サプライチェーンの問題に多くの製造業が振り回される中、SCMシステムでもさらなる進化が求められている。そのカギを握るポイントの1つである環境問題への対策について、Blue Yonder 最高サステナビリティ責任者のサスキア・ファン・ヘント氏に話を聞いた。
地政学的問題や環境問題など、製造業ではサプライチェーン管理において考慮すべき観点が増え、これらの管理システムにも新たな進化が求められている。その中で、今後SCM(サプライチェーンマネジメント)システムの新たなポイントとなりそうなのが「AI(人工知能)技術の活用」と「環境問題への対応」だ。今回は前後編に分け、これらの2つのSCMの新たな方向性について、統合型サプライチェーンプラットフォームを展開するBlue Yonder(ブルーヨンダー)におけるキーマンのインタビューを行った。
AIについて聞いた前編「AIはSCMシステムに何をもたらすのか」に続き、本稿では、最高サステナビリティ責任者(CSO)のSaskia van Gendt(サスキア・ヴァン・ゲント)氏に、SCMシステムと環境問題対策の関係性について話を聞いた。
MONOist ブルーヨンダーでは、製品やソリューションでのサステナビリティへの貢献について取り組みを強化していると聞きました。具体的にどのような考えで取り組んでいるのでしょうか。
ヴァン・ゲント氏 私は長年、環境問題に取り組んできました。現在はブルーヨンダーにおいて、企業としてのサステナビリティ推進に加え、ソリューションへ環境的価値を組み込む役割を担っています。
従来は、カーボンフットプリントの削減といっても、個々の企業や工程などで削減を進めていけば問題ありませんでした。しかし、製品ごとにサプライチェーン全体でのカーボンフットプリントが要求されたり、取引条件として外部に公開したりする必要が出てきました。SCMシステムでこうした情報を管理していく必要が出てきています。これらを一元的に管理できるようにすることで、例えば、カーボンフットプリントを削減するという観点で、サプライチェーンの計画や倉庫や在庫の管理、物流など、モノの動きを最適化し、削減へのアクションを行えます。
ブルーヨンダーのSCMソリューションは、需給計画から倉庫運用、物流など、サプライチェーンの全領域をEnd-to-End(E2E)でカバーしており、サプライチェーン全体のアクティビティーを把握できるポジションにあります。また、それぞれでタッチポイントを持っており、サプライチェーン全体のカーボンフットプリントの現状を把握し、それを削減していくために大きな役割を果たすことができます。
MONOist 一部のグローバル企業や欧州企業などを中心にサプライチェーン全体でのカーボンフットプリント開示を求める動きがあったり、欧州では実際に規制が強化されたりしています。これらの影響は感じていますか。
ヴァン・ゲント氏 顧客企業と話をしていると、規制によるプレッシャーは明らかにあります。欧州の製造業や小売業のアーリーアダプター層は特に敏感に反応しており、複雑なサプライチェーンにおけるカーボンフットプリントなどを規制に合わせて可視化し、対策に向けたシナリオ構築や最適化が進んでいます。欧州企業は特に、物流なども含めて全体のコスト削減につなげる取り組みと組み合わせて積極的に進められている印象です。一方で、米国企業はポイントソリューションにフォーカスしているように感じています。
ブルーヨンダーでは、1つの企業の中でのサプライチェーンにおける環境情報を一元管理するだけでなく、複数企業間での情報共有するデータシェアリングなどにも使えます。サプライヤーとのカーボンフットプリント情報のやりとりを簡単に行えるようにするためにも使えるのです。
MONOist 実際に複数企業のデータ共有をブルーヨンダーを通じて行っているケースもあるのですか。
ヴァン・ゲント氏 ライフサイエンス分野の顧客企業では、ベンダーごとのリスクアセスメントをブルーヨンダーのシェアリングソリューションを通じて行っています。気候リスクや天候、地政学的な問題などの情報について、全てのベンダーとサプライチェーンをカバーしています。
欧州では2024年7月にコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive、CSDDD)が発効されました。これは、EU域内で一定規模以上の企業に対して、サプライチェーン上の人権、環境リスクを調査/対策する義務を課すもので、サプライチェーンにおける環境や人権のデューディリジェンスの実施や開示が求められています。これらの情報を把握するためにブルーヨンダーを使っているケースがあります。
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