自動車の制御内容が高度化し、搭載される電子部品が急増。これまで以上に電子部品の“信頼性の確保”が求められる!!
早いもので本連載も今回で最終回となります。今回は連載の締めくくりとして「電子部品の信頼性とカーエレクトロニクスの将来」について紹介したいと思います。
ご存じのとおり、自動車の制御内容の高度化が進み、現在では1車両当たり約30個以上、最新の高級自動車では約100個以上もの「ECU(Electric Control Unit:電子制御ユニット)」が搭載されているといわれています。こうしたECUをはじめとする“エレクトロニクス”の存在は、自動車のあらゆる機能のキーパーソンとして広く用いられていますが、それに伴い、“カーエレクトロニクスの信頼性の確保”がこれまで以上に重要性を増しているのも事実です。特に乗員や自動車の“安全”にかかわる分野・機能においてはなおさらのことです。
というわけで、まずは「電子部品の信頼性」についての解説から行いたいと思います。
自動車メーカー各社は、電子部品(ECU)を搭載した車両が市場に出荷されるまでの間に、「JIS」「JASO(注1)」「SAE(米国の自動車技術会)」などにより規格化された試験評価法を基にあらゆる試験を実施し、評価を行います。また、こうした規格以外にも自動車メーカーおよび部品メーカー各社は、より厳しい社内基準を独自に設けて試験・評価を行っています。
注1:JASO規格では「自動車用電子機器の環境試験方法通則」により試験法が定められています。 |
ここでは、代表的な試験・評価について紹介していきます。
試験・評価の中でも特に温度環境における評価は、カーエレクトロニクスにとって最も重要な項目の1つといえるでしょう。
温度環境は、車室内やエンジンルームなど、ECUを取り付ける場所によって条件が大きく異なりますので、同じ試験基準では正しく評価できません。また、ECUを構成する半導体素子は、そもそも温度条件の影響を大きく受けるため、厳し過ぎる使用条件や評価基準の適用はECUのコストアップを招いてしまう恐れもあります。こうした点を考慮して、JASO規格では取り付ける場所によって機器を以下の4つに分類しています。
1)車室内およびトランクルーム内に取り付ける4)以外の機器
2)車体外側に取り付ける4)以外の機器
3)エンジンルーム内に取り付ける4)以外の機器
4)高温発熱部およびその近傍、またはそのほかの特殊な部位に取り付ける機器
ちなみに温度基準は、1)の車室内搭載機器の場合は−40〜80℃、3)のエンジンルーム内搭載機器の場合は−40〜120℃となっています。
また、温度評価を行ううえで「性能保証温度」「動作温度」「保存温度」を分けて考える必要があります。性能保証温度とは常温はもちろんのこと、低温(例えば−20℃)、高温(例えば65℃)におけるECUの特性を測定し、実力を把握して性能を保証するものです。動作温度とは正常に動作すべき限界温度のことであり、上限、下限で評価を行います。また、保存温度とは車両に取り付けた状態や部品の保管中に電圧を印加せずに耐え得る上限、下限の温度のことです。つまり、保存温度は動作温度よりも広い保証となります。さらに、各評価試験としては「温度特性試験」「高低温作動試験」「高低温放置試験」「温度サイクル試験」「熱衝撃試験」などがあります。
次に、電気ノイズの評価について解説します。
ガソリン自動車の場合には「ロードダンプ(注2)試験」、イグニッションスイッチや各種誘導負荷(ソレノイドなど)を切ったときに発生する過度電圧の試験(「過度電圧試験」)、各種電装品(点火など)の作動に伴う誘導、容量結合により発生する過度電圧などの「耐圧試験」、ECUの電源の「逆接続試験」などがあります。
注2:ロードダンプとは、バッテリー端子が外れた際など、オルタネーターの負荷の急減により正極性のサージ電圧(約70V)が発生すること。 |
また、ECUに対する「EMI(ElectroMagnetic Interference:電磁干渉)」の試験を行う必要もあります。例えばECUは、放送局などから出る強い電磁波にさらされると誤動作することがあります。この評価を行う方法の1つに「TEM(Transverse ElectroMagnetic:電磁波発生槽)セル」があります(図1)。発振器により周波数と振幅を可変にして電磁波をECUに当てて、ECUがどこまで正常に動作するかを評価します。
図1 TEMセル |
以上のように自動車には高い信頼性が要求されており、自動車に使用されている部品も温度や電気ノイズだけでなく湿度、振動や塵埃(じんあい)など過酷な条件にさらされながら正常に動作しなければなりません。このように高い信頼性と耐久性を要求されるエレクトロニクスには極めて高い技術と総合的な評価技術が不可欠です。現在カーエレクトロニクスは自動車における重要な部品(例えば、エンジン制御やブレーキ制御など)に深く関与しており、その要求品質も一段と高くなり車両全体として評価する必要があります。こうしたことを踏まえ、自動車メーカー各社は自動車が遭遇するであろうあらゆる環境条件を再現する実車試験を行うために、テストコースや電波暗室などの各種環境実験室を使って最も厳しい条件の下で再現性がよく、かつ精度の高い試験を行っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.