次に、ESAについて解説します。
ガソリンエンジンでは点火プラグで点火してから点火プラグのギャップ付近で火炎核ができ、この火炎が燃焼室全域に伝わって燃焼圧力が上昇します。この時間を着火遅れ時間といいます。点火時期はこの着火遅れ時間(TD)を見込んで早めの点火時期(進角)にする必要があります。このTDは基本的に混合ガスの圧力、つまり負圧により変わります。また、TDは時間ですので角度で表すとエンジン回転数によって変化します。負圧は吸入空気量に対応します。つまり、基本進角θ0も吸入空気量とエンジン回転数により決まるため、ECUは2次元マップになっています。
実際の進角値θは式3になります。
θ = θ0 + θk(補正進遅角)……式3
θkは補正進遅角でθk = θ1 − θ2 + ……で、暖機時補正(進角)や高温時補正(遅角)などの補正が行われます。進角するとシリンダの最大圧力は高くなりますが、NOxが多くなり、ノッキングが起こるため、最適な点火時期に制御しなければなりません。点火時期は進角(クランク角度)θをいまのエンジン回転数から換算してクランク角の所定の基準位置(角度)からの遅れ時間T1として出します。これを図7に示します。
図7 点火信号説明図 |
点火コイルはインダクタンスのため、通電を開始してもすぐに満充電の電流(これ以上電流が流れない)になりません。満充電の電流になるまでの時間Tiが必要です。満充電の電流により蓄積されたエネルギーが点火エレルギーとなります。
従って、点火時期T1が決定したら、それよりTi時間前、つまり所定の基準位置からT2(= T1 − Ti)が点火コイルへの通電開始時期となります。この通電開始時期と点火時期が点火信号となります。
図8にガソリンエンジン電子点火制御システムを示します。
図8 ガソリンエンジン電子点火制御システム |
図8(A)はシステム図、図8(B)は各気筒への点火信号のタイムチャートです。このシステムは、デストリビュータ(配電器)をなくして点火コイルを気筒ごとに装着した個別電子配電方式です。デストリビューターの点火システムは、個別電子配電方式と比較して安価ですが、1万V以上の高電圧をローターとポイントで各気筒に分配して、ハイテンションコードで各気筒の点火プラグに配電するためにノイズを外部に放射しやすいのと、ハイテンションコードによる電力損失があります。従って、ノイズを出さない効率の良い個別電子配電方式が現在主流になりつつあります。
以上、EFIとESAを紹介しましたが、現在ではそれぞれ独立したECUではなく、EFI、ESA、スロットル制御などを1つのECUで総合的に制御するエンジン総合制御システムになっております。
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今回紹介したEFIとESAは、ガソリンエンジン制御の主役であるといっても過言ではありません。この2つの制御システムを理解できればほかのエンジン制御システムも比較的容易に理解できると思います。
さて、次回は“エンジン制御とエレクトロニクス”の第2弾として、「“ディーゼルエンジン”とエレクトロニクス」と「“トランスミッション”とエレクトロニクス」について紹介する予定です。ご期待ください。(次回に続く)
【参考文献】 (1)「カーエレクトロニクス」 志賀 拡、水谷 集治/山海堂 (2)「自動車の電子システム」 荒井 宏/理工学社 (3)「クラウン新型車解説書・修理書・配線図集」 トヨタ自動車 (4)「自動車メカ入門―エンジン編」 GP企画センター/グランプリ出版 (5)「クルマのメカ&仕組み図鑑」 細川 武志/グランプリ出版 (6)「自動車エンジン要素技術 II」 エンジンテクノロジー編集委員会/山海堂 |
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