ボディ制御と情報通信におけるエレクトロニクス知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(8)(1/3 ページ)

自動車の快適性・利便性などを向上させるボディ制御とエレクトロニクスの関係について、エアコンやカーナビを例に解説する。

» 2008年10月24日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]

――スイッチを押せば涼しい風が流れ込み、車内が快適な温度に保たれる。あらかじめ目的地を設定しておけば、音声と地図で誘導してくれる。

 いまや当たり前ですが、自動車を取り巻く技術・環境の進歩には感服することしきりです。

 冒頭のエアコンディショナ(以下エアコン)やカーナビゲーションシステム(以下カーナビ)のように、自動車の快適性・利便性や、自動車のグレードを高めるような電子制御のことを「ボディ制御」と総称し、そのほかにも、メーター、マルチインフォメーション、盗難防止、ドアロック、パワーウィンドウ、多重通信、シートベルトなどがボディ制御に該当します。

 今回は“ボディ制御と情報通信におけるエレクトロニクス”と題し、「エアコン」「メーター」についてと、「車内多重通信」「カーナビ」について紹介していきます。

エアコンディショナ

 筆者が自動車業界で働きはじめた1965年ころは、暖房用のカーヒーターこそ搭載されていましたが、現在では当たり前の冷房用カークーラーは限られた高級車にしか搭載されていませんでした。それもそのはず、当時は一般家庭にもクーラーが普及し切っておらず、カークーラーが普通車に搭載されるなどという大それたことは考えられませんでしたし、ましてや自動車が1人1台の時代が来ることなどは想像もつきませんでした。

 現在では車内の温度・湿度、および清浄な空気の流れを最適化する装置のことを、暖房/冷房ひっくるめて“エアコン”と呼び、1台で賄っていますが、昔は暖房の役目を“カーヒーター”が、冷房の役目を“カークーラー”がそれぞれ別々に担っていました。

 カーヒーター(以下、ヒーター)は、エンジン冷却水の循環サイクルの途中にある分岐部分に取り付けた熱交換器を熱源としています。ヒーターの温度調整はヒーターユニットに通す冷却水量の調節と、外気導入量のコントロールによって行われ、暖房のためにエネルギーを別途用意する必要はありません。しかし、カークーラー(以下、クーラー)はというと、その仕組みはヒーターよりも複雑で、「コンプレッサー」を回すたのエネルギーを必要とします(エンジンの動力の一部を使用)。

自動車用クーラー

 ここではクーラーについてもう少し詳しく見ていきましょう。図1をご覧ください。これはクーラーの冷凍サイクルを示したものです。

図1 クーラーの冷凍サイクル

 基本的なクーラーの仕組みは、家庭用も自動車用も同じですが、自動車用クーラーの場合は真夏の暑いときにも即座に冷却を開始しなければなりませんので、家庭用より大きな能力のコンプレッサーが用いられています。また、ご存じのとおり、クーラーは液体が気体に変化する際に周囲の熱を奪う“気化熱”の仕組みを使用しています。そのため、クーラーの内部には常温状態で気化しやすい「冷媒」が、状態(液化⇔気化)を変化させながら循環しています。

 コンプレッサーは、気化した状態の冷媒を高温・高圧にして、完全に液化する直前の状態(気体と液体の混合状態)にする役目を果たします。ちなみに、コンプレッサーはエンジンのクランク軸とプーリーで結合されており、エアコンECUの指令でコンプレッサーに内蔵された電磁クラッチをON/OFFして制御します。

 「コンデンサー(凝縮器)」は、コンプレッサーで圧縮された高温・高圧の冷媒ガスを冷却風で冷やして液化する熱交換器の役割を果たします。そして、液化した冷媒は、「レシーバー」に貯蔵されます。

 「エキスパンションバルブ(膨張弁)」は、レシーバーから送られてきた液冷媒を気化しやすくするために霧状にして吹き出すための絞り弁のことで、「エバポレータ(蒸発器)」とセットになっています。エバポレータは霧状に噴射された冷媒を完全に気化するところで、霧状の冷媒がエバポレータ内のパイプを通過しながら気化し(気化熱を周囲から奪い)、パイプやパイプに溶接されたフィンを冷却します。

 そして、「ブロウモーター」により、エバポレータへと空気が送り込まれ、冷却されたパイプやフィンにより送り込まれた空気が冷やされ、冷風としてそのまま車内へ届けられます。

 前述のとおり、即座に冷却を開始しなければならない自動車用クーラーの冷凍サイクルにおいて、一番重要な役割を果たすデバイスはコンプレッサーです。代表的な種類としては「斜板型コンプレッサー」「ロータリー型コンプレッサー」「スクロール型コンプレッサー」などがあります。また、従来の斜板型コンプレッサーは固定容量でしたが、最近では少ない冷房能力の場合には容量を小さくしてコンプレッサーの動力を少なくする「可変容量型コンプレッサー」が使用されており、省エネが図られています。

 次に、乗員の感覚に合わせた、より高度な制御として「ニューラルネットワーク(注1)を使用したエアコン制御システムについても触れておきます(図2)

図2 ニューラルネットワークを用いたエアコン制御システム

注1:ニューラルネットワークとは、生物の神経系の情報処理を工学的に模倣し、人間の神経細胞(ニューロン)のような複雑な神経伝達の入力と出力の関係をニューロンモデルに置き換え、これを複数組み合わせたもの。入力層・中間層・出力層により構成される。

 ニューラルネットワークは「入力層」「中間層」「出力層」の各ニュ−ロンによって構成されており、入力層はスイッチや各センサ出力などによる外気温・日射量・室温などの情報を入力処理し、中間層に出力します。中間層はこれを基に各ニュ−ロンの結び付きの強さ(重み付け)を調整します。出力層はその総和を必要吹き出し温度・日射補正・目標風量・吹き出し口モードの制御量として算出します。これにより、エアコンECUはニューラルネットワークで算出された各制御量に従い、各サーボモーターやブロウモーターなどの制御を行います。このようにカーエレクトロニクスでもニューラルネットワークを使う時代になりました。

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