ボディ制御と情報通信におけるエレクトロニクス知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(8)(2/3 ページ)

» 2008年10月24日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]

コンビネーションメーター

 続いて、メーターについて解説していきます。

 自動車のインストルメント(計器)を見てみるといくつかの計器があります。その代表格といえば、「スピードメーター」ではないでしょうか。スピードメーターは初めて自動車に搭載されたメーターとして知られ、1900年ころから搭載されはじめたといわれています。きっと、“自動車を安全に走行させるためには、走行状態を知ることが大切だ”という意識がこのころから芽生えてきたということでしょう。その後、「フューエルゲージ(燃料残量計)」「オドメーター(走行距離計)」「タコメーター(エンジン回転数計)」「エンジン水温計」などいろいろなメーターが付加され、後にこれらを組み合わせ「コンビネーションメーター」と呼ばれるようになりました。

 そして、1980年ころには電子ディスプレイが登場し、LED(発光ダイオード)、蛍光表示管(VFD)、液晶(LCD)、CRT(ブラウン管)などの発光デバイスによって自動車のインストルメントに大きな変化をもたらしました。また、もの珍しさも手伝い多くの上級グレード車に採用され、普及していきました(このデジタルメーターブーム絶頂期には、アナログメーターの自動車は肩身の狭い思いをしたものです)。

 しかし、現在普及している自動車のスピードメーターを見てみると、そのほとんどがデジタル表示ではないと思います。それもそのはず、自然現象のほとんどがアナログ値であり、“いま全体の目盛りの中でどのぐらいの位置に指針があるか”といったことが、デジタルよりもアナログの方が簡単に認識でき、かつ視認性が高いことからこのような流れになっていると考えられます。今後はアナログメーターをベースに、カラー表示、デジタル表示や遠方結像技術などによるさらなる視認性向上、新しいデザインによるファッション性の追求など、表示デバイスのエレクトロニクス化によってインストルメントはさらに発展していくものと思われます。

 ちなみに、1965年ころのスピードメーターの入力は、トランスミッションのドリブンギアから機械式のスピードメーターケーブルを介して回転が伝えられていました。この方式だと摩擦によるケーブルの切断などのトラブルがよく発生していましたが、その後の研究開発・技術革新により、車速センサをドリブンギアに付けて電気信号(車速信号)をスピードメーターに送ることでこの課題を克服しました(ABSの車輪速センサの信号を使用する場合もあります)。

自動車における情報通信

 自動車における情報通信というと、一般的にはカーナビなどを利用した自動車と車外とのやりとりのための通信と思われがちですが、車内通信である「多重通信」も重要な役割を果たしています。

 ここでは、多重通信とカーナビを例に自動車における情報通信について解説します。

車内多重通信

 まず、自動車内における多重通信について説明します。

 カーエレクトロニクスの増大により、ワイヤーハーネスはより複雑化し、重量が増し、その容量も大きくなってきました。また、電子制御システムはより高度化し、複数のシステムが集積化・複合化して統合ネットワークとして機能する必要が生じました。こうしたことから、自動車にも「LAN(Local Area Network)」が導入されるようになったのです。自動車用の信号通信方式としてはパラレル通信方式よりも、省線化できる1本の信号線(ほかに電力線は必要)で、信号を時分割で伝送できるシリアル通信方式が採用されました。

 図3にシリアル通信方式の基本原理を示します。

図3 シリアル通信方式の基本原理

 図3(A)は「従来方式」、図3(B)は「シリアル通信方式」を示します。図3のように4個のスイッチで4個のランプを点灯する場合に、図3(A)では4本の電力線とGND線が必要なのに対して、図3(B)では+−の電力線2本と信号線1本で事足ります。例えば、スイッチとランプがそれぞれ20個の場合、従来方式では合計21本の電力線が必要ですが、シリアル通信方式では本数は+−の電力線2本と信号線1本でその数は変わりません。しかも、信号線は小電流ですから細い電線で済みます。

 シリアル通信は、時系列で“1”と“0”のパルスが順に並んだもので、送信側と受信側とでいろいろな約束事を決めておく必要があります。これを「通信プロトコル」といいます。図4にボディ系多重通信システムの通信プロトコルの例として、トヨタ自動車独自プロトコル「BEAN(BodyElectronics Area Network)」を示します。

図4 BEANの通信プロトコル

 各ECUに内蔵された通信回路を用いて、図4に示した通信プロトコルのデジタル信号により各種データを10kbpsの速度で送受信しています。伝送データがない場合を「アイドル」といい、“0”で表します。また、フレームの最後を意味する「EOF(End Of Frame)」は“0”が6個続き、6個以上“0”が続いてから“1”が来た場合を「SOF(Start Of Frame)」といいフレームのはじまりを意味します。なお、SOFから「CRC(注2)までは6個以上連続する“0”を受け付けないという仕組みになっています。

注2:CRCとは、送信データを高次の多項式と見なし、あらかじめ定められた生成多項式によって除算を行い、その剰余(BCC)をデータビットの後に付与して送信する方式のこと。受信側は送られたデータを同じ生成多項式で除算。その際、剰余がなければデータを正しく受信できたことを意味する。

 各ECUのことを、通信システムでは「ノード(送受信機能を持つ端末機)」といいますが、各ノードはバスが“アイドル”か“ビジー(使用中)”かを常時監視しており、送信する場合にはアイドル時に送信します。たまたまA、Bのノードが同時に送信した場合には(この例ではAの優先順位が高いものとする)、Bは衝突を感知して送信を中止して、Aの通信が完了しアイドル状態になってから再度送信を行います。これを「CSMA/CD(衝突検出付き搬送波感知多重アクセス)方式」の通信アクセスといいます。

 車内多重通信においてはスイッチのように通信速度が遅くてもよいものや、エンジン制御用の信号のように高速通信が必要なものなどさまざまです。これについては、通信速度により「Aクラス」「Bクラス」「Cクラス」と3つのクラスに分類することで使い分けています。Aクラスはボディ制御系で低速、Bクラスはカーナビやマルチインフォメーションなどのステータス情報系で中速、Cクラスはエンジン制御などのリアルタイム系で高速の多重通信システムとなります。

 図5に車載多重通信システムを示します。

図5 車載多重通信システム

 図5を見てみると、Aクラスの3系統の「BEAN」と、Cクラスの「CAN(Controller Area Network)」と、Bクラスの「オーディオ&ビジュアル機器通信ネットワーク(AVC−LAN)」の計5つの通信ネットワークで構成されていることが分かります。

 「ゲートウェイコンピュータ」は、通信プロトコルの異なる3種類(BEAN、CAN、AVC−LAN)の通信回路を内蔵して、各種バスから受信したデータのうち、異なるバスで送信する必要がある場合にはそのプロトコルに合ったデータに変換してから送信します。なお、BEANの通信速度は10kbps、AVC−LANは17.8kbps、CANは500kbpsです。BEAN、CANやAVC−LANはそれぞれの使用目的に合ったネットワークで、通信速度、通信線や通信プロトコルは異なりますが、基本的な考え方は同じです。また、多重通信システムはワイヤーハーネスの削減、データの高速通信化や通信信頼性向上において、なくてはならないシステムといえます。このように自動車における車内多重通信はデジタルエレクトロニクスの粋を集めたものといえます。

関連リンク:
いまさら聞けない 車載ネットワーク入門
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/special/carnet/carnet01.html
連載記事「車載ネットワーク“CANの仕組み”教えます」
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/index/canbasic.html

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.