製造現場の品質管理 “5M”カイゼンの心構え〔前編〕実践! IE:現場視点の品質管理(4)(2/2 ページ)

» 2011年08月01日 14時25分 公開
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5Mと品質管理

 製品品質に人の要素が影響しない場合はほとんどなく、機械や材料だけでは何も作り出すことはできません。市場が要求する品質の製品を早く・安く提供し、顧客に満足してもらう一連のプロセスのほとんどを人が行っているということを、再認識しなければなりません。同時に、人が作り出す製品も、作る人の水準(レベル)次第で良くも悪くもなることも忘れてはなりません。

人(Men)

(1)人間の本質を知る

 人によって仕事の成果が影響を受けるという、有名な実験結果があります。

 米ウェスタンエレクトリック(現・アルカテル・ルーセント)のホーソン工場である実験が行われました。従業員の能率に影響を及ぼすと思われるいくつかの要因と能率増大についての相関関係を調べる実験です。

 まず、作業能率に重大な影響を与えると思われていた照明、休憩、作業環境を改善してみました。すると、予想通り能率は向上したのですが、予想と異なり、この環境改善を中止しても作業能率は依然として、向上し続けたのです。

 この実験では最終的に、作業環境の改善よりも、作業に対する態度や勤労意欲の持ち方の方が、能率や品質に与える影響が大きい重要な要素であることが分かったのです。

 態度、勤労意欲の他に、人によって異なる作業能率のバラツキの原因には、次の3つの本質的な問題の存在があります。

  • 人間は、本質的に変化に対して抵抗するものである
  • 人間は、本質的に新しいものに対して抵抗するものである
  • 人間は、本質的に批判されることを嫌うものである

 品質を高めるには上記のような人間の持つ本質的な欠陥をスムーズに取り除くことが大切なのです。

 これには、「仕事の本来の目的」「仕事の重要性」「仕事の正しいやり方」をキッチリと指導していくことが重要です。

(2)教育目標の設定

 教育訓練は、その必要性が認められていても、具体的な到達目標が与えられなければ、訓練計画も教育もできません。現場の管理者は、訓練の目標として、その人がどこまでの能力を持っているか、また、どこまでの能力を持たなければならないかを具体的に知っておくことは当然のことです。

 人は、学ぼうとする熱意と正しい訓練の結果によってのみ、高いレベルまで到達できます。

 訓練目標は、画一的な設定でいい場合、個別に対応して詳細に何度も指導する必要がある場合と、多様なケースが考えられます。設定すべき目標は日常業務の中にありますから、具体的かつ確実に把握できるのは、本人と上司となるはずです。

T.W.I

 訓練方法の1つとして、T.W.I(Training Within Industry)の活用があります。

 T.W.Iは、職場訓練または監督者訓練と呼び、JI(作業の教え方)、JM(改善の仕方)、JR(人の扱い方)の3つから構成されています。

 T.W.Iでは、現場管理者の必要条件として、2つの知識、(仕事の知識・職責の知識)と、3つの技能(JI、JM、JR)があります。これを生産の3条件である品質向上、納期厳守、原価低減に運用して、O.J.T(On the Job-Training)を通じて日ごろから活用するよう心掛けて実践することも効果的です。


(3)自主性の醸成

 人材育成は、現場の管理者と作業者個々の間に信頼関係が確立していて、集団的にも個人的にも組織を掌握し、全員が技能の研鑽(けんさん)や学習に励み、Q・C・Dと、仕事との関係の深さを認識して、作業者自らが、その向上に向けて自主的に努力する状況を創出することです。

 管理者と部下との人間関係を向上させる手段には、上司と部下という立場を離れて、同じ目線で自由に意見交換することによって上下関係の障壁が除かれ、両者の関係が改善されていきます。仕事の指導も、指示も、単に事務的な一方通行ではなく、お互いに自由な意見交換ができる双方向のコミュニケーションが望ましいことはいうまでもありません。

 ここまでで、生産の品質水準を左右する5Mの概要と、5Mの1要素である「人(men)」の品質を高めるための心構えを紹介しました。次回は、5Mの残り4つの要素について、それぞれの問題となりやすいポイントや改善に向けた心構えを解説します。

 お楽しみに。

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筆者紹介

MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)


日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。


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