JAMSTECと新明和工業が水中小型ビークル「HSV」と無人飛行艇「XU-MII」を用いた海域試験を実施。海中のHSVが取得した観測データを音響通信で洋上のXU-MIIへ伝送し、無人飛行艇によるデータ回収を確認した。併せて、XU-MIIの実海域での自動飛行と自動着水も確認した。
JAMSTEC(海洋研究開発機構)と新明和工業は2026年4月9日、兵庫県阪神港の芦屋沖で、水中小型ビークル「HSV」と無人飛行艇「XU-MII」を用いた海域試験を実施した。海中のHSVが取得した観測データを音響通信で洋上のXU-MIIへ伝送し、無人飛行艇によるデータ回収を確認した。併せて、XU-MIIの実海域での自動飛行と自動着水も確認した。
音響通信試験の概要。海底近傍で位置、方位、高度を保ちながら観測する水中小型ビークル「HSV」から、洋上に展開した無人飛行艇「XU-MII」へ観測データを音響通信で伝送した[クリックで拡大] 出所:JAMSTECと新明和工業のプレスリリース試験は、内閣府が主導する「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」の下で、JAMSTECや新明和工業などがJST(科学技術振興機構)から受託して進めている研究開発課題「海空無人機による海洋観測・監視・調査システムの構築」の一環として実施したものだ。
今回の成果で重要なのは、「無人飛行艇とAUV(自律型無人探査機)を組み合わせて効率的な海洋調査を行う」運用に向けて、実際に海中ビークルと無人飛行艇の間でデータ伝送を行った点だ。将来は、無人飛行艇がAUVを目標海域まで運び、着水してAUVを投入し、調査後に揚収して帰還するシステムを目指す。今回の試験は、その全体像に向けて、既存機材やスケール機を使い、システムとして成立するかを確かめる初期段階の実証に当たる。
HSVは、全長1.4×全幅0.7×全高0.6m、空中重量約100kg、最大潜航深度200mの水中小型ビークルで、機体下向きに光学カメラを搭載する。XU-MIIは、新明和工業が本研究課題向けの実証機開発に必要なデータ収集と課題把握を目的に開発した、今後製作を計画している実証機の5分の1スケールの無人飛行艇で、全長3.86m、全幅5.5m、全高1.05m。双発エンジンとプロペラで推進し、巡航速度は時速72km、ペイロードは10kg以上とされている。
JAMSTECの試験評価用水中小型ビークル「HSV」。全長1.4m、空中重量約100kgで、機体下向きに光学カメラを搭載する。今回の試験では海底画像と機体ステータスをXU-MIIへ送信した[クリックで拡大] 出所:JAMSTECと新明和工業のプレスリリース
新明和工業の無人飛行艇「XU-MII」。実証機の5分の1スケールで開発した機体で、今回の試験では実海域での自動飛行と自動着水を確認した。海面上で音響通信の受信側にもなる[クリックで拡大] 出所:JAMSTECと新明和工業のプレスリリース試験では、HSVが水深約15mの海底近傍で位置、方位、高度を自動的に保持しながら海底をカメラで撮影。取得した画像と機体ステータス情報を、音響通信装置を介して洋上のXU-MIIへリアルタイムに伝送した。伝送データ量は10秒ごとに約2kバイト。通信距離は厳密な値ではないものの30m程度、通信速度は0.5k〜4kbps、使用周波数帯域は11k〜15kHzだった。
水中音響通信を行う環境条件としては、試験海域が沿岸の浅い海域であるが故に、海面や海底からの反射/干渉が生じるマルチパスが発生しやすい状況といえる。JAMSTECと新明和工業も、今回の試験環境を「水中音響通信としては非常に厳しい環境」と説明する。
水中でデータを送る難しさは、空中や陸上の無線通信と大きく異なる。陸上や空中であれば、無線LAN、携帯電話網、衛星通信など、電波を使った通信手段を選べるが、海中では電波が吸収されやすく、極近距離を除いて電波を用いる通信はほとんど使えない。そのため、潜航中のAUVや水中ビークルの通信には音波を使う必要がある。
ただし、音波は水中を伝わるが、伝搬速度はおおむね秒速1500mで、電波に比べてはるかに遅い。距離が伸びれば遅延も大きくなる。さらに、海面や海底で反射した信号が複数の経路から受信側に届くマルチパスや、移動体間通信で問題になるドップラーシフトの影響も大きく、機体の動揺によるこれらの特性と通信品質の変動なども考慮しなければならない。
水中音響通信の評価指標として通信性能を「距離×速度」で評価する考え方がある。ただし、今回の試験は浅海のマルチパスが発生しやすい環境で実施したため、この指標だけで単純に評価することは難しいという。今回の試験は、無人飛行艇と海中ビークルから成るシステムについて、既存機材を使って総合的な行動や機能を確かめるための初期段階の実証という位置付けになる。
参考までに、今回使用した水中音響通信装置は、JAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」やAUV「うらしま8000」に搭載されているものと同じ処理基板を用いている。深海域では35k〜60kbps程度の伝送容量で通信しているという。今回の0.5k〜4kbpsという通信速度は、浅海域の厳しい環境に加え、無人飛行艇を通信プラットフォームとする実証だったという条件も踏まえて評価する必要がある。
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