あなたの運転をサポートする車両制御と乗員保護知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(7)(1/3 ページ)

エレクトロニクスが重要な役割を果たす、自動車の基本動作「走る」「曲がる」「止まる」と、乗員の命を守る「安全」について解説。

» 2008年09月25日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]

 今回は「車両制御」「乗員保護」とエレクトロニクスの関係について解説します。

 ここでいう“車両”とは、「走行装置」「ステアリング」「サスペンション」「ブレーキ」などを総称した名称のことです(狭義のシャシとして分類する文献もあります)。そして、“エレクトロニクスによる車両制御”とは、自動車の足回りおよび走行の基本である「走る」「曲がる」「止まる」といった動作に対して、「応答性」「操安性(操縦安定性)」「快適性」などを改善・実現するシステムのことを指します。

 それでは、「車両制御とエレクトロニクス」の関係から見ていきましょう。

サスペンションと電子制御

 はじめに「サスペンション(懸架装置)」について説明します。サスペンションは、ご存じのとおり「Suspend(つるす)」の名詞です。この意味のとおり、スプリングを介して車輪の上に車体を浮動させるように連結することで、自動車の振動や乗り心地、操縦安定性に大きな影響を与える重要な役割を果たします。その構成は「バネ」「ショックアブソーバ(以下、アブソーバ)」「リンク機構」から成っています。

 サスペンションの電子制御とは、車両の荷重の状態や走行状況に応じて、電気的にサスペンションを制御することです。その制御対象は、車高やバネ定数、アブソーバの減衰力などです。本稿ではアブソーバの減衰力を制御するサスペンション制御について詳しく解説することにします。

 車両が路面からの衝撃を受けるとその衝撃をスプリングが吸収します。その際、スプリングは衝撃を吸収した分跳ね返ろうとし、振動を起こします。この振動を減衰させる働きをするのがアブソーバです。実際には、図1のコンベンショナルサスペンションの例で示すとおり、「スプリング」「アブソーバ」「アーム」などの組み合わせにより車体を支持しています。

図1 コンベンショナルサスペンション(ダブルウィッシュボーン型)

 一般的に乗り心地と車両姿勢の操安性とは相反する特性です。例えば、サスペンションを柔らかくすれば乗り心地はよくなりますが車体の変位量が大きくなり、車体の重心移動などにより操安性は悪くなります。逆に、サスペンションを硬くすると、操安性はよくなるが路面からの振動を拾いやすくなり乗り心地は悪化します。

 アブソーバ自身は作動油を封入した「シリンダ」「ピストン」「オリフィス」などで構成されており、車体の上下振動に伴う伸縮動作の際に、オリフィスを通過する油が伸縮エネルギーを吸収して減衰力を発生させます。このオリフィスを小さくすれば、サスペンションは硬くなり、大きくすると反対に柔らかくなります。つまり、1つのモードしか(どちらかの硬さにしか固定)できない場合には両者(柔らかい⇔硬い)の相反する要求を満たすことが難しくなります。

 こうした要求を実現するのがエレクトロニクスによる電子制御です。電子制御化することで、走行状態に応じて減衰力を多段階に切り替え、両者を両立できます。図2にサスペンション制御システムを示します。

図2 サスペンション制御システム

 コントロールスイッチによる設定モードと、各種センサからの情報を基に4輪それぞれのアブソーバの減衰力を切り替えます。減衰力の切り替え制御には、運転操作に応じて制御する「車速感応制御」などがあり、車体の動き(路面状況)に応じて制御する「あおり制御」や「ごつごつ感応制御」などもあります。車体の動きは複数のG(加速度)センサで検知します。アブソーバの上部のアクチュエータでロータリーバルブを回転してオリフィスを可変します。

 図3(A)にショックアブソーバを示します。上部に装着されたアクチュエータはサスペンションECUからの信号によりステップモータを駆動してロータリーバルブを9ポジションの角度に設定します。図3(B)にロータリーバルブを示します。ロータリーバルブは3カ所×2のポートと3カ所のスリットが設けられて9段階に可変できます。

図3 ショックアブソーバとロータリーバルブ

 また、上記のアクチュエータとしてのパルスモータの代わりにDCモータをアブソーバに内蔵したタイプやモータの代わりにピエゾ素子を使用して応答性を高くしたタイプもあります。

ステアリングと電子制御

 次は、「ステアリング(操舵(そうだ)装置)」の電子制御です。ステアリングの電子制御とは、つまり、「パワーステアリング(倍力装置)(以下、PS)」の操舵力を電子制御したものです。

 PSは、操舵力を軽減するための倍力装置であり、広く普及しているシステムです。

 仮に、PSの倍力比が一定にしか設定できない場合、据え切り(停車中にハンドルを切ること)時の操舵力を軽く設定すれば高速走行時のハンドル操作が軽くなり過ぎて危険ですし、逆に高速走行時に合わせて操舵力を重く設定すれば据え切り時や低速時にハンドル操作が重くなり過ぎます。

 当然、実際の自動車ではそんなことはありません。据え切り時や低速時には操舵力を軽く、高速時には操舵力を重くするように、エレクトロニクスの力できちんと制御してくれています。

 最近、電動PSが出回りはじめていますが、一般的にPS部分は油圧回路になっており、その油圧回路をソレノイドバルブで制御しています。油圧PSはエンジンの駆動力の一部を用いて常時油圧ポンプが作動しているのに対して、電動PSではアシスト(助力)トルクを必要とする操舵時のみモータを駆動してアシストします。従って、高速時などの直進走行時ではハンドルは動かしませんのでPSとしてエネルギーを使いませんから優れた低燃費を実現できます。

 図4に電動式パワーステアリング制御システムを示します。

図4 電動式パワーステアリング(PS)制御システム

 操舵トルク、エンジン回転数および車速からモータに流すアシスト電流を演算し、ステアリングの回転角センサから得た情報を基にモータを制御します。

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