最後に、乗員保護と電子制御の関係です。代表的な乗員保護システムには「シートベルト」や「エアバッグシステム」などがありますが、ここではエレクトロニクスとの関係が深いエアバッグシステムについて解説していきます。
いまでこそ、エアバッグシステムは当たり前のように搭載されていますが、エアバッグのアイデアが生まれたのは1970年ごろでした。当初は、車両衝突後にバッグを膨らませてもバッグが膨張し切らず、結局間に合わないのでは? と疑問視されていましたが、火薬を使い、ガス発生剤を燃焼させることで衝突後に瞬時にバッグを膨張させ、乗員保護を実現しました。
図7に電子制御による「SRS(Supplemental Restraint System)エアバッグシステム」を示します。SRSとは補助拘束装置という意味です。エアバッグが乗員の胸部や頭部を拘束して、ハンドルやウインドシールドなどに二次衝突するのを防ぎます。当然ですがシートベルトをきちんと締めておかないと効果がないことですが……。
図7 SRSエアバッグシステム |
車両が衝突しますと複数の「Gセンサ」が衝撃を感知します。ECUがGセンサの信号から“衝突”と判断するとインフレータを作動させます。そして、インフレータは電気ヒータで火薬に着火します。これが火種となり、エンハンサ(伝化薬)に着火してガス発生剤を燃焼させて瞬時に大量の窒素ガスを発生します。この窒素ガスによりバッグが膨らんで乗員を保護します。ちなみに、バッグには窒素ガスを逃がす穴が設けてあり、バッグが膨らむ衝撃で乗員がケガをしないように(乗員を柔らかく受け止めるように)工夫されています。ECUが衝突を検知してからバッグが完全に膨らむまでの動作は、およそ0.1〜0.15秒という速さです。
エアバッグシステムはなんといってもABSと同様に信頼性が重要です。当然、エアバッグは使われない方がいいのですが、一生に一度あるかないかのその瞬間に、確実に作動しなければなりません(技術者の方は設計にとても気を使っていることでしょう)。
衝突判定のカギとなるセンサは、通常以下の4つが搭載されています。
これらセンサの信号のロジック(論理)を取って衝突の判別をしています。このほか信頼性を増すために衝突時に電気配線が断線しても動作するようにバックアップ電源を備えています。また、エアバッグシステム全体の異常の有無を常時監視するダイアグノーシス回路も備えています。
最先端のエアバッグシステムでは運転席や助手席だけでなく運転席や助手席のニー(膝)エアバッグやサイドエアバッグが装着されています。さらに、エアバッグ作動時にはシートベルトを瞬時に引き込む「プリテンショナーシートベルト」などが装着されています。こうしたエアバッグシステムの進化は、部品メーカーや自動車メーカーが自ら衝突実験場を作り、何台もの自動車を衝突させてデータを収集し、製品に反映させることで実現しています。
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今回はサスペンション、ステアリング、ブレーキ、乗員保護における電子制御システムとの関係について見てきました。理解していただけましたでしょうか?
さて、次回は「ボディー制御/情報通信とエレクトロニクス」について詳しく解説する予定です。ご期待ください。(次回に続く)
【参考文献】 (1)「カーエレクトロニクス」 志賀 拡、水谷 集治/山海堂 (2)「自動車の電子システム」 荒井 宏/理工学社 (3)「クラウン新型車解説書・修理書・配線図集」 トヨタ自動車 (4)「セルシオ新型車解説書・修理書・配線図集」 トヨタ自動車 (5)「クルマのメカ&仕組み図鑑」 細川 武志/グランプリ出版 (6)「自動車のメカはどうなっているか―シャシー・ボディ系」 GP企画センター/グランプリ出版 |
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