EV関連技術の開発競争が熾烈(しれつ)を極める中、注目を集める米テスラ・モーターズ。一体どんなポジションを狙っている?
日本が強いはずと認識されている技術分野は果たして本当に優位に立てているのでしょうか。本連載では知財戦略の観点から、日本企業のモノづくりと企業力を検証、国際競争での真の実力を見ていきます。(編集部)
皆さん、こんにちは。日本技術貿易の野崎です。知財コンサルタントが教える業界事情シリーズの第2回は、2010年12月に日産自動車から発表されたLEAF(リーフ)で今後本格的な普及が期待される電気自動車(EV)業界に焦点を当てたいと思います。
2009年夏に量産が開始された三菱自動車のi-MiEV(アイミーブ)、富士重工業(スバル)のプラグイン ステラ、そして昨年末に市場投入された日産自動車のLEAFと各社から次々と電気自動車が発表されています。当面はハイブリッド車中心の戦略を描いていたトヨタ自動車もiQをベースとした電気自動車を2012年までに日米欧で市場投入することを発表しました。
日本企業だけではなく、ベンチャー企業が活発に活動しているアメリカでもEVブームが巻き起こっています。そのEVブームの中心にいるのが2003年に設立されたテスラモーターズ(Tesla Motors, Inc. )です。2009年5月にダイムラーが出資し、2010年1月にはパナソニックとの次世代電池の共同開発を発表、5月にトヨタ自動車が出資およびEV開発での提携、さらに2010年11月にはパナソニックが3000万ドルを出資して関係強化を打ち出しました。
大手自動車メーカーであるトヨタ自動車やダイムラーだけではなく、三洋電機を子会社に持つ大手電池メーカーのパナソニックからの出資も受けたテスラ。今回はこのテスラの実力を知財面から検証したいと思います。
図2にテスラモーターズの日本・米国・欧州における公開特許件数推移を示します。テスラ初の特許が公開されたのは2006年のWO特許(PCT出願(注1))です。PCT出願は複数カ国へ特許出願を行う際の手続きを一本化するための仕組みなので、当初からワールドワイドに特許出願・事業展開を狙っていたと考えられます。
その後、徐々に特許公開件数が増加しており、直近2010年では米国で37件、欧州では21件、日本でも4件の特許が公開されています(注2)。テスラは昨年11月にアジア初となる販売店を南青山に設置していますので、日本への特許出願・権利確保にも余念がないといえます。
注1:PTC出願については、「自社開発品が特許侵害に?! 身近に潜む知財リスク」でも言及しています。
注2:今回の分析ではドイツ特許庁が提供するデータベースDEPATISを利用しています。そのため最新分の日本特許収録までにはタイムラグが生じてしまいます。日本特許電子図書館IPDLで検索を行うと、9件の特許がヒットします。
次にテスラはどのような技術分野の特許を出願しているのか図3から確認してみましょう。図3は各特許に付与されているIPC(国際特許分類)から、技術分野別件数分布を見たものです。米国や欧州では約半数の特許がバッテリ関連となっています。テスラの電気自動車の特徴として挙げられるのが、電気自動車用に開発が進められている大型バッテリではなく、ノートパソコンなどに利用されている18650という汎用的なリチウムイオン電池を採用している点です。汎用的なバッテリを電気自動車に適用するための技術を日米欧で特許出願し権利確保しようとしている表れであるといえるでしょう。
国際特許分類(IPC)とは、国際特許分類に関するストラスブール協定に基づいて作成された世界共通の特許分類であり、特許の技術的な内容を示すもの。
参考URL:http://www.e-patentsearch.net/patent_classification/ipc.html
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