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» 2011年09月16日 12時30分 公開

どうなる!? 日本の有機EL技術〔中編〕有機ELディスプレイにおけるサムスン、LGの知財動向を読む知財コンサルタントが教える業界事情(7)(3/3 ページ)

[菅田正夫,@IT MONOist]
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特許情報から見た有機ELディスプレイ事業の発展

 図2と図3を比較しながらご覧ください。特許出願件数が多いといわれている日本だけでなく、巨大市場である米国、有機ELディスプレイ事業に取り組んでいるサムスンとLGの技術開発拠点がある韓国の出願件数が多く、さらには将来の市場と見なされる中国への出願件数の多いことも分かります。

 図2は、主要各国の電場発光光源の特許出願状況です。ここには有機EL照明/ディスプレイ、LEDデバイスが含まれます。

図2 図2 日米欧・韓国・中国における電場発光光源の特許出願状況(有機EL照明/ディスプレイ、LEDを含む)

 一方の図3は、主要各国の有機発光デバイスの特許出願状況です。こちらにはLEDデバイス関連の特許は含まれていません。

図3 図3 日米欧・韓国・中国における有機発光デバイスの特許出願状況(LEDを含まない)

 図2の各国の電場発光関連特許の年度ごとの件数推移と、図3の各国の有機発光デバイス関連特許の年度ごとの件数推移をご覧いただきたいと思います(推移は発行年ベースで整理)。

 特許が公開されるまでの期間は通常1.5年であり、2011年は9月までしか経過していないので、2010年と2011年の発行件数は、期間から見積もっても4分の3程度、さらに公開になっていないものもあるでしょうから少なめになっています。それにもかかわらず、図3(日米欧・韓国・中国の有機発光デバイス特許出願状況)の発行年2010年と2011年が横ばい(あるいは落ち込みが少ない)であることに注目してください。この事実は、各企業の有機発光デバイス分野における技術開発と事業開発への意欲が大きいことを反映しています。

 無料の特許データベースの機能の制約から、特許の発行年で整理しましたが、特許出願から公開(公報発行)までの期間は通常1.5年ですから、ここでは「発行年−1.5年」が特許出願時期であろうと推測することにします。

 図2の電場発光デバイス特許には、通常LEDと呼ばれる半導体発光デバイス(GaN系など)だけでなく、有機ELディスプレイや有機EL照明も含まれますが、図3の有機発光デバイス特許には、LEDデバイスは含まれません。


無料で利用できる特許データベースの機能には限りがあります。そこで、近似としてIPC(国際分類)の電場発光関連の特許分類「H03B33」を使って各国の特許件数推移を調べてみました(図2を参照)。この特許分類はLED(発光ダイオード)を対象にしており、半導体発光ダイオード(GaN系など)だけでなく、有機EL(ディスプレイや照明)も含まれています。そして、図3は近似としてIPC(国際特許分類)の有機発光デバイス関連の特許分類に相当する「H01L51/50+ H01L51/51+ H01L51/52+ H01L51/54+H51//56」を使って、各国の特許件数推移を調べたものです。なお、この分類は有機物だけを対象としています。


 このことを考慮しながら、図2(日米欧・韓国・中国の電場発光デバイスの特許出願状況)と図3(日米欧・韓国・中国の有機発光デバイスの特許出願状況)を比較すると、2003年ごろまではLED技術開発と有機EL技術開発が熱心に進められたため、特許件数が急増し、2003年ごろにLED技術開発は一段落したものの、それ以降も有機ELの技術開発と事業化への意欲は持続していると推測されます(本ページ下コラム参照)。

サムスンとLGの特許出願競争

 図4は、サムスンとLGが世界中の国や地域に対して出願した特許のうち、有機発光デバイスの特許件数推移(縦棒グラフ)です(推移は発行年ベースで整理)。

図4 図4 サムスンとLGの有機発光デバイスの特許出願状況

 サムスンとLGは日本や欧米の企業と合弁でディスプレイ事業開発を進めましたが、それぞれの合弁相手企業は2000年代半ばごろに企業経営の観点から有機ELディスプレイの事業開発に対する投資意欲を失い、相次いで撤退しました。

 一方で、サムスンとLGの両企業とも2000年代初めごろから特許の出願件数を加速的に増やしています。つまり、この時期に日本や欧米との合弁事業の技術開発の成果が出始め、自社の特許出願件数が増加させたものと推測されます。

 結果論ですが、経営的判断に基づくとはいえ、技術開発成果が出始めたころに日本企業が有機ELディスプレイ事業から撤退したことはとても残念です。

 前述の通り、特許が公開されるまでの期間は通常1.5年であり、2011年は9月までしか経過していないので、2010年と2011年の特許発行件数は少なめになります。それにもかかわらず、図4(サムスンとLGの有機発光デバイスの特許出願状況)の2010年と2011年が増加(あるいは落ち込みが少ない)していることに注目してください。

 この事実は、サムスンとLGの有機発光デバイス分野における技術開発の進展と事業開発への意欲がとても大きいことを反映しています。ここでは、韓国企業の知的財産に対する貪欲さを示す最近の例として、次の2つの事実を挙げておきましょう。

 2011年8月末、海外企業による特許攻撃に対応するため、韓国政府が設立した韓国の研究所や大学などが保有する知的財産の管理企業「インテレクチュアル・ディスカバリー」の大株主として、サムスン電子28.1%とLG電子20%の名が浮上したと報じられました。このことは、韓国が国家支援の大手企業連合体制にあることを示唆しています。

 もう少しさかのぼった2011年7月には、東京工業大学と科学技術振興機構の持つIGZO薄膜半導体(酸化物半導体)の知的財産について、サムスンがライセンスを獲得しています。

 後者については、当面の目的は液晶ディスプレイの高解像度化と大型化が狙いでしょうが、LGが狙う大型TVに対抗可能なサムスン製大型有機ELディスプレイ(有機ELテレビ)への布石の可能性もあります。



コラム:LEDデバイスの特許出願動向について

 三原色のLEDのうち、赤色LEDが1990年までに実用化され、青色LEDが1993年に、青色と同じ材料系の緑色LEDが1995年に、そして白色LED(青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせからなる疑似白色LED)が1996年に、それぞれ実用化されています。

 つまり、2003年ごろにはLEDの技術開発が一段落したため、図2で示した電場発光光源の特許出願件数は減少傾向に転じています。それに対し、図3で示した有機発光デバイス(有機ELディスプレイや有機EL照明)では、技術開発と事業化の意欲が堅持されており、各国に出願される特許件数が維持され続けていると推測できます。

 そして、図3の有機発光デバイス特許において、韓国における発行年2010年と2011年の特許件数の多さは、2008年以降のサムスンとLGの特許出願競争の激しさを反映した特許出件数となっています。


◇ ◇ ◇

 今回は、有機EL分野における韓国および政府とタッグを組んだ韓国企業のしたたかな知財戦略に注目してみました。有機ELを題材としたシリーズの最後となる次回は、欧米および日本企業の立ち位置を検証する予定です。お楽しみに。

備考:分析仕様・条件

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。調査方法は連載記事「自社事業を強化する! 知財マネジメントの基礎知識」で解説していますので、こちらも参照ください。

無料データベース

項目 内容
海外特許 Espacenet Patent search - Advanced search
日本特許 特許電子図書館(IPDL)特許分類検索特許分類を知る

分析条件

項目 内容
海外特許 IPC(国際特許分類)で、電場発光光源はH03B33(電場発光光源)を含む特許。有機発光デバイスはH01L51/50(有機発光素子)、H01L51/52(有機発光装置)、H01L51/54(有機発光材料)、H01L51/56(有機発光素子および装置の製造)のいずれかを含む特許
日本特許 Fタームのテーマコード3K107(エレクトリックルミネッセンス光源)に注目し、有機ELディスプレイは3K107AA01*3K107BB01を、有機EL照明は3K107AA01*3K107BB02を、それぞれ含む特許
企業名について グループ企業も含めて検索を実施(サムスングループの企業はSamsungで、LGグループの企業はLGでそれぞれ検索)


「知財コンサルタントが教える業界事情」バックナンバー

筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。



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