ここまでも何度も登場してきた通りSDVの開発においてAIは必須のものになっている。デンソーのAI研究は、先端技術研究所(愛知県日進市)と東京エリアのGlobal R&D Tokyo, Hanedaが連携して進める体制となっている。
デンソーのAI研究は、自動車領域で培ってきた技術にAIを融合し、業界を超えてあらゆる人や産業に「安心」を提供することを目指している。ここまで紹介してきたソフトウェア開発やSoC開発はSDV化への対応、つまり自動車の開発にフォーカスして活動している。一方、AI研究においては、自動運転のAIアルゴリズムに代表される自動車領域で得たAIに関する知見を横展開することも重要な役割になっている。
そこで、デンソーのAI研究を担うAI研究部のミッションは、まずは国内を中核としてグローバルに広がるアカデミア連携を起点に、AI研究部での活動の成果を、自動車分野をはじめさまざまな事業に展開するという流れになっている。同社 研究開発センター 先端技術研究所 AI研究部長の栗本直規氏は「AIの研究はボーダーレスにやれるので、東京エリアでもさまざまなことが行える。特にAI人財の確保という観点では、東京エリアの活動が重要な役割を担っていくだろう」と述べる。
栗本氏はAI研究部の研究事例から「疑似量子コンピューティング/量子コンピューティングによる人/物/エネルギー流の効率化」と「知識/ノウハウの継承と活用」を紹介した。
量子コンピューティングが力を発揮する分野として知られているのが組み合わせ最適化問題だ。デンソーはモノづくり企業として生産から物流に至るまで、組み合わせ最適化問題に直面しており、さまざまな知見とノウハウを有している。今回の研究事例では、古典数理最適化、疑似量子コンピューティングにおける独自の高速ソルバー「mk-D」の開発、産業技術総合研究所における量子コンピューティングを用いた組み合わせ最適化問題への実応用などの成果を、デンソー社内での物流改革における実用化、中継地輸送計画における実証などに適用している。
知識/ノウハウの継承と活用は生成AIの研究事例となる。製造業に蓄積された属人的なノウハウを生成AIによってナレッジ活用基盤に仕立てていくもので、「DAIKU(DENSO AI-assisted Knowledge Utilization Platform)」での標準化やデータ集約が進みつつある。最終的には、複数の専門AIエージェントの協調による各種作業の自動化なども見据えているという。
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