地球に優しい「ディーゼルエンジン」と電子制御知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(6)(3/3 ページ)

» 2008年08月25日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]
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トランスミッション(変速機)と
電子制御システム

 最後に、エンジンと関係が深い「トランスミッション(変速機)」とエレクトロニクスの関係について紹介します。

 エンジンの出力を車輪に伝達する動力系「ドライブトレーン」は、主に「クラッチ」「変速機」「プロペラシャフト」「デファレンシャル」「ドライブシャフト」で構成されています。ドライブトレーンでエレクトロニクスが導入されているのは変速機と4WD(4輪駆動車)の変速機の後方に装着されているトランスファ(注6)です。ここでは変速機の電子制御について解説します。

 自動車の速度というのはおおむね0〜180km/hの領域を必要としますので、エンジンのトルクと回転数だけではこれに対応し切れません。エンジンは直流モータと違い低速トルクが小さく、そのまま発進するとエンストを起こしてしまいますので変速機を必要とします。また、エンジンは逆回転できませんので後進(リバース)する場合にも変速機が重要な役割を果たしています。

注6:トランスファとは、4WD(4輪駆動)車の変速機の後方に取り付けられ、変速機からの駆動トルクを前輪後輪へ最適になるように分配して前後輪を同時に駆動する装置をいう。

 ご存じのとおり、車両の運動エネルギーというのは、車両質量(慣性力)×速度の2乗に比例します。車両の動力は1秒間当たりの運動エネルギーですから、速度が高くなるに従って車両の動力は車両質量、つまり慣性力が効いてきます。例えば、同じ速度で軽自動車が衝突した場合とダンプカーが衝突した場合の衝撃の大きさを想像してみれば分かると思います。一定速度で走行している場合はすでにそれだけの運動エネルギーを持っていますから、その速度を維持する動力があればよいため、そんなに大きな動力を必要としません。車両動力の基となるエンジンの動力は回転数×トルクに比例します。従って、速度がある程度高ければ慣性力が働いて、しかも回転数も高いのでトルクは少なくて済みます。

 変速する場合、いったんエンジンと変速機を切り離してから変速を行い、再度エンジンと変速機を結合する必要があります。そのため、切り離しと結合を行うためのクラッチが必要となります。まだ変速機が自動化されてないころはクラッチペダルが付いおり、シフトレバーで変速するごとにクラッチペダル踏んだり戻したりする必要がありました。筆者は昭和40年に運転免許証を取りましたので、当然ミッション(マニュアルの変速機をいう)車でした。当時、坂道でいったん車を止めて発進する“坂路発進”に苦労したのをいまでも覚えています。クラッチを踏んでエンジンと変速機を切り離すのは簡単ですが、変速してエンジンと結合するのに技術を必要としました。クラッチを戻すときにクラッチ板を滑らして結合しなければスムーズな走行ができませんでした。

 このクラッチ動作と変速動作を自動的(スムーズ)に行うのが「自動変速機(オートマチックトランスミッション、略してAT)」です。当初のATはクラッチの機能を「トルコン(トルクコンバータ)」が行い、変速の機能として複数の変速ギアの切り替えをすべて油圧回路で行っていました。トルコンは流体クラッチの働きが主ですが、多少の無段変速機の機能も持った構造になっています。このATを最初に開発して、発売したのはアメリカのBorgWarner社です。トルコンの原理や複雑な変速ギアと油圧回路をよく考えたものだと筆者は感心しました(エレクトロニクスとはあまり関係ありませんのでこれ以上の説明は割愛します)。現在では、油圧回路の一部を複数のソレノイドで置き換え、そのソレノイドをECUで制御しています。図5「トルコン式電子制御自動変速機システム」を示します。

図5 トルコン式電子制御自動変速機システム

 シフトチェンジが行われる速度を「変速点」といいます。変速点はアクセル(スロットル)開度と車速により2次元的に決められています。車速が上がっていくときの変速点を「アップシフト」、下がっていくときの変速点を「ダウンシフト」といいます。このアップシフトとダウンシフトとの間には10km/h程度のヒステリシスが設けられており、変速点近くで走行した際に頻繁なシフトチェンジが繰り返されないように防止しています。シフトは1速、2速、3速、4速(O/D)と後進が一般的です。電子制御自動変速機システムでは変速機内の油圧回路の中に組み込まれている複数のソレノイドのON/OFFの組み合わせにより1〜4速を切り替えています。変速機の変速時期や変速機の過度特性を自由に制御できるのが電子制御自動変速機システムの特長です。そのほか、変速時にエンジントルクを制御せずに変速機内のクラッチ油圧をリニアソレノイドで制御することで変速ショックを少なくしたり、トルコンのエネルギー損失を防ぐためのロックアップ制御をECUでソレノイド駆動して行っています。

 最近、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)やトロイダル式CVTのようにギアを使用しないで連続的に変速するATが登場しています。ベルト式CVTはまだ駆動力を大きくできないため2000cc以下の自動車にのみ使用されていますが、エネルギー効率・燃費のよさから搭載車両が増えています。図6「電子制御ベルト式CVTシステム」の一例を示します。

図6 電子制御ベルト式CVTシステム

 プライマリプーリーとセカンダリプーリーの溝幅が変化することでベルトとプーリーの接触半径が変化して無段階に変速できます。プライマリプーリーのドライブプーリーを油圧で駆動します。プライマリプーリーの位置が決まれば幾何学的にセカンダリプーリーの位置も決まります。この2つのプーリー溝幅の変更はアクセル開度と車速に応じてECUからソレノイドを介して油圧を駆動して制御します。また、プーリーを駆動するのにDCモータを使用したベルト式CVTもあります。このCVTもECUで制御をしています。ちなみに、3000ccを超えるクラスのエンジンに対応できるのがトロイダル式CVTです。

 今回はディーゼルエンジンとトランスミッションにおける電子制御システムとの関係について見てきました。理解していただけましたでしょうか。

 さて、次回は「車両とエレクトロニクス」について詳しく解説する予定です。ご期待ください!(次回に続く)

【参考文献】
(1)「カーエレクトロニクス」 志賀 拡、水谷 集治/山海堂
(2)「自動車の電子システム」 荒井 宏/理工学社
(3)「クラウン新型車解説書・修理書・配線図集」 トヨタ自動車
(4)「自動車メカ入門―エンジン編」 GP企画センター/グランプリ出版
(5)「クルマのメカ&仕組み図鑑」 細川 武志/グランプリ出版
(6)「自動車エンジン要素技術 II」 エンジンテクノロジー編集委員会/山海堂

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