今回は「ディーゼルエンジン」と「トランスミッション」に注目。これら2つとエレクトロニクスとの関係を詳しく見ていこう!
前回「ガソリンエンジン制御の主役『EFI』と『ESA』」では、“ガソリンエンジン”とエレクトロニクスとの関係について紹介しましたが、今回も引き続き「エンジン制御とエレクトロニクス」をテーマに話を進めていきたいと思います。
今回の主役は、最近地球に優しいエンジンとして注目されている“ディーゼルエンジン”と、パワートレインとしてエンジンと同じ分類に入り、エンジンとは切っても切り離せない“トランスミッション(変速機)”です。これら2つとエレクトロニクスがどのように関係しているのか見ていきましょう!
“ディーゼルエンジン”とエレクトロニクスの関係について解説します。
まず、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの違いを見てみましょう(表1)。
項目 |
ガソリンエンジン |
ディーゼルエンジン |
使用燃料 | ガソリン | ディーゼル軽油 |
燃料供給方法 | 低圧での吸気ポート噴射(※) |
噴射ポンプによる高圧直接噴射 |
混合気 | 予混合均一混合 | 不均一混合 |
着火方法 | 点火プラグにより着火 | 圧縮により自己着火 |
圧縮比 | 10〜11 | 16〜23 |
出力制御方法 | スロットルバルブによる吸入混合気量制御 | 燃料噴射量のみの制御 |
ディーゼルエンジンとガソリンエンジンとの大きな違いは「着火方法」です。ガソリンエンジンの場合は混合気(空気と燃料が混ざったもの)を点火プラグにより着火させるのに対し、ディーゼルエンジンの場合、吸入空気を高圧に圧縮させたところに燃料を噴射(このタイミングで空気と燃料を混ぜる)し、自然着火(自己着火)させます。つまり、ディーゼルエンジンは点火システムを必要としない代わりに燃料を高圧にして噴射量や噴射時期を決める装置(噴射ポンプ)やそれに見合った精巧なインジェクタノズルが必要となります。
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと同様に4サイクル(「吸入」「圧縮」「燃焼・膨張」「排気」の4工程)ですが各工程で違いが見られます。
「吸入行程」において、ガソリンエンジンはあらかじめ燃料と空気を混合したもの(混合気)をシリンダに吸入しますが、ディーゼルエンジンは空気のみを吸入します。また、ガソリンエンジンは出力を上げようとするとスロットルを開いて多量の空気を吸入すると同時にガソリンも多く噴射します(つまり、常に空燃比を一定に保っています)が、ディーゼルエンジンの場合はスロットルがありませんので、常にフルスロットル状態といえます(つまり、一行程当たりの吸入空気量は一定です)。
関連リンク: | |
ガソリンエンジン制御の主役「EFI」と「ESA」 http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/articles/carele/05/carele05a.html |
「圧縮行程」において、ガソリンエンジンは高い圧縮比になるとノッキング(異常燃焼)を起こしたり、点火プラグで点火する前にプレイグニッション(注1)を起こす危険がありますが、ディーゼルエンジンは空気のみを圧縮するので高い圧縮比にできます。一般的にガソリンエンジンの圧縮圧力は0.6〜0.8MPa程度ですが、ディーゼルエンジンの場合は4〜6MPa程度の圧縮圧力といわれています。
注1:プレイグニッションとは、点火プラグによる点火よりも前に自然燃焼を起こしてしまうこと。 |
「燃焼・膨張行程」において、ガソリンエンジンは点火プラグで点火をしますが、ディーゼルエンジンでは上死点直前の空気が最も圧縮されたところ(600℃以上)で初めて燃料を噴射します。ノズルから噴射された燃料噴霧は高温の空気により蒸発しながら空気と混合して一気に燃焼膨張します。ディーゼルエンジンではノズルから噴射された燃料(燃料は高圧ポンプにより圧力を上げています)と空気とが混合するスピードが速ければ速いほどよいとされます。
最後の「排気行程」は、ガソリンエンジンと同様で排気バルブが開いて外に排出されます。つまり、特に大きな違いはありません。
ディーゼルエンジンのメリットは前述したように圧縮比が高く、熱効率が良いことです。また、低負荷時の際、ガソリンエンジンはスロットルを絞るために負圧が大きくなり、ポンピングロス(注2)が大きいのに対して、ディーゼルエンジンではスロットルがないためポンピングロスが少なくて済みます。ディーゼルエンジンは、空燃比も理論空燃比より薄いところで燃焼させているためCO2排出量が少なく経済的です。
注2:ポンピングロスとは、シリンダへの吸気・排気の際に発生するエネルギー損失のことをいう。 |
また、ガソリンエンジンの場合、ノッキング(異常燃焼)やプレイグニッションなどの影響により、ピストンのボア径(直径)をあまり大きくできず、排気量を多くするためには気筒数を増やすしか方法はありません。これに対して、ディーゼルエンジンの場合は、いくらでもピストンのボア径(直径)を大きくできるため、気筒数をそれほど増やさなくても高出力のエンジンを実現できます。貨物自動車や船舶用エンジンでディーゼルエンジンが採用されているのはこうした理由からです。
こうしたメリットの半面、以下のようなデメリットもあります。
ディーゼルエンジンは、高圧縮に耐えられる強度を必要とします。そのためエンジンを構成する各部品の重量が増加してしまい、それによって慣性力が大きくなり、回転数が上げにくく、燃焼によるトルク変動が大きくなるといった欠点があります。また、始動時にはエンジンが冷えているため、自己着火ができず、グロープラグ(予備加熱装置)で予熱してから始動します。つまり、ガソリンエンジンのようにすぐに始動できません。また、高圧縮のため、振動や騒音が大きく、振動・騒音対策用の材料が余分に必要になり重量がさらに増えてしまいます。
こうしたデメリットもあるにはあるのですが、ここ最近「燃料費が安い」「CO2排出量が少ない」などの理由から“地球に優しいエンジン”としてEUを中心にディーゼルエンジンの普及率が高まっています。
図1に最初にエレクトロニクス化された「分配型電子制御燃料噴射ポンプ」を示します。
図1 分配型電子制御燃料噴射ポンプ |
この装置での噴射圧は、直接噴射式燃焼室で20〜40MPa程度です。噴射開始はリニアな動作をするタイミングコントロールバルブが行います。このバルブによりローラリングが設定した角度まで動きます。このローラリングに付いているローラでカムディスクを動かし、プランジャを左右に動かします。噴射終了時は、電磁スピル弁(バルブ)をONにして、燃料をリターン側に逃がすことにより行います。
プランジャが右に動いていない状態では吸い込みポートと高圧室はつながっており、燃料が供給されます。プランジャが少し右に動くと高圧室は吸い込みポートから切り離されて燃料が圧縮されます。さらにプランジャが右に動くと今度は高圧吐き出しポートとつながり、燃料がインジェクションノズルから噴射されます。電磁スピル弁が開くと噴射は終了します。ECUはタイミングコントロールバルブと電磁スピル弁を制御しています。主な入力信号はアクセル開度とクランク角(ポンプ軸はクランク軸の2分の1回転)信号です。そのほかの信号は補正や補助的な動作のためのものです。
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