東京支社が入居するオフィスを日本橋から新橋に移転するとともに、首都圏に散在していたさまざまな機能を集約したデンソー。新たな東京オフィスを取り上げた前編に続き、後編の今回は東京エリアでの開発活動を強化しているソフトウェア、SoC、AIの取り組みについて紹介する。
世界トップクラスの自動車部品メーカーとして知られるデンソーは、2024年5月、東京支社が入居するオフィスを日本橋から新橋に移転するとともに、首都圏に散在していたさまざまな機能を集約した。今後の首都圏での活動については、新橋の東京オフィスと、羽田空港に隣接するGlobal R&D Tokyo, Hanedaの2拠点で進めていくことを決めている。
同社は2025年2月28日、新東京オフィスで会見を開いてその活動内容を紹介するとともに、同オフィスの一部を報道陣に公開した。本稿では前後編に分けて、デンソーが東京でどのような活動を進めているのかについて解説する。東京オフィスを紹介した前編に続き、後編の今回は東京エリアでの開発活動を強化しているソフトウェア、SoC、AI(人工知能)の取り組みについて紹介する。
自動車業界を取り巻く100年に一度の大変革を指す言葉となるのが「CASE」だ。コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化の英語の頭文字を取っているが、このCASEを推進する原動力として各社が開発を強化しているのが、ソフトウェアによって機能を定義される自動車であるSDV(ソフトウェアデファインドビークル)である。
SDV化によって自動車業界の事業構造は一変する。これまで自動車の一つの機能に対応するコンピュータとして開発されてきたECU(電子制御ユニット)では、複数のECUを一つにまとめた統合ECUの採用が拡大していく。2035年の統合ECUの市場規模は、2022年比で11倍の4兆9127億円に達するという予想もある。自動車1台分に搭載されるソフトウェアのコード行数も、2030年には2020年比で6倍の6億行まで拡大する。そして、自動車メーカーの売上高に占めるソフトウェアの比率は、2020年の5%から、2040年には38%まで増加するという。
デンソーは、クルマ全体の知見を活用し製品に仕上げる力となる「実装力」、質の高いグローバル開発力に基づく「人財力」、ソフトウェア人財育成プログラムや技術の標準化による業界貢献を実現する「展開力」によって、SDV化によってソフトウェアが占める価値の拡大に対応していくことをソフトウェアの基本戦略としている。同社 モビリティエレクトロニクス事業グループ ソフトウェア統括部長の西村忠治氏が「これら3つの力は、確かな技術/品質で安心できる基盤と、それを支える人財から構成されている」と語る通り、ソフトウェア戦略において競争優位性を獲得するために人財強化は欠かせない。実際に、デンソーグローバル全社のソフトウェア人財の数は2030年に現在の1.5倍となる1万8000人まで増やし、ソフトウェア事業の売上高規模も2035年に現在の4倍に当たる8000億円まで伸ばすことを目指している。
ただし、デンソーの開発拠点は本社のある愛知県刈谷市を中心に同県の三河地区にある研究所や製作所が中心であり、ECUに組み込む制御ソフトウェアもその多くを三河地区で開発している。東京エリアでは、モビリティエレクトロニクス事業グループ傘下の電子システム統括部、ソフトウェア統括部、セーフティシステム事業部、エレクトロニクス事業部が、三河地区の拠点などと連携しながらさまざまなソフトウェアの開発に従事している。
現在、東京エリアにいるソフトウェア人財数は全社の1割程度だが、その多くはIT業界の本社や研究拠点が多数ある首都圏で獲得している。組み込みソフトウェアの開発が中心の三河地区の人財と大きく異なるのは、IT業界での知見やノウハウを持つこと、自動車業界外の知識や経験が豊富な点にある。そこで東京エリアでは、IT由来の先端技術を取り入れた、コア技術となるプラットフォーム(PF)や先進安全システムのソフトウェアを中心に開発している。
西村氏は、多岐にわたる東京エリアの開発テーマから「業界仕様に準じたPFソフトウェア開発」と「先進安全システム開発」の2つを紹介した。
業界仕様に準じたPFソフトウェアでは、SDVの開発で重要な役割を果たすであろう、クラウドと既存のECUの間をつなぐ「界面」に関わるソフトウェアの開発を行っている。IT由来の技術に詳しい東京エリアの人財は、クラウドなどITシステムとの連携が不可避な界面のソフトウェアの開発にうってつけだ。また、自動車業界外の知識や経験があれば、ISOやIEEE、Eclipseなどの業界横断標準への対応も容易になる。デンソーのソフトウェア人財が、車載品質や自動車のドメイン知識、AUTOSARやJASPARなどの車載ソフトウェアの業界標準を強みとしていることに対して、東京エリアで獲得した人財が補完する関係になっているのだ。
先進安全システム開発では、ミリ波レーダーや画像センサーなど複数のセンサーの認識結果を融合するセンサーフュージョンによって自動緊急ブレーキを作動させるソフトウェアを開発している。このセンサーフュージョンでは、AI技術の融合も必要になっており、後述する東京エリアのAI研究部の成果が反映されているという。
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