　世界トップクラスの自動車部品メーカーとして知られるデンソー。本社を愛知県刈谷市に置き、研究所や製作所などの拠点の多くを同県の三河地区に展開している。愛知、刈谷、三河のイメージが強いデンソーだが、近年は自動車における電子化の進展やソフトウェアが果たす役割の拡大に合わせて、デジタル人材の採用や同業界との接点強化に有利な首都圏での活動に力を入れている。

　そして2024年5月、東京支社が入居するオフィスを日本橋から新橋に移転するとともに、首都圏に散在していたさまざま機能を集約した。今後の首都圏での活動については、新橋の東京オフィスと、羽田空港に隣接するGlobal R&D Tokyo, Hanedaの2拠点で進めていくことを決めている。また、東京オフィスが入るビルに「DENSO」のロゴを入れるなど、従来以上にデンソーの存在を大きく発信している点でも、これまでの首都圏での活動とは異なっている。

　同社は2025年2月28日、新東京オフィスで会見を開いてその活動内容を紹介するとともに、同オフィスの一部を報道陣に公開した。本稿では前後編に分けて、デンソーが東京でどのような活動を進めているのかについて解説する。

創業時に東京出張所を開設、2016年から営業／渉外にとどまらない事業活動へ

　デンソーの首都圏における拠点展開の歴史は創業時から始まっている。1949年の日本電装の設立時には、営業機能の拠点として東京出張所を開設している。1989年には、東京支社に格上げするとともに、官公庁との連携を強化するための渉外機能を設置した。

　ここまではあくまで営業機能と渉外機能を有するだけだった東京支社だが、2016年1月に品川から日本橋に移転する。いわゆるCASE（コネクテッド、自動運転、サービス／シェアリング、電動化）時代を迎えて、最先端の技術トレンドの的確な把握、官公庁や大学、研究機関などとのさらなる連携、高度人材の継続的採用に向け、営業／渉外にとどまらない事業活動を行うためオフィススペースを拡張する必要があったからだ。安心／安全分野、新事業分野を中心とする技術開発部門、品川の東京支社とは別の拠点で行っていた高度半導体回路設計部門などを集約する方針となっていた。

デンソーの首都圏エリアの沿革［クリックで拡大］出所：デンソー

デンソーの横尾英博氏

　デンソーの首都圏での活動はここからさらに活発になっていく。2018年には、品川に高度運転支援および自動運転、コネクテッド分野の研究開発を行う「Global R&D Tokyo」を開設。これにより、刈谷の本社や東京支社のR&D機能の一部を移転、集結し、AI（人工知能）などの研究開発部門も首都圏に進出した。さらに2020年、羽田空港に隣接する羽田イノベーションシティにGlobal R&D Tokyo, Hanedaを開設した。Global R&D Tokyo, Hanedaは、自動運転の企画／開発を行うオフィスに加え、試作品の車両への搭載などを行う車両整備棟と、実車評価用のテストコースを備えている。これによって、デンソーの首都圏エリアにおいて研究開発から実車実証までを一貫して進められる体制が整備された。

　デンソー経営役員・東京支社担当の横尾英博氏は「首都圏エリアのデンソーグループの社員数は2015年時点の約800人から、2024年には約1700人と2倍以上に拡大した。その一方で、デンソー単体で6拠点、グループ会社含めると13拠点と広く散在していることが課題になっていた。そこで、新東京オフィスに営業、技術、新価値領域、広報渉外、IT、9つのグループ会社を集結することとした」と語る。実際にデンソー単体では、新東京オフィスとGlobal R&D Tokyo, Hanedaの2拠点、グループ全体でも5拠点と大幅にスリム化することに成功している。