電子回路は、能動素子である半導体と、受動素子であるL(コイル)、C(コンデンサ)、R(抵抗)の組み合わせで構成されています。半導体としては、ロジック、メモリだけでなく、発光/受光素子も含まれます。
トップゲート型半導体ならば、R2Rプリンティングプロセスを4回繰り返せば形成可能とされています。すなわち、従来のリソグラフィーを用いたプロセスに比べ、プリンテッド・エレクトロニクスでは格段に省略された作製プロセスとなります。とはいっても、現段階では試作品レベルの話であることも理解しておかなければなりません。
近年の材料技術の進歩は著しく、大気中のプリンティング法で作製された有機半導体でも、約5cm2/Vsの移動度が得られており、アモルファスシリコン(a-Si:H)のレベルに達しています*。
そして、配線材料としては、銀(Ag)−熱硬化型接着剤の組み合わせが用いられていますが、金属ナノ粒子インクを用いた配線形成においては、150℃で体積抵抗10-6Ω・cmオーダー、さらに常温熱硬化(キュア)でさえも低体積抵抗の配線が得られています**。
プリンティング法には、インクジェット法、グラビア・コート法、スプレー・コート法、スリット・コート法など、さまざまな方法がありますが、インク特性、基板のヌレ性、スループット、さらには作製できるパターンの微細性までを考慮した製造法の使い分けが必要になります。
全てのプロセスをプリンティングで形成できるデバイスはまれですから、デバイスの配線接続やラミネートが必要になります。その際に使われる導電性接着剤には130℃以下のキュア温度やタクトタイム10秒以内の特性が求められています。
ここにきて、日本ではプリンテッド・エレクトロニクス用インクジェット装置が話題になっています。
例えば、産業用インクジェット・プリンタでプリンタブル・エレクトロニクス分野に大きく貢献したとして、富士フイルムは「第1回プリンタブルエレクトロニクス大賞」を受賞しており**、日立化成はプリンテッド・エレクトロニクスに適した銅膜形成技術を開発したと公表しています***。
このような状況を見渡すと、インクジェット法による製造装置は試作段階を越え、作製すべき対象物に適合させたプロセス設計段階へと移行していると推察されます。
そこで、インクジェット法による製造装置関連の世界/地域/各国における特許出願状況に注目してみることにしましょう。
* 高移動度を持つ有機半導体 T.Uemura et al,Applied.Physics Express,2,11501(2009)
** 配線材料 D.Wakuda etal.Chem.Phys.Letters,441[4-6],305(2007)
** http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0616.html
*** http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/information/2012/n_120209.html
図2の各国/地域のインクジェット法による製造装置関連特許*件数推移(縦棒グラフ)を見てください(分析内容はコラムを参照)。図が大きいので、全体像と併せて各国/地域のグラフを拡大して掲載します。なお、2000年の米国公開特許件数は約1カ月分であることと、米国公開特許は「米国以外の公開制度のある国にも出願された特許」が公開対象になっていることにご注意ください。
特許出願の第一の担い手である企業は、技術開発を行う国や地域(技術開発拠点国)、およびビジネスに関わる国や地域(生産国・流通拠点国・市場国)に特許出願すること*を考慮しながら、図2の各国/地域の特許出願件数推移をご覧ください。
* 特許出願地域について 企業は知的財産戦略の観点から、技術開発を行う国や地域(技術開発拠点国)、およびビジネスに関わる国や地域(生産国・流通拠点国・市場国)に特許を出願します。
企業が特許出願にかける費用は、日本出願の場合、社内コストや当初の権利維持費まで考慮すると1件当たり約100万円で、外国出願まで行うとなれば翻訳費用を含め約300万円となり、複数国に出願ともなれば約500万円となります。
ですから、特許出願件数は各国/地域の技術開発支援意欲と企業の事業開発意欲が反映されたものになると推察されます。
次ページで各地域の詳細を見ていきましょう。
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