実用化はどこまで? プリンテッド・エレクトロニクス業界の開発競争を読む知財コンサルタントが教える業界事情(12)(2/7 ページ)

» 2012年03月21日 15時00分 公開
[菅田正夫@IT MONOist]

プリンテッド・エレクトロニクスの実現に必要な技術と各国の開発動向

 プリンテッド・エレクトロニクスを実現するには次の要素技術を必要としています。

  • インクとなる有機/無機/金属のナノサイズ材料技術
  • 高精度のプリンティング技術
  • プリンテッド・エレクトロニクスに適したデバイス設計技術

 それでは、各地域/国の技術開発状況を概観してみましょう。

技術開発で先行する欧州

 ドイツとイギリスでは、多額の国家予算を投入した基礎的な技術開発が行われています。大手総合エレクトロニクス企業(シーメンスやフィリップスなど)がプリンテッド・エレクトロニクスの技術開発に力を入れる一方で、それらの企業からスピンアウトしたベンチャー企業も着々と育っているようです。大型プロジェクト(EU/企業連合/国ごとの取り組み)の推進が、ベンチャー起業の資金循環を支える構図となっており、材料技術とプリンティング技術のノウハウ蓄積が進められています。

 EUの国際競争力強化プロジェクトとして、情報技術全般に関わる大規模なプロジェクト「FP7(Seventh Framework Programe)」があり、現在は「EP7 of the European Community for research technological development and demonstrations activities(2007 to 2013)」が進められています。

 EP7では、ICT(情報通信技術)分野における欧州産業競争力の向上が進められています。ここでの技術開発テーマの中に「有機材料と大面積エレクトロニクス、表示およびディスプレイシステム(Organic and large area electronics, visualization and display systems)」があります*。

 予算は630万ユーロで、EUがプリンテッド・エレクトロニクス分野でリーダーシップを取ることを目標に、20近いプロジェクトが進められています。

 ドイツでは、2005年からの3年間に、「PRISMAプロジェクト」で、RFID(無線認識)関連技術開発が進められました(投資規模:720万ユーロ)。そして、2008年からは高性能・有機RFIDタグ開発のための、「MaDriXプロジェクト」が進行中で、1500万ユーロが投資されています(参加企業:PolyIC、BASF、Evonik Industries 、ELANTAS Beck、Siemens)。

 ここでは、シリコンICタグに代わる、低コストの「R2R方式による有機ELタグ」を開発し、最終的にはバーコード読み取りの全廃を狙っているようです。

 ドイツ連邦教育研究省は、2007年に情報通信分野のR&D戦略「ICT 2020 Research for Innovations」(Hightech-Strategie für Deutschland)の中で、R&D促進のため2007年から2011年の期間に14億8000万ユーロのプロジェクト助成をすると発表しています。そして、「ICT 2020」の技術開発支援テーマには次の6つがあります。

(1)電子デバイス生産機器分野の研究開発クラスタの拡大

(2)EDA(電子回路/システムの設計自動化)技術利用の拡大

(3)新応用分野開拓のために必要な新機軸の電子デバイスの開発

(4)有機電子デバイス・素材開発

(5)磁気マイクロシステム

(6)RFIDタグ/スマートタグ

 ドイツの化学系企業BASFは有機系材料を重視しており、100%子会社の「BASF Future Business」では次の3つを重点技術開発テーマに掲げています。

(1)有機EL(OLED)

(2)有機薄膜太陽電池(OPV:Organic Photovoltaic)

(3)プリンテッド・エレクトロニクス

 さらには、BASF Future Businessが運営する「Joint Innovation Lab」では、有機ELと有機薄膜太陽電池の技術開発が進められています。ドイツ政府が6000万ユーロを、参加企業が3億ユーロを、それぞれ出資しています**。なお、有機薄膜太陽電池の技術開発にはボッシュ、メルク、ショットなどの企業も参加しています。

 英国では、ロンドン大学、マンチェスター大学、ケンブリッジ大学などに、プリンテッド・エレクトロニクスCOE拠点(Center of Excellence:研究教育開発の拠点)が設けられています。なお、英国の大学からスピンオフしたスタートアップ企業が多いことが特徴です***。

 また、ベルギーのエレクトロニクス研究機関であるIMEC(Interuniversity Microelectronics Centre)がTNO(Netherlands Organisation for Applied Scientific Research)と共同で、オランダに大規模な開発拠点であるHolst Centreを設けて、有機薄膜太陽電池(OPV)に取り組んでいます****。

Holst Centreで取り組まれている「EP7」のORICLAプロジェクトでは、低温薄膜技術で作製したRFID回路を用い、読み取り/認識の双方向通信を世界で初めて可能にし、技術開発のマイルストーンをクリアしたとの報道があります(2012年3月1日)*****。



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