鴻海が2025年4月に開いた事業説明会から、EVやSDV、バッテリー、サプライヤーに対する関氏のコメントを抜粋して紹介する。
三菱自動車が鴻海精密工業(Foxconn)傘下の鴻華先進科技(Foxtron)からEV(電気自動車)の供給を受けることを発表した。鴻海は自社ブランドではEVを販売せず、自動車メーカーへのOEM(相手先ブランドによる生産)供給に徹するが、スマートフォンなど他の分野の受託生産と同様にシェアを高め、スケールメリットの創出を狙う。
鴻海でEV事業の指揮を執るのは、自動車メーカーとサプライヤーの立場を両方経験してきた関潤氏。鴻海が2025年4月に開いた事業説明会から、EVやSDV(ソフトウェアデファインドビークル)、バッテリー、サプライヤーに対する関氏のコメントを抜粋して紹介する。
エンジンに比べるとEVは簡単で、パッと参入できるが、やっていくのは大変だ。高くて、不便で、もうからない。その状況は年々改善しつつあるが、まだ残っている。HEV(ハイブリッド車)の方がいいんじゃないかという話もあるが、EV化はどんどん進む。
地球上には80億人がいて、新車価格は2万~2万5000ドルほど。EVに限らず新車を購入できる人口は4分の1程度だ。EVを購入できる人はそこからさらに少なくなるが、「EVは高い」というと語弊がある。EVはいくらでも安くできる。今のEVは、やたらと大きく、過剰なコネクティビティや役に立つ場面が少ないADAS(先進運転支援システム)を搭載しているので高い。
現在は高額なEVが主流ではあるが、低価格帯のニーズが高まってきている。マイクロバスやタクシーでもEVの需要がある。タクシーのキロメートル当たりの走行コストは電気の方が安いので、タクシーのEV導入が進んでいる。ESGのためだけでなく、経済性で選ばれる。ガソリンなら1km走るコストが15円だが、電気なら5円程度になる。オイルやフィルターの交換といったメンテナンスコストでも差がつく。ただ、平均50万km走るといわれるタクシーにとってはバッテリーがネックになる。バッテリー交換で200万円かかるとなれば、1km当たり10円浮いたコストが吹き飛んでしまう。ここは改善する価値が大いにある。
EVは街乗りが得意だ。ブレーキを頻繁に使うので回生効率が高く、その分走行可能距離を伸ばすことができる。高速道路を一定の速度で走るのは、回生ブレーキを使わないためEVが苦手な領域だ。大型車であっても、市内を走るようなバスであればEVが向いている。1日の走行距離が決まっていればそれほど大きなバッテリーにする必要もない。電動車の長距離走行は、バッテリー交換ステーションや水素ステーションが高速道路沿いに普及するかどうかだ。まずはタクシーや路線バスなど走行距離が比較的短い領域のEVに取り組んでいく。
EVはテスラやBYDによって新車価格が下がってきた。新車価格が下がるのはいい面ばかりではない。EVを400万円で買った人がいて、そのEVが350万円でも買えるようになると、400万円で買った人にとってはクルマの残価が50万円下がったことになる。これは必然で、EVがHEVの価格に追い付くまでどんどん値段が下がっていき、残価の乱れも続く。
コンセプト企画からローンチまでのリードタイムは22カ月だ。ここからさらに詰めてもあまりメリットは増えない。22カ月は最初の取引先へのリードタイムであって、あるモデルを2社、3社と使っていくときにはリードタイムがほとんどかからない。
われわれがなぜEVを速く安く作れるのか。それはEVだからだ。レガシーもないので一足飛びで進めることができる。中国でキャッシュレス決済が一気に広がったのは、ATMがあまり普及しておらず、小額紙幣しか扱わないなどインフラが整っていなかったからだ。これまでに培ってきたレガシーがあるからこそ、新しいイノベーションが広がりにくいという状態はよく起きる。
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