HEREは、高精度な3次元地図データをはじめ、自動運転車を実用化する上で重要な技術を持つ企業だ。配車サービスのUberや、アウディ、BMW、ダイムラーの3社連合が買収に名乗りを上げるなど注目を集めているが、そのHEREの現在の事業展開はどのようなものなのか。同社のアジア太平洋地域担当本部長を務めるマンダリ・カレシー氏に話を聞いた。
自動車業界における次世代技術開発の大きな潮流として自動運転技術がクローズアップされて数年が経過した。2020年ごろを目標に、高速道路や駐車場など限定された領域での自動運転を可能にするための技術開発が進められている。
自動運転技術というと、車両に搭載するセンサーによる周辺の検知や、検知した情報を解析して運転操作を行う制御の技術に注目が集まりやすい。しかし、これらの技術は、自動ブレーキやクルーズコントロールといった先進運転支援システム(ADAS)の形で、部分的にではあるが既に実現されている。
自動運転技術をより高度化していくためには、車両に搭載するセンサーで得られる情報だけでなく、センサーの範囲外で起こっている事態も把握できていなければならない。そこで大きな役割を果たすとされているのが高精度の地図データである。
自動車向けに高精度の地図データをグローバルに展開できる企業はそう多くない。自動運転車を自ら開発しているGoogle(グーグル)と、PND(Personal Navigation Device)でナビゲーション業界を席巻したTomTom、そしてNokia(ノキア)の100%子会社であるHEREの3社が有力だ。
これら3社の中でもHEREを取り巻く環境は最近とみに騒がしい。2015年4月、親会社のノキアがAlcatel-Lucentの買収を発表した際、HEREの売却を検討していることを明らかにしたため、さまざまな企業が買収候補として取りざたされているのだ。配車サービスのUberや、Audi(アウディ)、BMW、Daimler(ダイムラー)の3社連合などが名乗りを上げているという。
こういった周りの騒々しさをよそに、HERE自身は従来の地図データだけでなく、車載情報機器プラットフォームや、自動運転技術の実用化に向けたクラウドなど、着実に事業展開を広げている。HEREのコネクテッドドライビング事業部 市場戦略本部 アジア太平洋地域担当 本部長を務めるマンダリ・カレシー氏に、HEREの沿革や事業戦略について聞いた。
HEREはノキアの100%子会社ではあるが、その歴史は1985年に設立されたNavigation Technologiesから始まる。欧米の自動車メーカー向けの地図データを中心に事業を拡大し、2004年にはNAVTEQに社名を変更した。
このNAVTEQに目を付けたのが、2006年に経路案内ソフトウェアを手掛けるGate 5を買収したノキアだ。2007年10月にNAVTEQを買収して、現在のHEREの母体となるロケーション(位置情報サービス)事業を立ち上げた。そして2012年11月に、ロケーション事業をノキアの携帯電話事業と分離して活動しやすくするため、独立企業として再ブランド化したのがHEREという名称だ。
HEREとなって以降も積極的にM&Aを進めており、高精度の3D地図データ作成技術を持つearthmineや、アナリティクス技術を手掛けるMedio Systems、パーソナライズ検索のDestiなどを買収している。
日本における事業展開の歴史も長く、2016年に20周年を迎える。日本の自動車メーカーや車載情報機器メーカーにとって、国内で用いる地図データについてはゼンリンやインクリメントP、トヨタマップマスターなどのベンダーがいる。しかし、海外市場で販売する製品に用いる地図データで選ばれていたのはHEREであり、HEREとしても営業拠点を日本に構え置く必要があった。
2014年まで、HEREのアジア太平洋地域の統括拠点はシンガポールにあった。しかし2014年末から、数多くのユーザーがいる日本国内に統括拠点を移した。カレシー氏は、「新横浜の新拠点は、営業スタッフだけでなく、製品開発やサポートの人員も入っており、大幅に増員されている。日本のお客さまにより良いサービスを届けられる体制になった」と語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.