いや〜、日本知財開発産業の件は参ったなぁ〜。うちの会社も、もう少し知的財産をしっかりとマネジメントしないといけないな、地西君。
そうですね。私もいろいろと本や雑誌で"他社から警告状が送られてくるリスク"については理解していたのですが……。
〜〜……しばしの沈黙ののち、路保社長は偵察を指示しました〜〜
……それはそうと、君に中国で開催されているワールド・ロボットアーム展示会に行って情報収集をしてきてほしいんだ。
あぁ、あの世界各国からロボットメーカーが出展する大規模な展示会ですね。
最近、特に中国企業の動きが活発だから、様子を探ってきてほしいんだ。
分かりました。早速出張の準備に取り掛かります。
〜〜地西さんは中国のワールド・ロボットアーム展示会に到着しましたが……。〜〜
あれ!? このロボットアーム、うちの会社のUDEによく似ているなぁ……。あれ、こっちの会社のも似ている……。ちょっと担当者に聞いてみよう。
スイマセン、このロボットアームなんですが、少しお話聞かせてもらえますか?
このロボットアームですが、XXXXという仕組みを使って、円滑なアームの動きを実現しています。かなり中国企業には売れてますよ。
これって、日本のロボットアーム工業株式会社さんの方式ですよね?
そうです、そうです。よくご存じですね?
あ、ありがとうございました。
(うちの会社のXXXX機構は日本だけではなく、米国・ヨーロッパ・中国・韓国・台湾にも特許を出していたはずだが……。何でまねされるんだろうか……!?)。
〜〜地西さん、日本に戻ってきて路保社長に報告しています。〜〜
社長、大変です! うちのロボットアームUDEの模倣品が中国で出回っているようです。これが写真です。しかも中国メーカーの担当者に話を聞いたら、うちのXXXX機構を使っていると悪びれもせずにいっていました。
う〜ん、確かに。これはうちのロボットアームUDEにそっくりだ。でも、なぜだろう? XXXX機構については中国にも特許出願していたはずだが……!?
社長、DEF特許事務所に行って事情を確認してきます。
よろしく、頼むよ。
〜〜DEF特許事務所へ行ったAさん。弁理士先生から説明を受けています。〜〜
御社のXXXX機構については確かに4年前に特許出願しています。日本だけではなく、米国・ヨーロッパ・中国・韓国・台湾にも特許を出しておきたいとのことだったので、PCT出願(注5)で出願していますね。
ぴーしーてぃーしゅつがん?
簡単にいえば、全世界への特許出願の手続きを一本化するための仕組みです。特許というのは属地主義といって、日本で登録になった特許は日本でしか権利が有効ではありません。もしも米国でも権利を利用したいのであれば、米国に特許出願して審査を経て登録になる必要があります。
今回、中国に行ったら自社のXXXX機構の完全に模倣品が出ているのですが、なぜでしょうか? PCT出願で中国にも特許を出願していますよね?
確かに、御社はPCT出願を使ってXXXX機構関連特許を中国に出願しています。しかし、出願した後に何にもアクションを取っていませんね。つまり、出願はしたけど登録になっていないという状態です。
なぜですか?
うちの事務所からはアクションを取った方がいいのではないでしょうか、という提案はさせていただいたのですが、確か記憶によれば、路保社長から「いや〜ちょっと最近資金繰りが厳しいんで、特許の権利化にはちょっとお金を掛けられないんです」という回答がありましたね。
そうでしたか……。もういまから中国特許出願を登録にすることはできないんですか?
ちょっと期限が過ぎているので、難しいですね……。
注5:PCT出願とは
日本国特許庁・PCT国際出願制度の概要(http://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/kokusai1.htm)
◇ ◇ ◇
会話の中でも出てきたとおり、特許権は属地主義といって各国で出願・権利化する必要があります。また、出願しただけで、その後のアクションを取らないと登録になりません(一部、勝手に審査を行ってくれる国や審査を行わないで登録になる無審査主義の国もあります)。
出願すれば安心! ではなく、しっかりと登録になるまで気を抜かないようにしましょう。知的財産権の取得にはお金が掛かりますが、自社の事業を強化するために絶対に必要な経費です。しっかりと計画を立てて資金確保に努めましょう。
今回のケースのように中国にXXXX機構について出願しているのですが、登録になっていない場合、XXXX機構は公知技術となります。つまり誰でも使っていいのです。自社の強みであると思っていたXXXX機構が自社だけの強みではなく、誰でも自由に使えてしまうのです。
知的財産権には特許権のように公報となって公開されてしまうものもありますが、一方で営業秘密やノウハウのように人の目に触れないようなものもあります。新しい発明が生まれたからといって、何でもかんでも特許として出願すればいいというものではありません。特許として出願した方がいいのか? ノウハウとして秘密にしておいた方がいいのか? こういった自社の保有技術をどのように囲い込むかも知的財産戦略の重要な側面です。
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