3Dプリンタの普及のカギを握る「特許」の存在を、知財と企業戦略の専門家が読み解く本連載。2回目となる今回は、具体的な特許情報に触れながら、普及のポイントについて解説する。
知的財産(知財)を通じて、業界を読み解く連載「知財コンサルタントが教える業界事情」ですが、3回に渡って3Dプリンタについて紹介しています。前編の「3Dプリンタの歴史をひもとく」では、3Dプリンタがどういう変遷を遂げて進化してきたのか、という歴史を振り返りました。中編では、具体的な特許情報を挙げて、その中で3Dプリンタの将来的な技術発展の方向性について解説しようと思います。
前回は、3Dプリンタを支える積層造形技術の名称が「Additive Manufacturing(付加製造)」と呼ぶことを説明しましたが、現在実用化されている主な付加製造には、次のものがあります。なお、特許については特許権の成立したものを記載しています。
そして、光造形特許(Hulls特許)は2009年に既に権利期間の満了を迎えており、FDM特許(Crump特許)も2014年に権利期間満了を迎えます。技術的支配力が大きい特許の権利期間満了が近づくと、業界の新たな動きが活発になることがあります。例えば有機ELでは、米国コダックが持っていた1987年のTang特許「US 4,720,432」が権利期間を満了したことが、市場の活性化をもたらしました(関連記事:どうなる!? 日本の有機EL技術〔前編〕ただの撤退ではない日本企業のしたたかな知財戦略を見る)。
3Dプリンタに関わる基本的な特許は1980年代後半に出願されています。そのため、特許権利期間の満了を迎えたものや、迎えつつあるものが、3Dプリンタ市場拡大を加速させているといえます。
なお、現在10万〜数十万円程度で市販されている低価格の3Dプリンタは、熱硬化性樹脂を用いたFDM技術を採用したものであり、Fab@HomeやRepRapにオープンソースとして装置構成やソフトウェアが公開されています。*)
*)オープンソース(3Dプリンタの装置構成やソフトウェアを公開)について
3Dプリンタは、企業でなければ扱えないような投資が必要な精巧な装置から、個人でも扱えるような廉価な機器まで幅広く存在しています。3Dプリンタに用いられる、3次元CADデータも、精巧な設計に基づく企業の製品レベルのものから、物体をただ単に3Dスキャナーで3次元データ化しただけのものまで、幅広いレベルのものが存在します。これらのことを背景に、3Dプリンタは当初からハードとソフトの両面で、オープン化の問題に直面しています。また知的財産面での問題とオープンイノベーションとも非常に深い関わりを持っています。
光造形とFDMによって、3Dプリンタ市場の拡大とともに、SLS(Selective Laser Sintering:レーザー焼結)は金属が対象の3Dプリンタとして注目を集めました。現在では、EB(電子ビーム)を金属材料に用いることも可能になっています。
このように、3Dプリンタには、さまざまな製造用材料が用いられています。しかし、金属をそのまま利用する場合を除き、使用される材料には何らかの添加物(加工性向上を目的としたものなど)などが介在します。添加物として使われる化合物の構造式などの一部は特許出願されています。しかし、それ以外の材料技術的な要素は、企業の機密情報として扱われ、営業秘密(トレードシークレット)として管理されるようになります。そのため、企業における知的財産の保護においては、企業独自のノウハウとその管理方法が極めて重要になってきます。*)
*)トレードシークレットについて
トレードシークレット(営業秘密)で保護を行うための3要件には、秘密管理性、有用性、非公知性の3つがあります。技術を特許で保護しない場合には、企業としては先使用権の確保を講じておく必要があります。各国での先使用権確保の参考資料としては、以下があります。
企業は「確固たる自社のビジネスモデル」を築きあげるために、3Dプリンタ関連技術に関わる「訴訟に耐える強い特許の出願/権利化」と「ノウハウ保護体制の構築」を戦略的に進める必要があります。
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