沢氏は自分のアイデアを、社内や周囲の人々に対して具体的に伝えるために、自ら3次元CADを用い、Trick Coverの初期設計を進めました。もちろん、会社として正式なプロジェクトではないので、会社の業務終了後や、土日の余暇を使ってコツコツ進めていました。
初期モデルは機構を複雑にし過ぎて、部品点数が多くなってしまいました。その上、カバーと本体ともにアルミ板金で仕上げたために重くなり過ぎて、とても振り回せる物ではなかったそう。この反省を生かし、次の試作モデルでは、本体側の機構をシンプルにして軽量化し、ヌンチャクのように素早く振り回せる物に仕上げていったということでした。
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