印刷技術を応用した回路・センサー・素子製造の技術はどこまで進展しているか? 各国がしのぎを削る開発競争を見る。
「次世代プリンテッドエレクトロニクス技術研究組合」が2011年3月に結成され、同年5月31日から始動しました。そして、2012年9月にはフレキシブル・プリンテッド・エレクトロニクス国際学会(応用物理学会主催:東京)も開催されます。
そこで、今回は「フレキシブル・プリンテッド・エレクトロニクス分野」に注目してみたいと思います。今回は出願年に注目したいので商用データベースを試用しています。
プリンテッド・エレクトロニクス(Printed Electronics)とは、プリンティング(印刷)技術を活用し、電子回路/センサー/素子などを製造することを意味しています。これまでは「将来はプリンティング法で可能になるであろう」との観点から、プリンタブル・エレクトロニクス(Printable Electronics)といわれていました。
最近では、「技術的には可能になっている」との観点から、プリンテッド・エレクトロニクスといわれるようになっています。そして、メンブレン・キーボード*の電極印刷、自動車の窓ガラス熱線、RFID(Radio Frequency Identification)タグアンテナなどに、既に応用されています。
プリンティング技術を活用して作成される電子機器は柔軟性を持つことから、フレキシブル・エレクトロニクス(Flexible Electronics)ともいわれ、大面積薄膜のエレクトロニクス製品を実現するものと期待されています。ですから、国際学会(2012年9月開催)の名称「フレキシブル・プリンテッド・エレクトロニクス(Flexible and Printed Electronics)」は主催される方々の工夫がこもった名称なのでしょう。
本稿では、技術を区別して述べるために、それぞれの用語を次のように定義して話を進めることにします。
このことを図で示そうとすれば、図1のようになるでしょう。
現在、ほとんどの半導体/ディスプレイ/電子製品は、フォトリソグラフィー技術を用いて、電子回路の微細パターンが作製(パターニング)されています。シリコン半導体では、価格競争力を高めるために、大面積シリコンウェハー上に多数の半導体チップを作り込む方式が採用されています***。
*メンブレン・キーボード キーボードのスイッチ方式の1つ。2枚の接点シートと絶縁シートを用い、キー押下時に接点が触れる仕組み。安価な製造が可能なため、現在流通しているものの多くにこの方式が採用されています。
** プラスチック・エレクトロニクス(Plastic Electronics) 作製手段ではなく、有機系/高分子系材料を用いていることに特徴があるときには、欧州などではプラスチック・エレクトロニクスという名称も使われており、日本では有機エレクトロニクスともいわれています。
昔からのプリント回路基板もプリンティング技術を用いて作られたものであり、「プリンテッド・エレクトロニクス」という名称では、製法自身の何が新しいのかが分かりにくい、という欠点があります。こうした事情から、プラスチック/有機物を主体とするエレクトロニクスを目指す場合には、「プラスチック・エレクトロニクス(Plastic Electronics)」という名称で、対象技術分野をより明確にしていると推察されます。
*** シリコン半導体の製造 2001年から直径300mmサイズのシリコンウェハーが製造されており、次のステップとして450mm化が検討されています。
しかしながら、この方式では安価な製品の製造に限界があります。しかも、大面積化を目指すエレクトロニクス製品の製造においては、フォトリソグラフィー技術を用いた作製法のままでは、製造コストを抑えることが困難になっています。
プリンテッド・エレクトロニクス技術では、半導体/ディスプレイ/電子製品をプリンティングにより生産するわけですから、通常の半導体製造プロセスで用いられる露光・エッチングなどを必要としません。ですから、化学物質の使用量減少が期待でき、地球環境にやさしい製造プロセスとしても注目されています。
このような現状を踏まえ、「転写法」が有機ELディスプレイ(サムスン)に、「スリット・コート法」が有機EL照明(パナソニック)に、「ロール・ツー・ロール(R2R)コート法」が有機薄膜太陽電池(Konarka Technologies)に、それぞれ製造法として既に用いられており、プリンティング法は格段の技術的進歩を遂げています。
プリンテッド・エレクトロニクスの技術開発では、欧州の産学官の動きが特に活発で、既に10年ほど前から研究開発が行われています。これを追って、台湾や韓国でも組織的な開発が最近始まっています。台湾や韓国での組織的な取り組みは、プリンテッド・エレクトロニクスの時代が近づいていることを示唆していると推察しています。
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