欧米の一部報道では、HEREを買収したドイツ自動車メーカー3社は、HEREを中核としたデジタルインフラストラクチャのコンソーシアムを形成し、そこに米国や日本の自動車メーカーの参加を呼びかけると計画だ、としている。
筆者が知る限り、HEREが個別契約する企業の中に日系自動車メーカーも含まれている。そうした状況を踏まえれば、HEREをオープンソース化することで、自動車メーカー同士の調整を図るのではないだろうか。
だが問題は、HEREがあくまでもプライベートカンパニーであり、利益を継続的に追及する必要がある点だ。事業収入は自動車メーカーやティア1サプライヤから得るが、その利益をコンソーシアムに参画する企業に分散するというやり方では、しっくりとこない。
また、日系自動車メーカーにとっては「結局、コンソーシアムの主導権も利益も、大株主であるアウディ、BMW、ダイムラーが握ったままになる」という、奇妙な状況に陥ってしまう。ならば、ドイツ自動車メーカー3社連合が所有するHEREの株式を、コンソーシアムに今後参画する自動車メーカーと均等に持ち合うことになるのだろうか。
それとも、こうした“奇妙な状況”に嫌気がさすような自動車メーカーは、TomTom+ボッシュ陣営に流れていくのだろうか。
従来型の自動車産業のヒエラルキー、つまりサプライチェーン構造の中で、HEREはティア2サプライヤであり、ビジネスパートナーはあくまで車載情報機器メーカーであるティア1サプライヤだった。それが自動車IT革命による、テレマティクス、コネクテッドカー、さらにはIoTという新たなるビジネスストラクチャーのもと大化けして、自動車産業界のステークホルダーになってしまった。
こうしたケースは、まだまだ多く発生するのではないだろうか。
それは、半導体やソフトウェアといった電子技術分野だけではなく、“商流”に関わる分野など、多岐に及ぶ可能性が高い。
自動車産業が誕生して以来、百数十年が経過した。しかしこれから数年間は、これまでの自動車産業界の常識では「全く想定できない」ような、大きな異変が次々を起こるだろう。
今回のドイツ大手自動車メーカー3社によるHERE買収劇は、そうした産業構造の大転換におけるプロローグにすぎない。
桃田 健史(ももた けんじ)
自動車産業ジャーナリスト。1962年東京生まれ。欧米先進国、新興国など世界各地で取材活動を行う。日経BP社、ダイヤモンド社などで自動車産業、自動車技術についての連載記事、自動車関連媒体で各種連載記事を執筆。またインディカーなどのレース参戦経験を基に日本テレビなどで自動車レース番組の解説も行う。
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