電極が半固体の次世代電池で目指す、EVの課題解決電動化(1/3 ページ)

24Mテクノロジーズはリチウムイオン電池向けの電解液「Eternalyte(エターナライト)」のラインアップを拡大した。

» 2025年04月16日 07時30分 公開
[齊藤由希MONOist]

 EV(電気自動車)はバッテリーに起因するさまざまな課題を抱えている。まずはエネルギー密度の向上と安全性の両立だ。頻繁に充電することによる電池の劣化は車両の残存価値にも影響する。バッテリーの価格は一時期よりも下がったといわれているが、走行可能距離を確保するにはバッテリーの搭載量を増やす必要があり、車両の価格を左右する。また、バッテリーのリユースやリサイクルの経済合理性を確立することも求められている。

 米国マサチューセッツ工科大学発の電池開発会社24Mテクノロジーズは、電極が半固体の「半固体電池」によってこれらの課題を解決することを目指している。材料だけでなく、電池の構造や製造方法も含めて開発し、電池の性能向上とコスト低減を両立する。自社工場は持たず、材料メーカーや設備メーカーなど向けのライセンス供与を主なビジネスとしており、600件以上の特許を持つ。

24Mテクノロジーズが目指す電池の課題解決[クリックで拡大] 出所:24Mテクノロジーズ
24Mテクノロジーズの技術群[クリックで拡大] 出所:24Mテクノロジーズ

 自動車メーカーなどにとって製造方法から全く新しいバッテリーを採用するのは簡単ではないが、24Mテクノロジーズの電解液やセパレーターは単品でも使用可能であるという。

 24Mテクノロジーズは2025年3月11日、リチウムイオン電池向けの電解液「Eternalyte(エターナライト)」のラインアップを拡大したと発表した。これまではリチウム金属電池向けの電解液を展開してきたが、シリコンおよびグラファイト負極を用いた電池向けの電解液も開発した。優れた急速充電性能や低温性能、長寿命、高出力を実現するとしている。また、エターナライトを使用したリチウムイオン電池とリチウム金属電池は、USABCなどの安全性試験で高い安全性が確認されているという。

 エターナライトは従来の製造設備で取り扱いできるため、既存の電池製造プロセスにも導入可能だという。

電解液で電池はどう変わる

 エターナライトは高電圧安定性に優れ、電池過電圧を低減する。急速充電の性能を向上し、一般的に市販されているEVであれば4分以内に320km相当のエネルギーを充電できるとしている(SOC15%から80%に相当)。また、エターナライトは標準的なリチウムイオン電池の電解液と比べて3倍のイオン伝導度を示し(25℃で26mS/cm、輸率0.6)、エネルギー密度に大きな影響を与えることなく充放電性能を向上できるとしている。

 「リチウムイオン電池では、リチウムイオンと溶媒が一緒に動くのでイオンの移動が遅くなる。われわれの技術では、溶媒と一緒に動かない動かし方にすることで、リチウムイオンが動く速度と量を増やす。短時間の急速充電でも確保できる走行可能距離を増やせる。2分の充電で150kmを走れるようになる」(24Mテクノロジーズ CEOの太田直樹氏)

24Mテクノロジーズの太田直樹氏[クリックで拡大]

 イオン伝導率が高いため、極度の低温環境でもセルの性能を維持できる。従来の電解液は、−20℃では容量の80%を失う。EVとしては、電池パックによる断熱効果を加味しても20〜30%以上の走行可能距離を失う場合がある。エターナライトは1Cレート80%以上の容量を保持可能で、EVに使用した場合は低温環境でも走行可能距離がほぼ低下しないとしている。−30℃でも電解液が凝固せず、使用を続けることができる。

 24Mテクノロジーズでは、エターナライトのさらなるラインアップも開発中だ。eVTOL(電動垂直離着陸機)向けに超高エネルギー密度のセルを開発しており、飛行時の実負荷を検証するデモンストレーションを実施する予定だ。

エターナライトの特徴[クリックで拡大] 出所:24Mテクノロジーズ
エターナライトのリチウムイオン輸送特性[クリックで拡大] 出所:24Mテクノロジーズ
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