「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第2回で取り上げるのは、大型フェリーにおける最新技術導入の事例となる「さんふらわあ かむい」だ。
イマドキの海運業界は、環境負荷の低減に加えて燃料費を含む運航コストの抑制といった時代の要求に応えるべく設備の近代化と海事技術の研究開発を積極的に進めている。今回の「イマドキのフナデジ!」は前回の海上保安庁最新測量船「平洋」「光洋」に続き、大型フェリーにおける最新の技術導入事例として「さんふらわあ かむい」を取り上げる。
さんふらわあ かむいは、商船三井さんふらわあ(2023年10月に商船三井フェリーとフェリーさんふらわあが合併して発足)が運航する、苫小牧〜大洗航路向けに建造した大型フェリーである。船舶のCO2排出削減と燃費向上を目指して、LNG燃料にも対応したデュアルフューエル対応機関や、空力性能を最適化した独自の「ISHIN船型」、造波抵抗を制御する省エネ装置「STEP」を導入している。
全長199.4m、幅28.6m、総トン数約1万5600トンで、航海速力は22.5ノットに達する。旅客定員は157人で、13mトラック換算で約155台、乗用車約50台を収容可能だ。
内海造船の因島工場(広島県尾道市)で建造が進められ、2025年1月に就航した。商船三井さんふらわあでは、2025年夏に同型船「さんふらわあ ぴりか」も就航させ、2隻体制による1日1便の定期運航ダイヤを構築する計画を進めている。両船はともにLNG燃料対応と次世代省エネ技術を搭載しており、航路全体としての環境対応力を高めていく。
商船三井にとって、ひいては海運業界にとっても本船の導入は、観光需要の回復やトラックドライバーの労働時間規制(いわゆる「2024年問題」)といったモーダルシフトの推進を視野に入れた“戦略的な投資”ともいえる。特に深夜便を強化することで、長距離トラック輸送をフェリーに置き換え、ドライバーの負担を軽減しながらCO2排出削減にも貢献できるといえるだろう。
さんふらわあ かむいに搭載された主機は、LNGとA重油(軽油90%に少量の残渣油を混ぜたもの)のいずれにも対応可能な二元燃料エンジン(デュアルフューエルエンジン)だ。LNG使用時にはSOx(硫黄酸化物)をゼロ、NOx(窒素酸化物)を最大約80%、CO2を約25%削減でき、IMO(国際海事機関)が定める厳しい環境基準にも適合する。燃料を状況に応じて柔軟に切り替えられることにより、経済性と運航の安定性も両立している。
燃料供給に関しては、運航拠点となる苫小牧港で北海道ガスが2025年1月にLNGバンカリングを開始し、商船三井さんふらわあ向けに定期的な供給体制を確立している。供給方式はTruck to Ship方式で、スキッドと呼ばれる導管装置を用いて最大4台のLNGタンクローリー車を同時接続し、港内での迅速な燃料補給を実現する。
この方式は専用桟橋を必要とせず、初期投資と運用の柔軟性の面で優れている。国土交通省の資料によれば、一般的なスキッド方式では1時間あたり30m3(約13トン)の供給が可能とされている。
一方で、LNG燃料導入に当たっては課題も残されている。国土交通省の資料によれば、LNGは極低温での保管と取り扱いを必要とするため、専用の設備や技術者の確保が不可欠であり、船舶の設計や建造費用も高額になりやすい。
加えて、LNG燃料船には物理的な構造制約も伴う。その一例として別府航路向けに建造されたLNGフェリーでは、復元性の確保を優先した結果、トラックの積載台数を約10%抑制せざるを得なかった。バンカリング施設や供給インフラの整備が港湾ごとに必要となることもあり、普及には一定の時間とコストを要する。こうした課題に対応するためには、国と自治体、そして民間の港湾事業者が連携し、規格の標準化やインフラ整備支援などの制度的な後押しも求められる。
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