なぜ、カー“エレクトロニクス”が注目されるのか?知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(1)(3/3 ページ)

» 2008年03月28日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]
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 接点の代わりに電磁ピックアップを採用したことにより、点火回路は“半永久の寿命”を手に入れることができました。当時、接点の問題に頭を抱えていた設計者たちはこの問題からやっと解放されたわけです(ただし、点火プラグは火花を出すのが使命なので“永久”とはいいきれません)。

 図5で紹介したフルトランジスタ式点火回路は、現在でも使用されていますが、電磁ピックアップの代わりに、スリットの付いた円板と発光ダイオード、フォトトランジスタを組み込んだセンサを使用した点火回路も登場しています。

 点火回路の話はこれくらいにして、次にそれ以外のメリットについて確認していきましょう。

エレクトロニクス化によるさまざまなメリット

小型・軽量化

 金属や樹脂などでできている機械部分を電子回路に置き換える、つまりエレクトロニクス化することにより、小型・軽量化が図れます。小型・軽量になれば当然、振動にも強くなります。

設計変更

 機器の設計変更をする際、メカニカルな部分がある場合には機械加工、組み付けなどに時間と労力が必要となりコストが掛かります。その点、電子回路であれは、回路変更やプリント板変更で済みますから電子回路屋さんでこと足ります。さらに、マイクロコンピュータを使用している場合であれば、ソフトウェアのプログラム変更だけで済む場合が多々あります。

精度

 機器の精度を上げる場合、例えば機械加工で1mmの大きさのものを1μmの精度にするとなると、非常に難しくなりコストもアップします。その点、電子回路であれば、精度を上げるのにそんなに苦労しません。例えば、アナログの場合には増幅回路を使えば交流増幅の際、3けたくらいは増幅回路1つで達成できます。また、直流増幅の場合には増幅回路2つで達成できます。デジタル回路の場合でも同様に、けた数を上げるのにそんなに苦労しません。例えば、カウンタ(計数回路)で10の3乗(1000)の場合、10進カウンタなら3個のICを接続すれば実現できますし、10の4乗(10000)の場合には、4個のICを接続すれば実現できます。電子回路ではICの個数さえ増せば、いくらでも精度は上げられます。最終的に精度は、制御回路に接続されるセンサとアクチュエータ(注)で決まります。センサは、エレクトロニクス化することで精度を向上させることができますし、アクチュエータもデジタル的な動きをする機構にすることで精度を向上させることが可能です。

※注:アクチュエータとは、信号を受けて変位に変換する部品の総称。ワイパーモータのように連続的に動いて仕事をする部品とは区別している。


コスト

 電子回路は生産量が多くなればなるほど、また回路規模が大きくなればなるほど集積(IC、LSI)化することによってコストを下げることができます。集積回路は1つの小さなシリコン基板上に、あるパターンを残してほかをエッチング(不要部分を除去)したり、イオンを注入したり、酸化膜で絶縁したりして一度に多くの半導体素子(ダイオード、トランジスタなど)を作ります。従って、10個のトランジスタを作るのも1000個のトランジスタを作るのも、ほとんど製造工程は同じになります。つまり、機能上1000個のトランジスタが必要な回路も集積化すれば、10個のトランジスタの集積回路とコストはほぼ同じになります。

省エネ

 何か“ほかの動力”を使って機械を動かして実現するような機能(機構)を、エレクトロニクス化するということは“機械の動きを電子の動きに置き換える”ということを意味します。これがなぜ省エネなのかというと、電子の動くエネルギーというのは限りなくゼロに近く、ほかの動力を必要とする機械式よりもエネルギー効率がよいからです。また、物理的な大きさや重さからもエレクトロニクス化した方が省エネといえます。一定の距離を動く場合には小さく・軽いものの方が、大きくて・重いものよりエネルギー消費は少なくて済みますからね。

デザイン・視認性

 もう1つ、エレクトロニクス化において忘れてはならないものがあります。それは、インストルメント(計器)のエレクトロニクス化です。筆者がこの業界に身を置いた1965年ころは、渦電流で動くスピードメータ、機械式のオドメータ(走行距離計)、可動コイル型のタコメータ(エンジン回転数計)、バイメタル式の燃料残量計やエンジン水温計などがありました。いまでは、これらの機器は1つにまとめられてコンビネーションメータとして使用されていますが、いずれも指針で表示するため視認性やデザインに限界がありました。われわれ人間は、車のデザインをはじめとする、“目に見えるもの”に強い印象を覚えますので、インストルメントパネルに表示されるインストルメントの視認性やデザインは非常に重要です。実は、ここでもエレクトロニクスが大活躍しています。

 インストルメントに発光ダイオード(LED)、蛍光表示管(VFD)、液晶(LCD)、ブラウン管(CRT)などの発光デバイスを採用することで、アナログ表示はもちろんのこと、デジタル表示、カラー表示、立体表示や遠方結像による表示(HUD)ができるようになりました。これにより、いままで以上に視認性の向上や新しいデザインの追求などがなされて、インストルメントが変わりつつあります。


法規制対応

 ご存じのとおり、排気ガス規制、安全規制、最近ではエコ規制など、自動車に対する社会的規制が厳しくなっています。これに対応するために、制御精度を向上する必要ばかりではなく、まったく新しい機能を持った機器が必要になる場合があります。また、ガソリン代替燃料自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などには、いままでにない技術が求められており、ここでもエレクトロニクスの力が求められています。

利便性

 雨が降ったら自動的にワイパーが動く、子供が手を出してもドアウィンドウに挟まれない、ドライバーの見えないところの障害物を知らせてくれるなど、利便性のある機器はエレクトロニクスが最も得意とする範囲です。

 ここまでの解説で、「自動車(“カー”)には電子工学(“エレクトロニクス”)の力が必須である」ということを理解していただけたかと思います。しかし、ただ単に自動車以外のエレクトロニクスをそのまま持ってきても通用しないことが多くあります。

 そう、“自動車には自動車なりの難しさがある”のです。例えば環境についていえば、温度です。自動車の機構部品(自動車を動かす部品)は周囲温度マイナス30〜60℃でも必ず正常に動くことが求められます。それは冬の東北、北海道の山の中、アメリカの寒冷地などで自動車が動かなくなった場合を考えてみてください。最悪の場合は死んでしまいますよね。逆に、アリゾナの砂漠などの暑いところで自動車が故障した場合も同様です。そのほか、湿度の問題、自動車の取り付けスペースなどいろいろ制約がありますので、それ相応の対応が必要になります。



 自動車に搭載する機器をエレクトロニクス化することにより、以下のようなメリットを得ることができる、ということをぜひ覚えておいてください。これが今回皆さんに伝えたかったポイントです。

  • 寿命が延びる
  • 小型・軽量により、振動にも強くなる
  • 設計変更が容易にできる
  • 精度向上が図れる
  • コストダウンができる
  • 省エネが図れる
  • デザイン・視認性を考慮しやすい
  • 排気ガス規制、安全規制などの対応ができる
  • 利便性の追求がしやすい

 さて、次回のテーマは「カーエレクトロニクスの歩み」をテーマに解説します。お楽しみに!(次回に続く)

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