2024年1月、デンソーのモビリティエレクトロニクス事業グループのエレクトロニクス事業部直下に設立されたのがSoC開発部である。System on Chipの略であるSoCは、複数の機能を1個のICに集積した半導体製品であり、これまでデンソー自身では設計/開発することはなかった。
同社 モビリティエレクトロニクス事業グループ エレクトロニクス事業部 SoC開発部長の杉本英樹氏は「SDV化によってソフトウェアの価値が拡大する中で、従来の制御システム向けの組み込みソフトウェアだけでなく、AIなどを用いた知能化/高度化にも対応する必要がある。IT業界と異なるのは、組み込みソフトウェアと併せてAIにも対応しなければならない点であり、そこで必要になるのが新たなSoCだ」と説明する。
SoC開発部が手掛けるSoCでは、100を超える機能やIPを1個のICに集積することになる。「かつてのSoCは1桁から2桁になるレベルの機能やIPを集積する半導体製品だったが、これから求められるSoCはそれをはるかに超えている。非常に複雑な処理をSoCに入れ込むには、デンソーが自ら踏み込んでSoCの要件や仕様を作成した上で半導体メーカーに示さなければならない」(杉本氏)という。
SoC開発部の人員数は設立時点で約60人だったが、現在は100人を超える規模まで増加している。そのうち8割が東京エリアに勤務しているので、SoC開発部の主体は東京エリアにあると言っていいだろう。開発テーマとしては、SoCに集積する機能やIPだけでなく、関連するソフトウェアや、複数のチップレットでSoCを構成する際に求められるパッケージ技術も含まれる。
杉本氏はSoC開発部の開発テーマから「最適化ツール」と「デンソーオリジナルNPU」の2つを紹介した。
最適化ツールは、これまで主に人手で行ってきたECUへのソフトウェア実装における最適化の作業をAIの活用によって自動化するものだ。自動車のECUは、顧客要求を基にハードウェアの設計とソフトウェアの開発を行ってから、人手でCPUのメモリ容量に合わせて最適化するのが一般的だった。これは、車載システムの開発において、ハードウェアの消費電力やサイズ、コストの制約が厳しいため、ハードウェアの仕様にソフトウェアをギリギリ収めるような最適化を行うのが当たり前だったからだ。
しかし、SoC開発部で開発するSoCを搭載するような統合ECUにおいてこの最適化作業は膨大になってしまいもはや人手で対応するのは難しくなる。そこで開発したのが最適化ツールである。SoCをはじめさまざまな半導体を搭載する統合ECUに対して、AIを用いた最適化シミュレーションによってソフトウェアパッケージを生成する。その上で、CPUに合わせた最適化作業もツールによって最適化することで、バグ撲滅によるソフトウェアの品質向上や半導体のコスト削減につなげられる。
デンソーオリジナルNPUは、デンソーが出資するQuadricと共同開発している内製のAIのIPだ。デンソーのRISC-VベースのプロセッサIPと、Quadricの「GPNPU(General Purpose Neural Processing Unit)」を組み合わせており、GPUと比べて大幅な消費電力を低減可能なのでエッジAIに求められる空冷でのシステム開発につなげられる。
GPNPUは、高効率のメッシュ構造のSIMD型であり、L2メモリとなる内蔵SRAMによって外付けのLPDDR5メモリへのアクセスを制限できる。GPNPUを構成するPE(Processor Element)を個別にクロック制御できるので、実効的な消費電力を低減しやすい。多様な演算処理にフレキシブルに対応できるので、既存のAIモデルの移植が容易なこともメリットになるという。
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