次に、エンジンの電子制御システムの基本といえる「EFI(Electronic Fuel Injection:電子制御燃料噴射)」と「ESA(Electronic Spark Advance:電子進角制御)」について説明します。
排気ガスが規制される前の燃料供給にはキャブレタが使用されていました。
キャブレタは、エンジンが吸入する空気流量に応じ、ベンチュリー(注5)で生じる負圧を利用して燃料を調量し、ノズルで霧化して燃料室へ送り込む装置です。
注5:ベンチュリーとは、キャブレタの空気通路に設けられた絞り部のこと。 |
キャブレタは吸入空気量に応じて燃料を燃焼室に送り込むため、計量と噴射を1つのデバイスで行っています。しかし、空気の流速を利用しているため、温度による空気密度の変化への対応が困難でした。また、燃料との混ざり具合も必ずしも良くはありませんでした。こうした問題を解決するために、電子制御による燃料噴射の仕組み「EFI」が開発されたのです。
EFIの基本は空燃比を一定に保つことなので、
空燃比 = 吸入空気量 / 燃料量
から
燃料量 = K × 吸入空気量(K:比例定数)
が求められます。従って、吸入空気量を測定できれば必要な噴射量が求められるのです。
『一定の条件で、負圧(吸気管内圧力)は吸入空気量に比例する』という原理を利用した圧力センサがあります。このセンサは間接的に空気量を計測しますのでいろいろな補正が必要ですし、ほかのセンサよりもエンジン適合が必要です。直接空気量を測るエアフロメータとしては、メジャリングプレートの動きを利用した「ベーン式エアフロメータ」や、カルマン渦を利用した「カルマン渦式エアフロメータ」があります。ちなみに現在は、空気抵抗の少ない「熱線式(ホットワイヤー)エアフロメータ」が多く使用されています。これを図4に示します。
図4 熱線式エアフロメータの概略 |
図4(A)は熱線式エアフロメータの構造、図4(B)は熱線式エアフロメータの原理を示しています。図4(B)のように熱せられたワイヤーの温度と吸気温の差を抵抗変化量として「ホイーストンブリッジ」で検出し、温度差を一定に保つようにワイヤーの電流を制御します。この電流は直接質量流量に比例します。この方式は空気密度補正が不要であり、応答性も良いです。このセンサもエレクトロニクスのたまものといえます。エアフロメータにより、高精度の吸入空気量を測定できましたので、後はECUで計算すれば燃料量が求められます。
しかし、正確に燃料を噴射するインジェクタがなければ何もはじまりません。
インジェクタはON/OFF弁ですから、供給燃料圧力を一定にしておけばON時間と燃料量は比例します。しかし、4気筒エンジンで回転数が6000rpmとすると、吸入行程の時間は5ミリ秒となり、この間に燃料噴射を終了しなければなりません。つまり、インジェクタの応答性は2ミリ秒程度は必要です。
当時、「こんな高速のインジェクタが本当に実現できるのか」と疑問視されていましたが、それを開発した会社がありました。それは、ドイツのBosch社です。Bosch社はベーン式のエアフロメータも開発し、最初のEFI(商品名:L-Jetronic)を作りました。リフト量をなるべく少なく(90μm)して要求に合う噴射量を出すメカニカル構造、磁束を有効活用にした磁気回路、コイルのインダクタンスを少なくして応答性を向上させた回路により、高速のインジェクタを実現しました。
図5に当初の「ピントル式インジェクタ(注6)」を示します。
図5 ピントル型インジェクタ |
注6:ピントル式とは、噴射ノズルの一種で針先の先端がノズルまで突き出たものをいう。 |
ピントル式インジェクタのノズルの先端は円すい形状になっており、燃料は円すい噴霧されます。ちなみに、現在のインジェクタは基本的な構造や作動原理は当時と変わっていませんが、先端のノズルを多孔式にすることで燃料を微粒化するなど、いろいろな工夫や改良がなされています。
図6にガソリンエンジン燃料噴射システム(4気筒)を示します。
図6 ガソリンエンジン燃料噴射システム |
スロットルの前にエアフロメータがあります。インジェクタは吸気バルブに向けて装着され、O2センサは三元触媒の直前に装着されています。エアフロメータで計測された空気量をエンジン回転数で除算し、定数を乗算すれば1噴射当たりの基本噴射時間が求められます(式1)。実際の噴射時間Tは式2のようになります。
基本噴射時間T0 = K0(定数)× Q(吸入空気量)/N(エンジン回転数)……式1
T = K × T0 + Tv(無効噴射時間:噴射に寄与しない時間)……式2
Kとは、噴射補正係数のことで、K = K1 × K2……(K3 + K4……)で、加減速時や暖機時補正などによって決められます。O2センサは酸素分圧が高い希薄燃焼(空燃比14.7より大)では小さい電圧を、酸素分圧が低いリッチ(濃い)燃焼(14.7より小)では大きい電圧を出力します。基準値と比較して理論空燃比より濃い(H)か、薄い(L)かを判別して、濃いときには減量補正を、薄いときには増量補正をして常に理論空燃比になるようにECUによって制御します。
また、各部品の経年変化などにより、当初の基本噴射量が理論空燃比から外れる場合もあります。ECUではフィードバッグ補正量を長時間かけて統計処理をして、フィードバッグの中央値が理論空燃比になるようにT0を修正します。これを「空燃比学習補正」といいます。この制御もマイコンならではの制御といえます。なお、最近ではシリンダに直接燃料を噴射する直噴ガソリンエンジンが登場しています。高圧燃料(約6〜13MPa:注7)で噴射されるために霧化が良くなることと、直噴により成層燃焼(注8)できるため、燃費が向上します。しかし、高圧のフューエルポンプや、より精巧な高圧インジェクタが必要となり、その分コストも掛かります。そのため、主に高級車に採用されています。
注7:国際的に圧力の表示は「Pa(パスカル)」。1kg/cm² = 98.067kPa = 0.9678気圧。つまり、1kg/cm² ≒ 100kPa = 0.1MPa ≒ 1気圧となる。 注8:燃焼室内に濃混合気と希薄混合気とを層状に形成させて、全体として希薄混合気を燃焼させる方式をいう。 |
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