ご存じのように太陽電池からの出力電流は、直流である。一方、現在の電力網は交流で送電しているため、既存の電力網に接続するためには、直流を交流に変換しなければならない。変換に使う装置を「パワーコンディショナー」と呼ぶ。
現時点のパワーコンディショナーは変換ロスがかなり低くなっている。逆に言えば限界に近づいている。しかし、数年前から、パワーコンディショナーの世界でも、大きな技術進歩があった。SiC(炭化ケイ素)を使った「SiCパワートランジスタ」の開発が軌道に乗ったことである。
パワーコンディショナー内部では、DC-AC変換(直流交流変換)や昇圧、降圧といった処理が行われている。このような技術は、さまざまな方式の発電技術の登場によりますます重要になってくる。
SiCパワートランジスタを使用したパワーコンディショナーは、従来型に比べて効率が高く、熱をほとんど出さないため装置の寸法が10分の1程度になると言われている(図8)。もちろんそのぶん軽量化も期待できるため、設置コストが大幅に下がるだけでなく、輸送費も下がり、冷却モジュールも小型化するため、パワーコンディショナー自体の価格も下がると期待していいだろう。
既にSiCパワートランジスタは幾つかのメーカーが量産に入っており、あと2〜3年でパワーコンディショナーに内蔵するパワートランジスタはSiCタイプが主流になるだろう。
もう1つ手の届くところにある技術が伝送技術だ。これまで、送電には交流が向くと考えられてきた。交流は電圧を変えやすく、高圧にすればあまり減衰しなくなるからだ。
ただし、送電距離が伸びると直流送電が有利になる可能性がある。例えば、直流伝送のエキスパート企業であるスイスABBの事例だ。2000kmの距離を80万Vという超高圧直流で伝送して、ロスが7%しかないという*8)。2000kmを日本の国土に置き換えると、ほぼ札幌から奄美大島を直線で結んだ長さに相当する。
*8)「ABB、世界最長の送電プロジェクトを4.4億ドルで受注 全長2000 kmの超高圧直流(UHVDC)送電で電力損失を大幅に低減」(発表資料)。なお、超電導技術は利用していない。
日本国内では2000kmを直接送電する必要はないが、これまで考えもしなかった距離、例えば日韓、日中、日ロ間での電力融通も、伝送距離だけを考えたら可能である。2000kmだと、東京−南京間ぐらいは引けることになる。日韓はもっと近いし、ロシアだと東京−ハバロフスク間でも1500kmしかない。
まさに生き馬の目を抜くがごとく、電力関係の技術革新はかつてのIT技術並みのスピードで研究・開発が加速してきている。最近では太陽電池そのものよりも、発電施設として成立させるための周辺技術にさらなる高度化が求められている。太陽電池には関係なくとも、思いもよらない会社の中に役に立つ技術が眠ったままになっているかもしれない。宝の山を掘り当てるつもりで、もう一度自社研究技術の総点検をしてみてはどうだろうか。
【訂正】記事の掲載当初、3ページ目にフレネルレンズの拡大写真と太陽電池セルの写真が掲載されておりましたが、これは大同特殊鋼から公開の許可を得ていない写真でした。写真2点の公開を停止し、システムの概念図(図5)に置き換えました。お詫びして訂正いたします。上記記事は訂正済みです。
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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