「キーレスエントリー」に代表される自動車の利便性と、電力供給をつかさどる「バッテリー」「オルタネータ」について詳しく解説。
今回は「コンビニエンスとエレクトロニクス」と「電源系とエレクトロニクス」の2つのテーマについて解説していきます。
コンビニエンス(convenience)は、日本語で“便利”“利便性”などと訳されます。このことからも分かるとおり、自動車におけるコンビニエンスは、自動車の基本性能や安全、環境対策などに直接かかわるものではありません。あくまで、ドライバや乗員の利便性を考えたものです。しかし、自動車におけるコンビニエンスの中にはドライバの負担軽減やヒューマンエラーの防止が図られたものもあり、考え方によっては間接的に安全走行に寄与しているともいえます。
最も利便性のありがたみが感じられるのは「ワイヤレスリモートコントロールシステム」によるドア開閉システムだと思います。このシステムはドアのロック(施錠)とアンロック(解錠)をその都度、キーをキーシリンダに差し込まなくてもリモート(遠隔操作)で行えるようにしたものです。例えば、買い物袋を両手いっぱいに抱えているときや、周囲に街灯がないような場所ではリモートによるドアのロック/アンロックは非常に便利です。
このワイヤレスリモートコントロールシステムは、キープレートの手元の部分に組み込まれた送信回路からの一方向通信による信号により、ドアのロック/アンロックを行うもので、これを「キーレスエントリー」といいます。そして、このキーレスエントリーシステムで使用するキーのことを「トランスミッターキー」「ワイヤレスドアロックリモコン」などと呼んでいます。
また最近では、予備としてメカニカルキーを備えたキーレスエントリーの携帯リモコンも登場しています。基本的にはリモコンで電子的にドアのロック/アンロックおよびエンジンの始動/停止を行いますが、携帯リモコンの故障などの緊急時にはメカニカルキーを使用します。この携帯リモコンのことをトヨタでは、「スマートキー」と呼んでいます。ここでは、スマートキーを例にその仕組みについて解説します(図1)。
図1 スマートキーシステム |
検知エリアにスマートキー携帯者が入ると、車両側からのリクエスト信号をスマートキーが受信します。そして、今度はスマートキーから車両側へレスポンスコードを含めたIDコードを送信します。それを受信した車両側は判別/照合を行い、機能に応じてECUに作動指示信号を出力します。
前述のトランスミッターキーも同様ですが、スマートキーと車両の通信電波は国の免許を要しない微弱電波です。検知エリアは各席ドアアウトサイドハンドルとリヤバンパー中央部から約0.7〜1.0メートル程度です。また、車両は駐車状態で0.3秒ごとにリクエスト信号を定期的に発信して、常にスマートキー携帯者の接近を監視します。
つまり、スマートキーを携帯しているだけで、
などの操作がキーを手に取ることなくスマートに行えます。
しかし、スマートキーシステムはその利便性が故に「ドライバがキーを意識しなくなってしまう」といった問題を秘めています。例えば、エンジンを掛けたままドライバが車から降りてしまう……なんてこともあり得ます。そこで、これらの問題を未然に防ぐためにウォーニング機能を搭載しています。また、同一システムを搭載した車両が複数台並んで駐車してあった場合などを想定し、衝突回避制御も備わっています。スマートキーが誤って他車の検知エリアに反応しても、他車からのリクエストに対し、3回連続で判定に失敗(車両ごとにIDが異なるので他車では必ず失敗判定となる)した時点で、他車はリクエスト信号の送信を3回分停止します。その間に、自車からのリクエスト信号を検知できますので、問題なく自車に乗り込むことができます。
次にセキュリティシステム、つまり盗難防止装置について説明します。
自動車の盗難は世界的にも多発傾向にあり、その被害件数も年々増加しています。こうした盗難の増加とともに発展してきたのが盗難防止装置です。標準的な盗難防止装置は一定の条件下で警報を発する「セキュリティアラーム」と車両に登録された正規のキー(前述のスマートキーも含む)以外でのエンジンの始動を禁止する「イモビライザー」などがあります。
セキュリティアラームはキーシリンダからキーを抜き、フード、ドア、ラッゲージドアをすべて閉じてロックすることにより車両が自動的に盗難に対して警戒をはじめます。警戒中に不正な方法などでフード、ドア、ラッゲージドアのいずれかが強制的にアンロックされそうな場合には警報音を出力し、ドアロック解除や車両への進入を防ぎます。
イモビライザーは言葉のごとく、エンジンを始動できなくするシステムです。図2にイモビライザーシステムを示します。
図2 イモビライザーシステム |
このイモビライザーシステムは、電磁誘導方式でキー側には電池が不要なパッシブ式の「トランスポンダー(注1)」が埋め込まれています。イグニッションキーシリンダ側の先端に内蔵された、円形状に巻かれたトランスポンダーキーコイル(アンテナコイル)によりイグニッションキーシリンダに差し込まれたキーのグリップに内蔵されたトランスポンダーのIDコードを読み取り、これをイモビライザーECUが車両側のIDコードと照合を行います。
また、このECUはEFI専用通信線によりエンジンECUとの照合を行い、「照合結果がすべてOK」であることが確認されてから、イモビライザー機能を解除し、エンジン始動スタンバイ状態になります。もちろん前述のスマートキーのような双方向通信ができるシステムを搭載した車両ではスマートキーを携帯、あるいは専用のスロットに挿入していれば自動的に通信してイモビライザー機能が解除されます。
注1:TRANSmitter(送信器)とresPONDER(応答機)からの合成語で、受信した電気信号を中継送信したり、受信信号に何らかの応答を返したりする機器の総称。タグ側のICチップを指すこともある。 |
そのほかにも、さまざまなセキュリティシステムがあります。
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