現時点で変換効率が世界最高水準にある太陽電池セルは、シャープが開発したInGaP(インジウムガリウムリン)/GaAs(ガリウムヒ素)/InGaAs(インジウムガリウムヒ素)3接合型であり、集光しなくても36.9%の効率を誇る(関連記事、図6)。現時点では高コスト過ぎるため、一部の宇宙開発用に利用されるのみだが、集光により効率がさらに上がるならば、現実的な損益分岐点に収まるかもしれない。
ただ集光型にも弱点がある。1つはレンズで集光した光が正しく太陽電池セルに合焦しなければならないので、かなりシビアに太陽の方向を追従しなければならないことだ。追尾するには可動型架台に載せる必要がある。さらには直射日光でなければならないので、残念ながら温暖湿潤気候が中心の日本には向いていない。日本に住んでいると、天候としては晴れだが、一部に雲があってちょうど太陽が隠れている、ということが頻繁に起こる。日本人にとっては当たり前の天候だが、これでは運任せの発電になってしまうのである。
では太陽電池ごともっと太陽に近づければよいのではないか、という発想――メガソーラー施設を宇宙に出してしまったらどうか、という考えに至る。宇宙空間では放射線や真空、低温といった特殊条件が加わるが、既に人工衛星などで太陽電池の利用実績が積み上がっており、地上よりも効率が上がることが分かっている。
ただそう簡単に地球外発電が実現しないのは、打ち上げコストが莫大(ばくだい)で割に合わないからである。また発電した電力をどうやって地上に送るかという問題も、解決していない。
その点で可能性があるのが、軌道エレベーターである。これは静止衛星から地上に届くまでケーブルを垂らしたような構造の、ひも付きの人工衛星のようなものである。最大の利点は、物資の運搬にロケットを利用せず、モーターを使ったエレベーターで上げ下げするために、運搬コストが非常に安くなるというものだ(図7)。
急に話がSFチックになってきたと思われるかもしれないが、論理的には十分に可能で、さらに昨今の技術革新によって急速に現実的なものになりつつある。
かつての技術的な課題の最たるものは、静止軌道といわれる高度3万6000kmからケーブルを垂らすと、ケーブルの自重で切れてしまうことであった。しかし1991年にNEC筑波研究所の主席研究員であった飯島澄男氏によって炭素だけからなる「カーボンナノチューブ」が発見されたことをきっかけに、この問題がクリアされる可能性が出てきた。図7の施設でもケーブル材としてカーボンナノチューブを想定している。
もちろん建設には技術的問題以外にも法的な問題があるだろう。例えば地上側のベースステーションは海洋上に作って移動可能なようにするとしても、単独の国で実現できる事業ではないわけだから、国際協定が必要である。もちろん発電した電力をどのように分配するかという問題もある。
これを突き詰めていくと、世界共有の電力ネットワーク網が必要になるわけで、技術的には可能でもハードルがいろいろあって目がくらむ。もっともその心配も、軌道エレベーターが作れたとしたらという話で、現時点で存在する計画では順調にいっても、あと20〜40年ぐらい先のことになる。
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