自動車のエレクトロニクス化とは? エレクトロニクス化により得られるメリットとは? 点火回路を例にカーエレの魅力に迫る。
自動車(ガソリン自動車)がこの世に登場してからおよそ1世紀もの歳月がたちました。
いまでは私たちの生活にはなくてはならない存在となった自動車ですが、近年“エレクトロニクス”の力によって飛躍的に性能が向上したうえ、エレクトロニクスならではのまったく新しい機能が加わり、ますます魅力あるものへと進化し続けています。
そこで、本連載では現代と未来の自動車にとって必要不可欠な“エレクトロニクス”にスポットライトを当て、
自動車 + エレクトロニクス = “カーエレクトロニクス”
について解説していきます。本連載を通じて、皆さんにカーエレクトロニクスの魅力をお伝えできればと考えています。
以下は、本連載で取り上げるテーマです。自動車の知識があまりなくても理解できるよう、これらの内容についてできるだけ分かりやすく解説していこうと思います。
それでは、前置きはこれくらいにして、1つ目のテーマ「エレクトロニクス化によるメリット」について話を進めていきましょう。
まずは、“カーエレクトロニクス”という言葉の定義について一緒に考えてみましょう。
カーエレクトロニクスのスペルは“Car Electronics”です。これを日本語にすると“自動車電子工学”となります。「そんなことは知っているよ!」という声が聞こえてきそうですが……。では、自動車工学の“電子工学”とは何を指しているのでしょうか?
三省堂の小辞林で意味を引いてみると、
電子の運動による現象やその応用を研究する学問。半導体、磁性体などを用いる科学技術の研究を広くいう
とあります。
さらに、Wikipediaで調べてみると、
電磁気現象を応用した工学の一分野。なかでも、電子の振る舞い、特に電子管、半導体素子のような能動素子の扱いを体系化することを特徴とする
とあります。
なるほど、カーエレクトロニクスとは“自動車に電子管(注)や半導体を使ったものである”といえそうですね。しかし、現在の自動車には電子管は使われていません。
そこで、本連載ではカーエレクトロニクスを
自動車に“半導体”を使ったもの
と定義することにします。
では、なぜカーエレクトロニクス(自動車に半導体を使うこと)がこんなにも注目されているのでしょうか? また、エレクトロニクス化により得られるメリットとは何でしょうか?今回は「点火回路」を例に、その理由を整理していくことにします。
ご存じのとおり、自動車のエンジンは「吸入−圧縮−爆発−排気」を繰り返し行い、燃料の爆発によるエネルギーをピストン運動に変換し、これをさらに回転運動に変えて動力としています。
図1は燃料を爆発させるための仕組み、もう少し正確にいうと、“シリンダー内で圧縮された混合気(燃料と空気が混ざったもの)に火を付けるための仕組み”です。これを点火回路といいます。ちなみに、図1はエレクトロニクス化される以前のものです。
イグニッションキーを回すことで、スターターモーター(セルモーター)が回転し、クランクシャフト(注1)を回します。さらに、クランクシャフトの回転がカムシャフト(注2)に伝わります。そして、カムシャフトにあるディストリビュータードライブギアにより、今度はディストリビューター(配電器)(注3)のローター(回転子)を回します。ちなみに、ディストリビューターはエンジンが2回転すると1回転します。
また、4気筒(シリンダーの数が4つある)エンジンの場合、ディストリビューター(断続部)の中央にあるカムの角は4つあり、このカムの角で「接点(注)」を開閉します(図2)。今回の解説では、4気筒エンジンを例に挙げています。
一方、バッテリーからの電流ですが、接点が閉じられている場合は一次コイルに電流(約6A)が流れ、接点が開くと、いままで流れていた電流が遮断されるため二次コイルに1万V以上の高電圧が発生します(図3)。
二次コイルはディストリビューター(配電部)に接続されており、ディストリビューターのローターにより、回転しながらエンジンの各シリンダーに装着された点火プラグに高電圧電流を分配します(図1)(図2)。そして、各点火プラグはシリンダー内の圧縮された混合気に着火し、爆発させることでエンジンを動かすのです。
前述のとおり、図1はエレクトロニクス化される以前の点火回路であるため、“ある問題(欠点)”を抱えていました。次ページでその問題について見ていくことにしましょう。
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